大筆家にて
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
眩しくて目を瞑って──次に目を開いたときにはもう、僕らの文芸室はなくて。
絶対泣くと思っていたのに、視界に濁りは生じてなくて。
それは不思議といつかまた会えると思えたからなのかもしれない。
あるいは、泣いてしまったらずっとここから動けないような気がしたからかもしれない。
涙こそ流れなかったが、胸がぽっかり空いてしまったような感覚は否めなかった。
彼女の唯一の存在証明だった栞は、どうやら彼女が持っていったようで。
だけど、未だに手には彼女の温度が残っている気がして。
考える度に押しつぶされてしまいそうになるほどの重圧感が、あの体験は夢じゃなかったと、はっきり語っていた。
「……なんで僕は語れてるんですか?」
放課後。オカルト研の部室……ではなく。
最終下校時間が過ぎたので、伊規須神社の境内にある──大筆家に僕と楽はお邪魔している。
生け花や掛軸といったいかにも和を彩った部屋。
そんな華やかな料亭の客間で、僕たち三人は座っていた。
そこで、事が落着するまでの一部始終を僕は語っていた。
語れていた。
彼女と共に消滅するはずだったこの記憶。
夢で終わるはずだったあの物語のような出来事は、今も尚、僕の中にはっきりと残っている。
それは、反応を見る限り楽や大筆先輩も同じのようで。
裏話。照らし合わせ。答え合わせ。
そんな意味が含まれた後日談は大筆先輩のこんな一言から語られた。
「じゃあ……まずは術や術式とかの話は嘘だったってとこからはじめようか」
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狂ったように喜びます。




