校長の挨拶
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
入学式の記憶。
教師の話はもちろん、新入生代表の挨拶さえ覚えていない。そんなものだ。入学式なんて。
覚えていることを挙げるとすれば、某狩人ゲームのモンスターの咆哮並みに返事をした男子生徒ぐらい。
その後、先生からやり直しさせられるところまでがセット。
他に興味を惹かれたとするなら、校長の言葉のある一部分。
『──私は『不思議』という言葉が好きです。皆さんはこれから学校生活を通し、『不思議だなぁ』と思う現象に巡り合うかもしれません。
その時に大切なのは『わかんないからいいや』と『未知』のままにせず、『どういうことなんだろう』と理解をしようとすることが大切です──』
不思議──人の思考や説明が及ばない事象のこと。
「そんなもの、情報通信技術が発展した現代では解明されているものが多いだろ」と楽に言ったら「自分で考えることが大切だってことだと思うぞ」と返された。
さて、入学式が終わると自己紹介が始まる。
僕は無難に読書好きだと言った。
断じて他に特技や趣味がなかったわけではない。
……断じて、ない。(大事だから二回言っとく)
クラスからは想像以上の拍手が鳴った。比較的良いクラスなのかも。
次の次の番。
見るからに自信満々な坊主の少年が一発ギャグをした。
先ほどまでの拍手が嘘だったかのように重い沈黙が流れる。
生徒は勿論、先生まで拍子抜けした表情になっていた。
この教室だけ時間が止まっているんじゃないか、そう錯覚しそうになった。
……僕は、嫌いじゃなかったよ。
沈黙を断ち切るように僕は拍手をした。
さて長い長いホームルームも終わり、高校生活初めての放課後が来た。
せっせと帰る支度をし、連絡先を交換し合っているクラスから僕は一足先に出る。
──あれあいつだけ交換してなくない?
──え、誰か行ってやれよ。
──いや、そういうお前が声掛けに行けよ……とは思われたくないだろ?
……こんな被害妄想ばっかりしてるから、友達できないんだろうな……。
いや、違う。羨ましくなどない。……羨ましくなどないぞ。(大事だから二回言っとく)
だがこの時間帯。
窓から校門前をちらりと見ると、案の定その光景は広がっていた。
今か今かと待ち続けている先輩方の姿がそこにはあった。
部活の勧誘で花道のようになっているところを、すべて振り払い、一人で突っ切る気力と度胸を僕は持ち合わせちゃいない。
ちなみにここからでも運動部の声が聞こえる。
勧誘練習というより発声練習だな。
これから何をすべきか考えているところ、丁度よく頭に浮かんできたものがあった。
学校説明会で何が一番印象に残っているか。
そう訊かれ、真っ先に僕の頭に浮かぶのは図書室だろう。
登校中、楽から図書室にまつわる噂を聞いた。
言葉通りの唯一無二の本があるというらしい。
世界でたった一つの花ならぬ、世界でたった一つの本が。
だが。
どこにあるのかは誰も知らないとのことだ。
大きさも、形も、厚さも、ジャンルさえも。
分かっている情報があるなら、
──見つけたものは願いを叶えることができる
とか。
噂が流れ始めたのは今年の卒業式からだ。
海賊とか来ないだろうな?
もう一つ、僕が図書館に固執する理由があるなら。
高校入学前に誰かに図書室を行くように言われたような気がしたのだ。
…………。
……誰が僕に言ったんだ?
むしろ。
学校説明会で図書室の話だけを聞き逃さなかったのはそれによるものだった気がする。
思い出せないということは、もしかしたら、直接的ではなく、誰かと誰かの会話を間接的にを聞いただけなのかもしれない。
スマホを開き、時間を確認する。ちょうど正午を越えたぐらいだった。
せっかくだし、少し覗きに行ってみようか。
僕は進路を変え、図書室へと向かった。
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