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恋する少女





誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。

 

 今、私の隣ではスースーと寝息を立てながら、霜月さんが寝ている。


 何事もなかったのように。

 何も気にしていないように。


 いつの間にか霜月さんはここの部屋の常連さんになっていて、私と話すときもあまり目を逸らさなくなって、時々口角を上げてくれて──



 『──今更感あるけど、流石にこの距離は近くない?』



 私と霜月さんにとってはこれが普通になっているんだから、私がそれに同意してしまったら、関係性が普通以下になってしまうんじゃないか。


 だからと言って否定すれば、霜月さんは私を怪しむかもしれない。

 私の正体に気づいてしまうかもしれない。


 そう思い、咄嗟に誤魔化したり話題を逸らしたりして……霜月さんがその話題を取り下げてくれるのを待って。

 でも、やっぱりこれ以上霜月さんに嘘は吐きたくなくて。


 ……正体はまだ怖くて言えない。

 でも、胸の内だったら──


 『私は……私はまた独りになってしまうんじゃないかって──そう思ったんです』


 けど──


 私の本当を霜月さんが受け止めれくれなかったら? 


 明日晴──そんな名前が似合うヒロインは、ベースとなった私とは似ても似つかない。


『君は──』


 霜月さんが何かを言いかけた時──答えが目前になった時、私はせっかく出した勇気を有耶無耶にしてしまった。


『とか言ったらずっとここに来てくれますか?』


 その質問に霜月さんが肯定しようと、否定しようと──私はその答えを戯言として扱うことができる。


 仕方がないのかもしれない。

 もともと私は嘘のような存在なのだから。


 ……どうせ嘘を吐き続けないと私は霜月さんと──


 目元に涙が溜まってきて、笑顔を作っている口元が崩れそうになった時、頭に優しい感触が伝わってきて──顔を上げると、霜月さんが私の頭を撫でていた。


 よくわからなくて、嬉しくて、悔しかったけど、涙が流れなかったのは──霜月さんの優しい表情が、別に目元に涙が溜まっていたわけでも、唇が何かを堪えるように震えていたわけでもないのに──


 

──どこか私よりも泣きそうな顔をしていたから。


 

 そう思ったのも一瞬で「選択を間違えた」と言って、霜月さんは手を離していった。


 気づいたら、私の両手はそれを阻止していた。


 彼が驚いたような表情をしたので、意を決して私はまた胸の内を言った。


 震える声で、途切れる言葉で、弱々しくも。


 自分でも何を言っているんだと、頬が熱くなってくる。


 そんな雰囲気をぶち壊すように、彼は「うむ。間違えておこうじゃないか」と、まるで孫に語り掛けるようにそう言ったのだった。



「女の子としては扱ってほしいですけど、子ども扱いしてほしいわけじゃないんですよ?」


 今もスースーと、寝息を立てている霜月さんに小声でそう言う。


 今日は霜月さんのことをたくさん知れた。


 霜月さんは女子とあまり関わらないこととか。

 霜月さんが部活に入っていることとか。

 その部活の部員がイケメン幼馴染と……美人な先輩……だとか。


「……私には可愛いとすら言ったことないのに」


 でも、その先輩とは恋仲ではないらしい。

 何故なら霜月さんには──


「──私がいますからね」


 赤ちゃんみたいなほっぺを優しく突つきながら、霜月さんに向かってそう言う。

 ちょっとだけ不機嫌そうな顔をしたので、頭を撫でてあげると、少しだけ口角が上がった。


「…………」


 ……可愛すぎんか?



 ……まあ、と言っても霜月さんは恋愛的意味で言ったのではない。

 あくまで友人としてに違いない。

 

 霜月さんからしたら私はきっと娘や妹のようなものなのだろう。


 私の胸がもっと大きかったら現状は変わったのだろうか?

 ……考えても虚しくなるだけだからやめとこう。


「霜月さんの巨乳好きめ……どうせ貧乳の私には興味ないんだ」


 霜月さんは変わらずスースー。


「……私には魅力がないですか?」


 変わらずスースー。


「女たらし……」


 スースー。


 …………。


「……私」



 ……どうせ、こういう機会がないと言えないのだ。


 ……大丈夫、霜月さんは寝てる。言っても……気づかない。


「霜月さんのことが──」

 

 心臓の鼓動は早さを増していく。

 

 こ、これ、実は寝たふりで『最初から聞いてました』とかないよね……? 


 なんて言ったあとから後悔した(ちょっとだけ期待もした)が、数秒経っても霜月さんは変わらずスースーと寝息を立てたままだった。


「……聞こえてたなら、ちょっとぐらいビクッとしてくれてたかな?」


 私は結局想いを──言葉にはしなかった。 

 言葉にしてしまったら、私は認めなきゃいけない。


 認めてしまったら、気づいてしまう。解ってしまう。

 だから──


「……その前にお別れしないとですね」


 この気持ちまで嘘で終わらせないために。


 悪戯はこのぐらいにして私は霜月さんが読んでいた本を手に取ったのだった。








読了、ありがとうございました。


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狂ったように喜びます。

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