霜月と少女
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
彼が出ていった後、私は狐のお面を外す。
十一月の月の異名と同じ字で──霜月。
それが彼の苗字だった。
霜月──その下にはどんな名前があるのだろう。
そう思って名前を訊いたが「言ったら名前で呼ばれそうだから言わない」と言って、彼は教えてくれなかった。
なので、それには少しむっとした。
そんな私を前にしても彼の無っとした対応は変わらず、挙句の果てには本を開こうとしていた。
男の子と喋ったことなんてないのに──勇気を出してこっちは仲良くしようとしてるのに──あまりにも素っ気ないというか、なんというか……。
でも彼は──霜月さんはまたここに来てくれる約束をしてくれた。
保証はないし、確証はない。
だけどきっと、彼はまたここに来てくれる。
ならば、私の存在意義は今から──約束してくれた彼を待っているってことにしよう。
うん、我ながら結構ヒロインっぽいのでは?
何も見えない暗闇の中に光が灯ったような感じがした。
「……ヒロイン──ああ、そっか」
──私はずっとヒロインに憧れを抱いていた。
思い出したように思い浮かぶ。
だけど思い返してみても、そんな思い出は見当たらない。
浮かんできたということは沈んでいたということ。
なら、心の底ではそんな願いに焦がれていた?
真っ先に思いついたのは白髪の男子生徒と、ポニーテールの女子生徒。
順当に考えれば、それぐらいしか……けど、違うような……
じゃあ──……いや。
「私にそれ以前は存在しないんだから……それはないか」
そう思った原因ははっきりとは分からなかったけど、兎に角私はヒロインに憧れていた。
だから彼と話している時、私は自分の好きなヒロイン像を必死に演じたのだろう。
明るくて元気で、近くの人を笑顔にするような──そんなヒロインを。
霜月さんはそれで言うと難敵で、難攻不落だったので、とりあえずボケ倒した気がする。
それでも彼はピクリとも口角を上げなかったけど、代わりにツッコミでバランスを取ってくれた。
「楽しかったな」
そんな一人言が出る。
最初の方は上手く話せるかと心配だったが、むしろ話していくことで──透明だった私は色づいていった。
「……最初の方」
そこまで考えて一気に羞恥心が沸騰しだす。
「そうだった……私、抱きしめられたんだった!?」
強く引寄せられたかと思ったら、優しく包み込むように彼は私を抱きかかえた。
彼の感触はまだ私の身体に残っている。
さりげなく口にしていた『君が無事でよかったよ』という言葉も。
…………。
「っ~~~~~!」
声にならない声と共に私は悶える。
……あれか?
私が霜月さんを笑い落そうとしていたことと同じように、霜月さんも私のことを恋に落とそうとしていたってことか?
……いや、違う。
あれは計算じゃない純粋な気持ちだった。
本気で私に怪我無いことにホッと安心したような言葉の柔らかさだった。
無愛想だけど。
無気力そうに見えるけど。
実は単に不器用なだけなのかもしれない。
それが証明されるのにあまり時間はかからなかった。
今も尚、ほろ苦い思い出として私の中で残っている。
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狂ったように喜びます。




