囚われの少女
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
──いつからだろう、私がここにいるのは。
ふと、目を開けると私は椅子に座っていた。
ただ、座っていた。
前触れ見なく、唐突に。
頬に線を書かれるような感触……なんだろう?
触ってみると液体だった。
涙だった。
私は泣いていた。
泣いていたけど、嗚咽はない。
ただ、涙が流れているだけ。
嗚咽はないと言ったが、どこか切ない気持ちはある。
なんというか、失恋したかのような、そんな淡くて脆い気持ち。
でも、私が失恋したわけじゃない。私は恋を知らない。
私のものでないのなら、つまりは誰かの失恋だ。
誰のだろう?
その前に、私は誰なんだろう?
名前は……名前は──あすは。
明日は晴れると書いて明日晴。
苗字は……ない。……気がする。
年齢は十五。
……十五歳にしては胸と身長が平均よりも少し小さめな気がするが……十五だ。
鏡がないので容姿を完全には把握できないが、見下ろしても、触っても──ぺった……スレンダーだった。
現状、私は名前と年齢以外の記憶が一切ないらしい。
記憶はないけど十五歳という年齢相応の知識は持っているようだった。
記憶喪失なのだろうか?
それは少し違う気がする。
どちらかと言えば、世界五分前創造仮説の方が合っている──というかそういう存在なんだろう。
この状況にパニックにならない時点で、受け入れてしまっている時点で、そういうことなんだろう。
時間の感覚はよくわからない。
ゆっくり流れている気もするし、物凄い早さで突っ走ている気もする。
周りを見渡すと──旅行に行った時のお土産だろうか? そういう置物がちらほら。
誰かがここに残した──というより置いていった。
誰が?
わからない。
そんな気がしただけ。
扉や窓があったので、何度か開けようとしたことがあったがびくともしなかった。
物理的じゃなくて原理的な問題なのだろう。
窓の景色は見れたが、林しか見えなかった。
それでも、林が風に揺られてザワザワとしているところを見ていると気分が安らいだ。
窓を見ていると時々、生徒や先生のような人達を見かけることもあった。
野球の流れ弾だったり、落ち葉掃きなどで。
そういう時、決まって私はここに閉じ込められているのだと痛感した。
外に居る人たちが輝いて見えた。
羨ましかった。
ここですることと言えば、机の上にある、この部屋唯一の本──国語辞典を読むことぐらい。
内容を頭に入れているというより、文字を見るようにして、私はそれを読むのだった。
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