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創作と添削

誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。


 僕は嘘をついた。


 今、語ったのは紛れもなく僕が考えた推論。


 そう。文字通り()()()

 言い換えれば、創作した。


 中学生の僕は気づいた。僕が楽と一緒にいることで、楽にとって何かしらのデメリットを生むことになると。

 その何かしらの点については合っていると断言できないが、デメリットを生むという点は確かだと思う。


 この部分まではきちんと僕の推理したところだが、その後のぜんぶは、どうしたら僕を納得させられ、いかにしょうがないと片づけることができるかを重視した、僕の作り話だった。


 本当に僕が推察したことはこうだった。



 中学生の僕は責任を投げる前に、一つモーションが加わっていた。

 これもまた小説を読んで、発想力が増したことによる、被害妄想に過ぎない。


 あくまで妄想だが、責任を投げる前に僕は──期待したんじゃないのか。

 

 そんな被害妄想の酷い自分も変わることができるんじゃないかって。

 弱い自分を否定してくれるような僕になれればいいな、と。



 ──楽とは高校になったら距離を置くべきだ。



 このままだと距離を置くことになる。だから、それが嫌なら変わってみせろ。



 中学の僕は、そうしなければよくないことが起きると警告するかのように、そうしないために今変わるしかないと忠告した。

 でも。


 一週間前の朝食がパンだったかご飯っだったかなんてことは、自然と頭から抜け落ちていくのと同様に、僕は時間経過と共に、言葉の本質をだんだんと忘れていった。


 そして忠告の消えた警告は、いつしか根拠のないただの偏った考えになってしまった。



 ──以上が本を読んでいる時、僕が導き出した推論である。


 でもその考えに達したとき、ちょうど楽が男子生徒二人と会話しているのを見た。

 するとどうだろうか。

 

 僕の中で孤独を浮き彫りにしたような感情がドクドクと溢れ出た。


 僕はこの感情を知っていた。


 息苦しさと、生きづらさだった。


 まるで連想ゲームのように、気がついたら嫌でも想像していた。

 孤独になるという意味を。


 息苦しい状況を作ったのは、自分の首を絞めたのは他でもない僕自身だ。

 期待したはいいものの、きっと僕は途中で諦めてしまった。

 投げやりになってしまった。


 ──全部自業自得だった。


 そんな自己嫌悪から逃れたくて僕は……楽と距離を離すための、それらしい理由を模索し、勝手に物語を作り上げた。あたかも悲劇のヒロインのように自分を演出した。


 状況を俯瞰できている今、それは僕が冷静になっている証拠でもあった。

 そして今すぐすべきことは保育園児すらわかる単純明確なことだった。


 ……謝ろう、楽に。 


 僕は俯いていた顔を前に上げた。再び頭を下げるために。



 廊下の端によって、真逆の方向──後ろへと進路を変更するため振り向くと、そこには──楽がいた。


「なん、で……?」


 楽は「いや当たり前だろ」と言いたげな顔をして立っていた。


「本心で言ったことじゃないぐらいわかるっつーの。幼馴染なめんなよ?」

「でも、僕は──」

「──一方的に突き放すような言動をしてしまったって言いたいんだろ」


 今度は僕の言葉に楽が覆いかぶせるように話す。


「さっきの言動には悪意が微塵も感じられなかった。それどころかお前の表情からは、どこか申し訳なさみたいなのが伝わってきた。本当に突き放したかったんだったら、捨て台詞みたいになるはずだろ」


「これ以上俺に近づくな」だったり、「俺、お前のこと嫌いだから」とか、と。


「それは、……そうだけど……」

「それと、なんで、……だったか?」と僕の言葉を無視するように楽は続ける。

「──俺はお前と一緒に居たいから一緒に居続けてきた。一方的に突き放されたなら、一方的に突き寄ろうとするのは当然だろ」


 今度は「馬鹿かお前は?」と言う目で見てくる。


「またペア作る時、……僕確定になるんだぞ」

「いいよ、別に。お前、運動神経良いし」

「クラスの打ち上げの日は、二人だけでラーメン食うことにだってなる」

「いいよ、俺も打ち上げ苦手だし。……知ってんだろ?」


 楽は二ッと笑う。だがその表情は珍しくどこか曇っているような感じがした。



 『──もう、やめてくれっ……』



 っ……。

 ……ああ、そうか。そうだ、僕は──


 テストでよくわからなかった問題の答えが、一瞬ぼやけるように見えて、その一瞬の間に一度でもはっきり見えたら、繊細に答えを思い出せるように──僕はすべて思い出した。


 あの日、あの事件で傷を負ったのは僕だけじゃなかった。


 あくまで僕は被害者面した加害者で、楽は僕の動機であり、一番の──被害者だった。


 僕はまんま、中学の事件を──傷を掘り起こし、かき乱し、えぐるような人物だった。


 だから僕は──僕が楽と一緒に居ることで、楽はずっとあの事件を思い出してしまうんじゃないか。

 ずっと痛みを引きずってしまうんじゃないか──そう思ったんだ。


 そして環境が変わる高校を転換点として目障りにならないように、視界に入らないように、思い出させないように。

 

 距離を置くべきだと結論付けた。


 事件以降。


 中学ではその件を話すこと自体が禁止になり、無論、僕と楽間でもタブーとなった。


 そんな対策もあってか。


 楽は僕とは対照的に人間不信にはならず、次第に表情も明るくなっていき、事件の面影を見せなくなるほどに回復した。

 

 そしてまた、周囲を元気づける笑顔を振りまくようになった。


 中学生の僕はなによりも。


 なによりも楽の笑顔に元気がなくなっていくことを恐れた。

 それこそ僕が孤独になる以上に。


 笑顔が完全に消えた時、藤解楽は壊れてしまう。

 大袈裟に例えるなら、人でなくなってしまう。


 ──そう確信していたから。


 若き日の僕は、問題を先送りにしたわけでも、責任と記憶を放り投げたわけでもなかった。


 というよりむしろ。


 この先の問題に備え、楽を傷つけないために記憶さえも消した。

 ……いや、消したという表現には少し語弊があるかもしれない。


 実際、今こうして鮮明に思い出しているのだから、そうではないのだろう。


 おそらく、見ないようにした。

 僕自身もあまり事件を思い出さないように無視した。


 イメージするなら──……いや、なんか、自分でもよくわからくなってきた。

 

 そもそも意識的に記憶を思い出さないようにするなんてことできるのか? 

 いや、今実際それを体感してるけど、実感がわかない。


 ただ、今思い出した内容は元あったところに戻るかのように、僕の海馬に馴染んでいた。


 ……なんで、僕はそんなことができた……? 


 

読了、ありがとうございました。


もしよろしければ、広告下、星の評価【★★★★★】とブックマークをしてくださると、大変嬉しいです。

狂ったように喜びます。

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