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覚めない夢

誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。

 翌日。土曜日。


 僕は目を覚まし、昨日、変な夢を見たことを思い出す。


 文芸室が文芸部の部室になっているという悪夢を。


 僕は昨日、いつ寝たのだろう。


 いつからが夢だったのだろう。


 スマホを手に取ると、時刻は七時。

 通知に『一軒のメッセージ表示』と書いてある。楽からだった。


『おい、光。お前、オカルト研来なかっただろ。気になってあの後玄関行ったら靴なかったし、いつ帰ったんだよ』


 昨日の夕方四時半。


 『ごめん。確か楽が昨日代わりにゴミ出してくれたんだっけ?』……っと。


 返信して数十秒後、既読が付く。


『ああ、ちゃんと出しておいた。そういえば、昨日の急用は済ませたのか?』


 放課後教室を出るまでは現実……ってことはあの噂も、か。

 それ以降の記憶が夢とすると、教室を出て僕は家に帰ったってことになるけど……。


 そんな記憶はなかった

 僕は昨日、文芸室に寄ろうとして、文芸部の部室を見た後帰って、お風呂に入って……寝たのだから。


「……だから、違う。それは夢の話だ」


 とりあえず楽のメッセージに返信する。


『いや、まだだ。だから今から済ましてくる。昨日はありがとう、楽。今度ジュース奢るから』

『分かった。気を付けて行けよ』


 十数秒後送られた楽のメッセジーにスタンプを返信して──僕は制服に着替えた。



 * * * 



 文芸室前。


 今日は土曜日だからか、文科系の部活が集まる旧校舎にはほとんど人がいなかった。


 だから彼女もいないかもしれない。


 それでも確認しておきたかった。安心しておきたかった。

 僕は悪夢から覚めたんだと何か証拠になるようなものが欲しかった。


 僕は鍵を差し込み、半回転──


 ……手ごたえが、ない……?


 まさかと思い、ドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。


 そうだ、明日晴さんが帰る時は鍵開けっぱなんだったけ。

 鍵を持っているのは僕だけなんだから当然か。


 ──昨日、僕が鍵を開けたまま帰ったからじゃないのか?


「違う……もう、夢からは覚めたんだ」


 きっと、元通り。



 元通りに──



「……まあ、明らかにこっちが元だよな」


 目の前には火器や水道がある文芸室ではなく──本棚がある文芸部の部室が広がっていた。


 もう言い訳することはできなかった。

 これは紛れもない現実。


 それについては昨日の段階でなんとなく、解っていた。

 夢なんかじゃないって。


 ただ、現実を受け入れられなかっただけだ。


 そして昨日、現実逃避するようにここから去ったのは、文芸室が文芸部の部室になったから──それもあるけど、本当の理由は──


「……ああ、そうか」


 ──例え夢の中の出来事だったとしても、僕が一番恐れていたのは──



 保健室。


「失礼します、一年B組の霜月光です」

「あら、こんにちは。どうしたの? 具合が悪いの?」

「そう言うわけじゃないんですけど……一つお聞きしたいことがありまして」


 保健室の先生は歴史の教師との同級生で有名だ。


 応急手当、カウンセリング、生徒の健康状態の把握。

 すべてのこの先生一人が担っている。


 まさにベテランと言う言葉が似合う保健室の先生。


 人柄も良く、昼休みに保健室に遊びに行く生徒も少なくない。


 そんな先生とお話し……と言えばお話しなのだが、とある目的で僕はここに立ち寄った。


「聞きたいこと?」

「はい。保健室登校の一年生の話なんですけど………」

「……保健室登校の一年生? ごめんなさい、二年生でも三年生でも私の知る限りじゃそんな生徒いないわ」

「……じゃあ、不登校の一年生の生徒ってどのくらいいますか?」

「えっと……不登校はいないわよ? あ、でも一人海外留学している子はいたわね」


 不登校はいない。

 一人海外留学している子がいる。


 それは僕の隣の席の──


「それって名無不(ななず)さんのことですよね」

「そうそう。名無不(ななず)(あかり)さんのことよ。友達なのかしら?」

「そういうわけじゃないんですけど、席が隣なんです」

「……聞いてもいい? どうしてあなたは一年生に保健室登校や、不登校が居るか聞いたの?」


 それは怪しんでいるというより、心配してくれているようなニュアンスだった。


「……すみません。なんか、最近嫌な夢を見ちゃって……でも、先生と話せて少し楽になりました」

「そう、それはよかったわ。疲れているならベッドで寝てってもいいわよ? 今日は土曜日で私午前出勤だから、お昼には起こしちゃうけど」

「いえ、大丈夫です。この後用事があるので、ここで失礼します。ありがとうございました」

「最後に。何か話したいことがあったら、いつでも相談に乗るからね」


 一礼して、僕が保健室を去ろうとした時、保健室の先生がそう声をかける。


 ……隠していたつもりだったけど、案外、顔に出てたのかな。


「僕も最後にもう一つだけいいですか」


 自分の首を絞めるだけだ。

 そう分かっていたから、あえて聞かずに去ろうと思った。


 ……でも、もしかしたら──


「明日は晴れると書いて──って読む生徒ってこの学校に存在してますか」


 保健室の先生は「ちょっと待ってね」と言った後、生徒名簿が一覧になっているファイルに、今僕が言った名前を検索した後、


「そんな生徒は──」



 ──この学校には存在していない。



「名前の間違いとかじゃなくて?」

「そうかもしれないです。はっきりしたら、また来ます」


 もう一度一礼して僕は今度こそ保健室を去る。


 ……昨日、文芸室が消失して僕がいち早く思ったのは──



 文芸室が消えた。


 じゃあ、その中に少女がいたとしたらどうなる?


 

 ──そんなの文芸室と一緒に消えるに決まってる。

 






















読了、ありがとうございました。


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狂ったように喜びます。

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