文芸部の部室
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
──日本で……。
久しぶりにクイズが出題される。
一度聞いた時と同じで、低くて張りのある声。
なんとなく、髪をきっちり整えた、メガネの先輩を想像してしまうような声。
問題を最後まで聞かず、僕はクイズ研の部室を通り過ぎる。
それは、東大王のように問題を予測し、既に答えを導き出したからというわけではなく、単純に急いでいるからだった。
どうやら生徒が部室へと向かうピークは終わっており、大抵の生徒は既に部室の中だったため、何事もなく僕の現在位置は旧校舎の半分以上に差し掛かっていた。
なんとかここまで来たものの、油断は大敵。
周囲の警戒は怠らずに僕は歩を進み続け──ようやく文芸室に辿り着く。
早歩きをしたからか止まるとふぅー、と自然に一息ついた後、今一度僕は後ろを振り返る。
……よし、大丈夫だな。
もう少し確認したほうがいいのかもしれないが、ここで立ちっぱなしというのもそれはそれで危ない。
僕はドアノブを握る。
ガチ。
……よかった。
鍵がかかっているということは、とりあえず明日晴さんはこの中にいるようだ。
本人はもう噂を知ってたりするのだろうか。
だとしたら僕の説明の手間も省けるのだが。
僕はポケットから鍵を取り出し、鍵穴へと差し込み、半周回しガチャリと音を鳴らす。
鍵を抜きポケットにしまってから、扉を手前に引く。
ギギーという音を立てながら扉が開く。
早くこの緊張感から逃れたいと一歩踏み込んだところで──
踏み、込んだところ、で?
踏み込んだ……?
踏み……………?
…………………………………………?
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──心臓の動きまで固定されているような──さながら鷲掴みにされているような感覚に陥いった。
声は出ず、この光景にも、うまく、ピントが合わない。
何も聞こえないというより、キーンという耳鳴りを感じていて、自分の息遣いが荒くなっていることを、若干の視界の揺れにより、気がつく。
──ギ、ギギー……ドンッ……──
頭の中が真っ白になっている僕を──僕を現実に引き戻すかのようにドアが閉まって、耳に残っていた鈍い音が合流したかのように、今の音と共に──消えていく。
同時に視覚、聴覚がだんだんと鮮明になってくる。
目の前の光景を視覚が真っ直ぐに捉える度、僕の中で恐怖が生まれていく。
自分の息遣いの荒さを聴覚がはっきり捉える度、僕の中で焦りが生まれていく。
それなのにこの場から固定されたように動けない。
まるで金縛りにあったように。
何かを見たくなくて、僕は目を瞑ろうとする。
しかし、現実を見ろと示唆されているように瞬き一つすらできない。
それどころかより一層、見開くばかりだった。
これ以上は、認識したくない──そんな思いに反して僕の眼球は上下左右に動く。
──何の変哲もない部室。
──鍵がかかっていた部室。
──ここは文芸部の部室。
僕の視界はそれを伝えている。
僕の目の前には文芸部の部室がある。
でもそれは僕が知っている文芸室ではなく──あくまで文芸部の部室だった。
天井すれすれまでそびえ立つ本棚。
木製の作業机。
その上に少し乱暴に置かれた、というより散らかった文房具。
当然、可燃物が多いので、コンロなどあるはずもなかった。
狐の面も、達磨も、サンタの帽子などの置物も、まるで最初から存在してなかったかのように──消えていた。
本来の──あるべき姿の文芸部の部室がそこにはあった。
情景は把握したのに、状況を僕は理解できなかった。
ただ──本能が、筋肉が、血管が、細胞が、
『ここから離れろ』
そう僕に伝えていた。
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