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照らされる月

誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。

 

「霜月さん、顔が怖いですよ? 嘘告でもされたんですか?」


 声の方へと顔を向けると、見続けていると吸い込まれてしまうんじゃないかって思うほどの綺麗な瞳が、不思議そうに僕を覗き込んでいた。


 仏頂面が得意な僕が……怖い顔か。

 確かにアルカイックスマイルをしていない仏像はどこか怖さを感じる。


「嘘告か……」


 嘘惚れならしてるのかもしれないけど。


「あれ、違いました? てっきり告白してきた女子に──何があっても絶対惚れさせて絶対告白させて絶対に断ってやるっ! ……と復讐を誓っていたのかと。

 もしそうでないと言うのなら、なんでそんな怖い顔を?」

「……そんなに復習に燃えるような感じだったの? 僕の顔は」

「燃えると言うより、冷ややかなって感じでした。瞳孔ガン開きすぎて今から人を殺そうとしているのかと思ったほどです。え、でもその場合この場にいるのは私だけ…………も、もしや霜月さん……私を殺そ─」

「──うとしてたわけないだろ。なんだそのバッドエンドは。誰も見たくないし、あまりにもシナリオが雑すぎる。……ただ考え事してただけだよ」

「えぇーっ!? あ、あのいつも何も考えてなさそうな……読書だけが生きがいの霜月さんが!?」

「帰る」


 楽も明日晴さんも脳無し扱いしやがって……。

 もしくは間接的に能無しとも言われているのか? 言葉遊びしやがって。


 登校時と放課後の二つのディスリが一つに交わり解を示し、言動通り席を立つ──ふりをしようとしたところ。 


 僕が席を完全に立とうとする前に明日晴さんがガバっと引っ付いてきた。


 あたかも構図は、僕が自殺をしようとしていてそれを必死に明日晴さんが止めているかのようなになっていた。


 なので僕の足元は一瞬グラつき不安定になり、ほとんど反射でテーブルに手を置いてなんとかバランスを保った。


 明日晴れさんも咄嗟の行動で何も考えていなかったのか、色々な感触が僕の胸下から腰にかけてじっくり伝わってくる。


 ちょ、まっ──


「……どこにも行かないで下さい」


 そうだった。


 『帰る』っていうこの言葉は彼女の孤独感を煽るような言葉だったんだっけ……。


 ……気を付けていたつもりが、楽と似たようなこと言われたからか気が緩んでしまったらしい。


 弱々しい声と甘い匂いが誘惑してきて、頭がクラクラとすると同時に鼓動もだんだんと速さを増していく。


「っ……わかった、わかったから一旦離れよう」

「とか言って私が離した瞬間にどっかに行っちゃいませんか……?」


 なんでそんな可愛い声で甘えてくるんだよ。……心臓に、悪い。


 不覚にドキッとしたかと思えば、さらに腹に巻き付く腕の力が強くなり、伝わる感触は『これでもかっ!』といった具合になった。


 ああ、マジでこいつは人の気持ちも知らないで……。

 僕じゃなかったら今頃抱き返して……ってそれは今僕がそうしたいと思ってる証拠──じゃなくてっ。


 一応僕も男なのだから、男らしさがなかったとしても男性の機能はちゃんと平常運転するようになっている。


 それも高校一年生相応の理性(ブレーキ)なので……流石にこれ以上は、意識(ハンドル)に反し暴走する可能性がある。


「……帰らないってきちんと言葉にしてください。そしたら、離れますから」

「わかった、帰らないっ、絶対に帰らないからっ、その、……離、れて……」


 自分でも情けないと思ってしまうほどの声。


 ──そうしてやっと明日晴さんの腕がするりと解けたので、へなっと脱力するように僕は椅子に座った。


 着席して僕の理性は落ち着きを取り戻したが、心臓に関しては鼓動の加速は止まったものの、まだ十分早い速度で走り続けていた。


「…………」

「…………」

「……こ、この程度であたふたするなんて。やっぱり可愛いですね、霜月さんは」


余裕をかましてそうな発言をしたものの、明日晴さんの耳は本心を示しているかのように赤く染まっていた。


「……ああ、やっと自分の大胆な行動に気づいたか」

照月(てれつき)さんがどこかに行こうとしたせいです。私は別に照れてなんか……ありませんけど」

「誰が照月だ。……ああ、そうか納得した。僕の照れに可愛いって言ったのも、今照れている自分に可愛いって言ってほしかっただけってことか」

「なっ、勝手に納得して私を照月さんの照れに巻き込まないで下さい! そんなこと一ミリも言われるまで考えもしませんでした、本当です。

 …………。

 ……考えもしませんでしたけど……ま、まあ、霜月さんがどうしても言いたいというのなら、聞いてあげようじゃありませんか」

「いや、別に言わないけど」

「そこは言ってくださいよ!? 言わないことによって、私がちょっと期待したみたいになっちゃうじゃないですか!」

「期待されるほどの能力が僕にあると? ……どうせ僕は読書好きってこと以外印象がない人間なんだよ」

「……霜月さん意外と繊細なんですね」


 というかここで言えてたら、さっきみたいな怖い顔にはきっとなってない。

 だが仮に言えてたとしても、言ったところできっと明日晴さんには──届かない。


「……この前は言ってくれたのに」


 何かを明日晴さんがボソッと呟く。 


 ボソボソしすぎて上手く聞き取れなかったが、大方僕をからかった言葉だろう。

 ならわざわざこちらから掘り返す必要もない。


 ……というかいつの間にか。


 いつの間にかさっきまでのシリアスな空気は、熱せられたせいかもう僕の周りを囲んでいなかった。


「それで、何についての考え事だったんですか?」


 議題を戻すように明日晴さんが尋ねてくる。


 少女漫画風に言うのであれば『君のこと』みたいな感じになるのだろうが、生憎、僕にはその特権がないし、そもそも素直にそんなこと言うわけもなかった。


 ……もし、これがもっと純粋な気持ちだったのなら。


 そんな願望と共に言ったからかどこか遠回しな、含みのある言い方になる。


「いつか話せたら話すよ」

「もしかしてエッチなこと、ですか?」

「いつか話せたら話すことが、エッチなことだなんてどういう神経の持ち主なんだ僕は?」

「いや、いいんです。霜月さんも男の子ですもんね。仕方がないことです」


 わざと僕が話したがるように誤解を招くような発言をしたのかもしれないが、これ以上深堀されると本当に僕は話してしまうかもしれないので、


「そういうこと」


 もう、そういうことにしておくことにした。


 ついでに話も一旦置いとく。


 思考を切り替え、今日の数学の授業で出た課題の問題に取り組む。


 えっと、これがxだから、代入して、するとこれが五になるわけだからそうか、これがこうなって──


 …………。


 ………あれ、おかしいな。てっきり性犯罪者ムーブをされるかもと思ったんだが……。


 何も返されなかったことを不思議に思い、また隣を見る。


 そこには──どう反応すればいいのかと戸惑っている一人の少女がいた。



読了、ありがとうございました。


もしよろしければ、広告下、星の評価【★★★★★】とブックマークをしてくださると、大変嬉しいです。

狂ったように喜びます。

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