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僕がここに来る理由

誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。

 

「……よし、もう大丈夫です。おかげで回復できたのでHPは満タンです!」

「おし」


 とりあえず笑顔が戻ってよかったと、頭から手を離すと明日晴さんはじぃーとこちらを見つめ始めた。


「ん?」

「あ、いえその……ただ、霜月さん他の人にもよくこういうことするのかなって」

「こんな性に合わないことは滅多にしないよ。どちらかと言えば僕はされる側だし」

「ご両親とかにですか?」

「いや、幼馴染」

「え、幼馴染……?」

「あれ、言ってなかったけ? 一学年……ていうか、結構学校全体でも有名なイケメンなんだけど……藤解楽っていう──」


 あ、しまった。


 そう思ったのはさっき僕なりに考えた、"明日晴さんが放課後毎回ここにいる理由"に基づいてのものだった。


 ほんとに失礼なのだけれど、それは放課後つるむような友人がいないからなのでは? と、さきほど頭を撫でている時に思ったのだ。


 その説で言うと元中の友達というのは仮想の人物で、作り話をしたことを考えると少し気にしているのかもしれない。


 保健室登校だとしたらそれは仕方がないことだけれど、今のはデリカシーがない質問だった。


「イケメンていうことは男なんですよね? イケメン女子じゃないですよね?」


 僕が読ませたラノベのせいで、明日晴さんがだんだんとオタク脳になってしまっている。


「そう男。例えるなら少女漫画に出て来そうなイケメン。オカルト研究会ってところで一緒に活動してる」

「なるほど、百合ではなく薔薇でしたか……って霜月さん部活やってたんですか!?」


 ツッコミのタイミングを見失たので、楽との関係性を弁解できないがまあいい。

 ありえない、と言いたげな顔で明日晴さんに言われたもんだから、思わず訊き返す。


「……そんな意外? 僕が部活動入ってるって」

「え、逆に自分で意外だと思ってないんですか?」


 今度は信じられない、って言いたそうな顔で訊いてくる。

 なるほど、確かにこれ以上ないほど説得力がある。


「一応入ってるは入ってる。幽霊部員だけど……。週に一回は顔出すよう言われてるんだよ。それが金曜」


 確か金曜日にここに来ることができないことは伝えたけれど、同行会に所属しているとは言ってなかったな。


「部員の人達ってどんな人ですか?」

「僕とそのイケメン幼馴染含めて三人でもう一人は女の先輩」

「女……その人は可愛いんですか?」


 ……なんだこの質問。……もしかして何か試されてるのだろうか? 


 そう思うとピンとくることが一つある。


 やっぱり明日晴さん、大筆先輩と知り合いなのか? だとしたら、言葉は慎重に選ばねば……。


「えっと……可愛いかどうかは人の解釈だけど、そうだな……一般的に見れば美人ではあるんじゃないかな」

「……そうなん、ですね! ってことは霜月さんもその人が好きなんじゃないんですか?」


 急にテンションが上がった明日晴さんが訊いてくる。


 反応を見るに、知り合いということではなさそう。

 というか女子が恋バナを好きだということは知っていたが、ここまでとは。


 空元気(からげんき)だなとも思ったが、自意識過剰も甚だしい。


「僕はあくまで主人公の友人枠だから。そういうのはないかな」

「……そうでしたか。舞台にすら立たせてもらえなかったんですね……可哀そうに……」

「いや、失恋してない失恋してない……違うから、違うからそんな哀れむような目で僕を見ないで」

「まぁ元気出してください。霜月さんには私がいるじゃないですか」


 僕が振られてないということを理解してくれたかは分からないが、明日晴さんは自信満々に言う。

 その自信、少し分けてほしい。


 ……明日晴さんがいるから、か。


 あながち間違ってはいないのかもしれない。

 僕は僕が思っている以上にきっと、この空間を心地よいと感じている。


 今まで何となくここに通っていると思ってたけど、それは違った。


 高校入学前の僕なら目的もなくそんな面倒なことはしなかったと思うし、それはきっと今も同じ。


 さっき明日晴さんが笑ってくれた時、やっぱり僕は彼女の笑顔をもっと見ていたいんだと分かった。

 笑顔……顔の半分は狐面によって隠れているから、笑ったところが、か? 


 僕は文芸室に来たかったのではく、明日晴さんに会いに来ていたんだ。

 素直で無邪気で元気で楽しげな──まるで太陽のような彼女にいつの間にか僕は惹きこまれていた。

 だからかな。


「──そう、だったな」


 無邪気に、元気に、楽しげには答えられなかったにせよその言葉は──僕の素直な気持ちだった。


 言った直後、少し恥ずかしかったけれど悪い気分じゃなかった。

 高校になって初めて関わった人にそう思えることが嬉しかった。


 この後、きっと「そうです、霜月さんは私のもの、私のものは私のもの」とか、なんとか返ってくる気がするから、今のうちに僕も返答を考えておこう。


 そうだな、「だから僕の課題の君のもの。君の課題も君のもの』とかにしようかな。


 ──だが僕の想像は空をきり、


「え……そう、なんですか?」


 隣には少し恥じらうような声を出す少女がいた。


 僕はその光景に少し目を丸くした後、何とも言わずに顔を本へと向けた。 

 油断していたおかげで僕の頬も少しばかりが熱くなるのを感じたから。


 ……自分から吹っ掛けたくせに照れるのは反則では? 


「……もしっ」


 届けるような声によって僕は再び、明日晴さんに視線を向ける。


「もし、本当にそう思ってくれてるならそれはすごい嬉しいです。

 最近すごい楽しくてそれはきっと霜月さんのおかげなんです。霜月さんがここに来てくれてたから。

 だから──ここに来てくれてありがとう、霜月さん」


 照れつつも微笑みながら答える明日晴さん。

 僕は追い打ちをかけられ、その言葉を聞いた耳まで熱くなっていくのを感じる。


 ……違う、勘違いするな……これは、……そう、方便(ほうべん)、方便だ。ここに僕と一緒にいて気まずくならないように言っているに過ぎない。勘、違い……? 一体何を僕は勘違いしそうに──違う、今は考えるな、一回冷静に──


 お茶を一口飲み心拍を安定させた後、僕は冷静になったはずの頭は理論的でないことをしようとしていた。

 できるだけ感情を込めず、素っ気なく、相手に拾われないように──と意識して。


 言う意味はないのかもしれない。どうせ深くは伝わらないことを前提にしているのだから。

 それでもこの想いを心に閉まっておくんじゃなくて──


「……僕も君のおかげで最近毎日楽しい。だから──こちらこそありがとう」


 ───言葉を声にしたかった。





読了、ありがとうございました。


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狂ったように喜びます。

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