春速
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文芸室に通うようになってから十数日が経ち四月も終わりに差し掛かかり、小学、中学、高校と昇るにつれ体感時間の速度が上がっていることを嫌でも実感する。
歩数を重ねればいつの間にか旧校舎へと足を向けること当たり前にもなって、明日晴さんと話すのは恒例になっていた。
とはいえ。
習慣にはなっているものの、明日晴さんとの距離感にはどうしても慣れない。
あれから、学校がある日。
金曜日にオカルト研究員として活動する時以外顔を合わせているわけだが、その度に椅子は寄せられ明日晴さんとの距離はほぼゼロ距離になる。
こんな感じで。
「…………」
「…………」
「……光、なんか近くない? 歩きにくいんだけど……」
「だよな。普通はそうなるよな」
「えっと……何の話?」
「急に二人三脚要求されても対応できないよなって話」
「どんなシチュだよ」
「楽はさ、大筆先輩といつもそんな距離感だったりするの?」
「そんな体が触れるか触れないかの距離だったらオカルト研究会の活動がままならいだろうな。それに知っての通り、作業するときは横っていうより、縦だし」
「机挟んで座ってるんだったか……そういえばあれから、新しい不思議とやらは見つかったのか?」
春風漂う朝の登校中。まだ登校している生徒が見えない大通り手前の道を歩いている最中。
僕だけの認識が常識とは限らないので楽とすり合わせてみたが、明日晴さんの距離感はやはり非常識的なものだった。
「……いや、まったく。噂はあっても尻尾は掴めてないんだよ」
僕の問いに答え、「駄目だな」と言いたげに苦笑しながら楽は首を振る。
オカルト研究会の活動内容は、身の回りの不思議な事象を調査するというもの。
月曜日から木曜日は聞き込みだったり文献を調べるなどをしているが、僕の行く金曜日はオフタイムに近い。
歴代のオカルト研究員が調べた現象を観賞する曜日となっている。
これがまた面白くて、明日晴さんとの会話のネタにもさせてもらっているぐらいだ。
「光こそ、最近何か変わったこととかないのか?」
楽はオカルト部員になってから、ちょくちょく今みたいな質問をしてくるようになった。
変わった少女に出会ったことは一言も喋っていないつもりだったが、少しだけ勘づかれているのかもしれない。
そう思い、いつもは『特にない』というだけのところに探りを入れてみる。
「変わったこと……特にないけど、なんで?」
「最近楽しそうにしてるから。それにクラスメートとも時々話すようになったし」
世間一般の高校生からしたら当たり前なのかもしれないが、僕はとある時期から楽以外との関りを最小限にしてきた。
言うなれば避けてきた。
他者とのコミュニケーションはその時期から、会話ではなく連絡になった。
「雑談にも満たない掛け合いのようなものだけど」
明日晴さんと出会って話すようになってから、少しずつ他人と向き合えるようになってきたんだと思う。
人の目を見て話せるようになったし、うちのクラスがまんべんなく仲が良いということもあるが、ぼんやりとグループはあっても気軽に話すほどにはなっていた。
確かに傍から見れば僕は少し変わったのかもしれない。
まごうことなき、変わった少女の影響で。
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狂ったように喜びます。




