社畜の俺が上司の悪事を暴露し続けたらいつの間にかスーパーヒーローになっていた
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
高校に着き、クラス表が掲示された板へと向かって歩いていくと、既に人だかりができていた。
なんか──なんというか。こう見るとすごく新鮮さを感じる。
小中では二クラス編成だったからか。六クラスあるという事実だけで感動してしまう。
ようやく自分が高校生になったということを実感した。
「お。俺B組」
どうやら、楽は自分の名前を見つけたらしい。
「僕は?」
「こういうのは自分で探すから面白いんだぞ? ほら、Aから順にみてみ」
「そんなことしなくても、楽がBなら僕もB組だろ」
B組の表を目でなぞるようにして見てい…………ほんとに同じかよ。
やはりと言うべきか僕は楽と同じクラスだった。
「なんかここまでくると、腐れ縁ってよりう運命共同体って方がしっくりくるな……」
「今年もよろしくな、光」
「ああ」
これで十年目になるわけであったが僕は──よろしくするつもりはなかった。
中学のある時点からずっと──
高校になったら楽とは距離を置くべきだと考えていたから。
だが、僕は自分がどうしてそのような考えに至ったのか、よく覚えていない。
ただ、前から僕の中で決められていたことだ。
教室に入るや否や女子たちの視線がこちらに向けられるのが分かった。
その視線の先にいるのは──僕ではない。
──小学一年生の時のトラウマ。
楽と遊んでいると、数名の女子たちが笑顔で手を振ってきた。
当時純粋無垢だった霜月少年は手を振り返した。
だが。
手ごたえはなかった。
次に楽が手を振った。
すると、どうだろう。
先ほどの静寂が嘘だったかのように黄色い歓声が巻き起こったのだった。
霜月光トラウマ物語、完。
とは言え。
トラウマイベントがクラス替えの度にあるので、もう克服してはいるのだ。
なのでフラッシュバックというやつなのだろう。なんとなく身構えてしまう。
一応言葉でも説明しておくと、現在こちらを向いている全ての女子は隣の楽に視線がいっている。
肝心の楽が目を合わすと女子たちは目を逸らし、やがてこちらを見てくる女子はいなくなった。
「……俺、なんか変かな?」
「未だにその謙虚さが存続していることが変だ」
本気で心配している幼馴染にそう言った。
霜月光。
藤解楽。
「し」と「ふ」なので出席番号順の席では距離が近いわけではない。
ちらりと楽の方を見ると、隣の席の女子に話しかけられていた。
僕の隣の席の人はというと、まだいない。
座席を確認する際、ついでに名前を見たが、『名無不明』と書いてあった。
最初は入試の手続きミスったのかな、とか思ったが、なんと漢字の上にフリガナと性別が書かれていた。
ということで実在する生徒らしい。
性別は女で、読み方は『ななずあかり』。
仲良くなれるだろうか。
……別に仲良くしなくていいか。
僕は文庫本を開き、声の届かない文字の世界へと没頭し始める。
周囲の声は雑音に変わり、視野は紙切れだけに定まっていく。
今読んでいるのは、サラリーマンのおっさんがある日力に目覚め、性格の悪い様々な上司をボコボコにする物語。
『──そんなんだから、いつまで経っても社畜なんだよ、安月給が! はい、仕事追加ぁああ!』
悪役がそんな台詞を吐き捨て数行後。正義の名のもとに容赦なく、ボコられる。
ちなみに暴力ではなく、これまでした悪事を暴露される形で。
あくまで社会性を大切にしている作品なのだ。
ただただ、性格の悪い上司が、社畜に悪事を暴露されていく展開が続くだけ。
シンプルだが面白い。毎度スカッとした爽快感が味わえる作品なのである。
なんと近々アニメ化もされるとか。
「──」
新しい環境ということもあってか、まだ読書に集中しきれていないらしい。
声の先を辿るとと楽がいた。
その瞬間だけ、周囲の音が耳に戻る。
どうやら後ろの席の二人の男子生徒から話しかけられてるらしい。
楽がこっちを向くような素振りを見せたので、反射で本へと視線が戻ってしまった。
楽は知っている。
僕が人と話すことが嫌いじゃないということ。それと、一人好きでもないということを。
だから楽はこんな僕をボッチにしないように、いつも立ちまわってくれた。
保育園でも。小学校でも。
楽の隣にはいつも僕がいた。
楽はいつも僕を優先して行動していたから。
僕の隣には楽しかいなかったから。
小学校序盤の一時期を除けば、この頃の僕は他人との関りを完全に避けたりはしてなかった。
ただ、話し相手と言える存在が楽以外にいなかっただけ。
それに、その後の中学では、男女問わずクラスメートとも普通に話すようになったし、それなりに学校という組織に馴染んでいたと思う。
とある事件が起こるまでは。
……まあ兎に角。
とある事件があってから、僕は他人と最低限以上の関りをしなくなった。
僕は結局、序盤の──今の僕になったというわけだ。
高校になったからと言って、僕はその方針を変えるつもりはない。変えたいとも思わない。
いつかは面と向かって向き合わなきゃいけない時が来る。
この問題を解決しないといけない時が来る。
わかってる。
わかっている──のに、僕はわかっているだけだった。
僕は結局高校生になった今でも、子供のままだった。
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