公認睡眠授業とは
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不意に暗闇が目の前に広がった。
──木の匂いと誰かの声。
加え頬には少し冷たさが伝わっている。
「──えー。で、あるので──」
……やば、寝てた。
急いでガバッと身を起こしたら先生にバレかねないので、ゆっくりと黒板に視線を合わせていく。
「つまりこの革命は──」
やけに変でリアルな夢を見た、……気がする。
寝ていた時間は……十分程度ぐらいか。
思っていたよりも寝ている時間は短かった。
さっきまで鮮明だった情景は、石像が砂へと変化して原型を保てぬほどに崩れていくように、認識できなくなるかのように消えていく。
夢を見ない日がある。
でもそれはもしかしたら忘れてしまっているだけなのかもしれない。夢を見たこと自体を。
そう考えているうちにもスルスルと僕の頭から、夢は抜け落ちていく。
最後の声すらも──…………。
…………。
七限目の歴史の時間。
あまりにも先生の声が、子守歌のように聞こえたので思わず寝てしまっていたらしい。
だがしかし僕は周りの状況を見て落ち着く。
よかった。寝ているのは僕だけじゃない。というか僕の列は全滅だった。
寝ている人数より起きている人数の方が数えやすいという異常な光景が広がっていた。
一人、二人、三人、四人、そして僕。計五人が目を開いて授業を聞いている。
その五人のうちには楽も含まれている。
さっきまで寝てすっきりしている僕と、楽以外はもういつ寝てもおかしくなさそうだ。
いかにもガリ勉そうな生徒も目力以外は脱力していた。
いや待てよ、前方の席の生徒……起きていると思ったがあれ目を開けて寝ているな。かすかにいや、だいぶ大きないびきをかいている。
よくこの状況で今まで起きなかったものだ。
僕の夢が覚めたのは彼のいびきのおかげか。
──……ん、夢? そんなん見てたか?
──七限目終了。
チャイムと同時にみんなが起きる。結局最後まで起きていたのは僕と楽、そしてガリ勉そうな生徒の三人だった。そのガリ勉そうな生徒も今は力尽きて眠ってしまっている。
僕も一時的な睡眠で回復したと思っていたが、そうではないということを、今の瞼の重さが伝えている。
何事もなかったかのように楽がこちらへ来る。
楽には睡魔無効のスキルもついているらしい。
「俺の見間違いじゃなかったらあの教師、わざとみんなが寝るよう仕向けてたわ……」
荷物を整理して教室から出ていく途中の歴史教師に苦笑しながら楽はそう言う。
わざと寝るよう仕向ける?
「どういうこと」
「一人、また一人と寝るたびにあの先生微笑んでてさ。それも孫を見る祖父母の様な目で。間違いない、わざと眠たくなるような声で授業してたよ」
「お前は効かなかったんだな」
「なんか周りが寝ていると、逆に目が冴えるっていうか」
歴史の教師。見た目はおっとりとしているおばあちゃん。話し方もそれに対応するかのようにゆっくり。
授業開始前まではだいたいいつもこくり、こくりと睡眠をとっている。
……睡眠研の顧問は十中八九歴史の教師じゃなかろうか。
そんなことが分かったところで、何かあるわけではないが。
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