仏の顔は三度まで。修羅場作成何度でも。
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
「ともかくいいじゃないですか。私も一人は寂しいんですよ。毎時間とはいいませんから毎放課後来てください」
「前置きがおかしい……。休み時間に教室からここまでダッシュで来たとしても往復したらもう次の授業だし」
「だから毎日でいいって言ってるじゃないですか!」
「暴論だ」
「口先だけの約束でもいいので承諾してください。ちなみに破ったら弄ばれたって言いふらします」
「ちょくちょく脅迫してくんのやめようか?」
もともと先客がいなかったらいるつもりではあったが。
「それにだ。友達とか誘えばいいだろ」
「友達が知らない私だけの空間。だから魅力的なんですよ」
その意見には激しく同意。
「そもそも霜月さんは何故私を拒むのですか?」
透き通った瞳が一直線に僕を射抜く。反射で目を逸らそうとしたがまた頬を挟まれるのは勘弁だ。踏みとどまる。
「拒んでいるわけじゃないよ。ただ変な噂が立つかもって」
核の本音は緊張しているだけだが。
それを悟られないように僕はリュックにあるもう一冊の本を探る。
噂と言っても僕は冷やかされる相手が楽ぐらいなので実質ノーダメ。
だが。
明日晴さんはそうじゃないかもしれない。さっき友達と言う単語が聞こえた。
つまりは入学式でもうグループがあるということだ。
そこで変な誤解をされたら迷惑だろう。
…………。
沈黙が長く感じる。聞き取れなかったのかと明日晴さんの方向へと視線を合わせると、今度は彼女が視線を逸らす。
「人と話すときは相手の目を見て話すんじゃなかったのか」
さっきのお返しだと、僕はここぞとばかり明日晴さんに言った。
「……だ、だって。その……」
まさか『きもすぎです』なんて言われないよな……? 言われたら軽く死ねるから、明日晴さんが僕から鍵を奪えば密室の完成だ。いや、密室ではないか。
だがこんな部屋で起きる事件だ。迷宮入りにはなるかも。
明日晴さんは上目遣いで、そしてやや照れ気味にこう言った。
「その、……冷静に考えたら私も男の人とこんな近距離なの、初めて……だったな、と」
……てっきり慣れていると思ったが。そういうわけではないらしい。
素っ頓狂なことばかり言っていたけども根は普通の女の子なんだな。
「……そういえば怪我無かった?」
「あ、はい。おかげさまで。……そっちこそ背中大丈夫ですか?」
衝撃を受けた直後は少し痛かったが今は何ともない。
「大丈夫。君が無事でよかったよ」
仮に怪我でもされてたら、防衛という名のもとに抱き寄せただけの人間みたいになってしまうところだった。
「……霜月さん私を拒んでいるのか、ものにしようとしてるのかどっちか分かりません」
「安心してほしい。どっちも不正解だ」
「ものとして扱うなんて、やっぱり私は都合のいい女なんですね……」
「僕どっちも不正解って言ったよね? あとさらっと伏線回収しないでくれ。…………ツッコミってこんな疲れるものだったのか」
楽は毎回僕にツッコミを入れてくれるがこんなにも労力を使うものだなんて知らなかった。
明日楽に感謝を伝えようと決めたのであった。
「でもわかりました。霜月さんは私を拒んでいるわけではなかったんですね。だったら何も問題なんれないじゃないですか。ルールを決めれば」
「ルール?」
「はい、ルールです。思春期真っ盛りの霜月さんは私とそういう噂が流れると羞恥心で死んでしまうんですよね」
なるほど、本心は気づかれてたか。微妙に方向が違うが。
「そこまでは言ってない。むしろ僕はあまり気にしない」
「なるほど、私と付き合っている噂が流れることにむしろ積極的、と」
「帰る」
「あぁ、ちょっと待ってください! ごめんなさい、本題に入ります、入りますからぁ!」
また僕が帰ろうとした時のように僕の右手を強く握りしめている少女がそこにはあった。
まあいい。仏の顔も三度までとしておこう。
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狂ったように喜びます。




