隣の家の幼馴染
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
朝、日光が僕の目の前を赤に染め上げる……が、構わず寝る。
少し経ってアラームが鳴る。構わず寝たい……とこだがそういうわけにもいかないか。
腹筋をするように上半身を起こし、手を天井に足を前へとグッと伸ばす。
大きなあくびをすると、ある程度の眠気は僕の体内から飛び立っていく。
脱力してベッドに背を預けると、さっき飛ばした睡魔が僕に降りかかろうとしてくるので、眠りにつかないうちにベットから離れる。
今日は入学式。高校生活の幕開け。
それに幼馴染とも待ち合わせしている。
遅刻なんてもっての外だろう。
重い瞼と身体を動かし朝の支度をする。
一人暮らし。
父親の海外転勤が決まったのが、去年のクリスマス辺り。
両親は共にアラフォーだが、今も仲睦まじい夫婦である。
そういうことなので母親も今は海外だ。
そして愛国主義者の僕はここ、日本に留まったというわけである。
断じて、英語ができないからというダサい理由ではない。
……断じて、ない。(大事だから二回言っとく)
一人暮らしをするようになったのは、つい最近で中学校の卒業式の日から。
高校入学前に料理、洗濯、食器洗い、掃除……など、ある程度の家事は形だけ習得した。
補足。
習得しただけであって慣れてはいない。その証拠に今日の目玉焼きは黄身が潰れてしまっている。
完熟にしてしまう手もあるが、僕は断然、半熟派。
目玉焼きの熟練度を上げるためにもそうはしない。
こんな風に余裕があるように見えるかもしれないが、実際は猫の手も借りたいほど切羽詰まっている生活だ。
なんだか、今まで自分がいかに怠惰だったかを知らしめされているよう。
ご飯を食べ終わった後、一通りの支度を済ませ、スマホを見る。
集合時間まであと三分か。まあでも、あいつならもう既にいるだろう。
玄関の扉を開けると太陽の眩しさがより一層際立つ。
春風が少し心地よい。
隣の庭を見ると、案の定、あいつもう既に待っていた。
長すぎず、短すぎず──丁度良い長さの少し明るめの髪。
陽の光に照らされ、風になびかれ、キラキラと光っている。
加え、モデルのように長い脚と小さな頭。
アイドルをしていると言っても違和感のない整った顔は、人生の勝ち組と言える。
ため息、あるいは感嘆をつくと幼馴染の楽がこちらに気づき声をかけてきた。
「おはよ、光。今日から高校生だな」
「お前、声優やっていけるぐらいイケボだよな」
「ん、ありがとな。でも挨拶されたら返そうな」
「お、これは失礼した。おはようである」
「うむ、おはようであります、少佐」
「いや、この前、昇格したんでね。今は中佐だよ、大佐」
「俺の方が立場上なんかい。明らかため口だったぞ」
「まあ、中佐も大佐もそんな大差があるわけじゃないしね」
「うまいこと言ったつもりか? ……まあいい、行こう」
藤解楽。
隣の家に住む僕の親友であり幼馴染──というキャラを兼ね備える男。
優しい、高身長、イケメン、気遣い上手。まさしく少女漫画に出てくるようなキャラ。
そんなイケメンと僕は幼馴染ということで、僕を羨ましがる女子は少なくない。
そんな罪な男である僕のプロフィールは……そうだな………………読書好き、だろうか。
他に何か長所とか……。
…………。
その肩書だけで事足りてしまう──いわゆるモブ的存在なのかもしれない……。
も、もう少し詳しく言うのであれば、前髪で少し目が見えないモブ。
……べ、別に虚しくなんかないんだからね。
腐れ縁としか言いようがないが、楽とはクラスが9年間同じだった。果たして今日記録更新なるか。
学校へと近づくにつれ、春風に運ばれていく桜の量が増えていく。
学校は坂を登った上にあり、毎年その道の両脇には満開の桜が咲き誇る。
既に僕らの制服には、桜色の斑点が何個かできていた。
学校へと続く最後の道に入ったところで、不意に楽が聞いてくる。
「そういや、光は何か部活動入るのか? 中学何にもやんなかったけど」
「んー、今のとこ未定だけど。……ビビッと来たら入ろうかな。ビビッと」
「とか言いつつ、帰宅部志望なんじゃないのか?」
……流石は幼馴染。僕のことを理解している。
中学では部活動の種類が少なく、入りたいものがないものだったから帰宅部だった。
とは言いつつ。
結局自分が何をしたいのか。僕はイマイチわかっていない。
あったとしても。
今更。
新しく何かを始めようとする好奇心や行動力なんてものは僕にはない。
大方。
楽の予想通り僕は帰宅部になるだろう。
「そういう楽はやっぱり運動系に入るのか?」
中学の頃、楽は運動部に入っていたわけではない。
ボランティア部という慈善活動の団体として活動する部に入っていた。
そしてボランティアの一環として、運動系部活動の助っ人をすることが多く、その度にスタメンとも引けを取らない好成績を挙げていくので、中学で藤解楽と言えば、部員殺しの鬼として名が轟いていたほどだ。
なんてものは僕が作った冗談だが、あちらこちらから引っ張りだこだったのは事実である。
「うーん、そうだな……まだ決めてないけど、何かしらは入ると思うよ。ほら、うちの高校部活動多いし、部員が二人いれば同好会だって作れるし」
「部室は……確か旧校舎丸々だったけ」
「ああ、それに東京都の公立高校では伊規須高の敷地面積が一番広いからな。その分、旧校舎もでかい」
「確かに立川とか、国分寺にあんなのが建ってたら、小さな大学のキャンパスだって言われても、納得しちゃうかも」
学校見学会で一度、施設を見学したことがあるが、広さで言えば私立高校だと言い張っても申し分ないほどだった。
「こんな噂もある。実は今はもう手に入れることのできない木材で作られた、とか」
今はもう手に入らない? それが本当なら国の重要文化財に認定されるだろ。
「……まあ、未だに木造建築の校舎が残っている理由としては妥当だけど。脆くなってたりしないだろうな……」
歩いていたら、廊下が抜けるとか。
「まあ、そこら辺も色々見てみよ」
木造建築から察してもらえたと思うが、伊規須閉居高校の歴史は長い。
ホームページでは設立は明治からと記載されているが、一説ではもっと昔からだという声もある。
伊規須閉居の『閉居』は、昔ここが閉居町と呼ばれていたことに由来するらしい。
そして昭和のベビーブームを通過する時期に、新校舎──つまりは現在使われている校舎が建ったわけである。
そのため昔は二つの校舎が生徒の学び舎として機能していた。
子供が減った現在では、使用される校舎は比較的新しい方の一つになり、余った昔の旧校舎はまるまる部室棟として再利用されているという、なんとも素晴らしい状態にある。
全国全域の高校で見ても、部活動の量なら引けを取らないのも本校の特の一つだ。
「でも、同好会か……楽は何か作りたいものでも?」
「ん? いや、まだないけど──」
「ないけど?」
「やりたいことが見つかったら、部活動作るのも悪くないかなって。そん時、光が入ってくれると嬉しいんだけど」
確かに二人で何かするのも一つの手段かもしれない。
顔を合わすと、楽がニッと笑ったので、僕もそれに応えるようにフッと微笑みこう告げた。
「絶対に断る」
「断るんかい……絶対入る流れだと思ったのに……」
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