文芸室と
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
さて、今日何度目の旧校舎になるか。正解は三度目だ。
今回は階段は登らず、真っ直ぐに歩く。
昔は生徒の学び舎として機能していたということもあってか、端から端まで渡るとなると先がかなり長く見える。
それでも退屈しないのはその分多種多様な活動の跳躍を耳で楽しめるからだろう。
ふと、とある教室の入り口の立て札を見ると、そこにはいくつもの同好会の名が書いてあった。
扉のガラスからちらりと教室内を覗くと少数のグループが机によって形成されていた。
そのほとんどが二人から三人ほどで構成されている。
オカルト研究会が他の同好会の影を見せなかったから気づかなかったが、同好会は部室が共同ということもあるらしい。
部活動・同好会の数がどれだけ多かろうと、なるほどこれなら部室が余るわけだ。
「──問題。日本で一番収穫されている果物はなんでしょう!」
十分の七ぐらい歩いて、クイズ研を通り過ぎている最中に問題が出題された。
一番か……なんだろう? リンゴ、ブドウ、バナナ……は違うか。
「──正解は……みかんでした!」
この前を通るたびに豆ほどだが知識がつきそうだ。
塵も積もれば山となるので霜月光がクイズ王と呼ばれる日も遠くはないのかも。
出題者が妙に声がいいなと思ったら、クイズ研究会の横に発声同好会と書いてあった。
続いての教室はボランティア部。
何か音が聞こえたとするのならハサミで紙を切る音ぐらいだった。
黙々と作業しているらしい。
もしくは。
その隣の睡眠研を気遣っていたのかも。
これにいたっては……言うまでもないか。
ご想像通りの活動らしい。
ただ、教室の扉は黒いカーテンで覆われており、中の様子を見ることはできなかった。
教室の立て札には睡眠研とだけ記されている。
なるほど、確かに他の同好会と一緒に活動できなそうだ。
他の活動の音がうたた寝の邪魔になってしまうから。
僕自身も活動妨害になると思ったからか、いつの間にか僕は自然と抜き足差し足忍び足になっていた。
本当に活動しているのかと疑いたくなるほど、睡眠研の部室からは物音一つ出てこない。
そもそも学校で睡眠をとることに何のメリットがあるのだろうか。家で寝た方が気楽だと思うのだが。
いや、歴史が長いのであれば部室の中は至高の寝床になっているのでは……?
それに学校で寝るという背徳感も得られるのか。
案外興味深い研究をしているのかもしれない。
睡眠研を通り過ぎると空き教室──そこも通り過ぎやっと目的地へとたどり着いた。
何の変哲もない普通の教室──というわけではなく、教室のようなスライドタイプのドアではなく、引くか押すかの扉で一回り他のものに比べると小さい準備室のような佇まいだった。
僕の正面のその扉には後付けされたように『文芸部』と書かれている。
一番隅っこで──尚且つ空き教室をまたいで潜んでいるかのような一回り小さな部室。
隠れ家というのが似合う部室だった。
いいのか? ほんとに僕が使っても?
僕だけがこの部屋を使えるという高揚感が一気に湧き上がってくる。
心の底から文芸部元部長に感謝して制服のポケットから鍵を取り出した。
鍵穴に差すと、スーッと何のつっかりもなくカギは吸い込まれるように刺さった。
どうやらここで合ってるらしい。
右に半周回すと宝箱を開けたときのような、ガチャリ、と確かに開く音がした。
制服のポケット鍵をにしまい、ドアノブを回し、僕は文芸室へ踏み込んだ。
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