記憶にございません
誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。
さてさて。
だいぶ長い遠回りのかいあってか、再び旧校舎──部室棟の方へと向かうと、入り口からは楽し気に跳ねる音が飛び交っていた。
きっと大筆先輩は既に部室にいるはず。
階段を上がり、『オカルト研究会』と書かれた部室の前へと立つ。
コンコンコン。手の甲で音を鳴らし中の反応を待っていると、
「はーい」
中からは女子生徒の声が聞こえてきた。
「こんにちは、大筆先輩。昨日言ったやつが体験入部したいらしいので連れてきました。先輩とは違って任意同行で」
「ちょっと、それじゃ私が強制的に! …………あれ、してた……!?」
してましたよ。それはもう、不慣れな手つきで。
よく政治家が『記憶にございません』などとほざくが、案外間違っていないのかもしてない。
人間都合の悪い記憶は消してしまうこともできるのだ。
ということで、お昼の間少し小耳にはさんだ程度の、僕と楽が付き合っているというひそひそ話は記憶から消しとこうと思う。どっちが受けでどっちが攻めかという記憶もだ。
「こいつは僕の幼馴染の……って楽どうした?」
楽は石のように固まっている。僕の声に反応し「嘘だろ」と目で訴えてくる。大筆先輩がタイプど真ん中だったのだろうか?
しかしながら楽には小学五年生から想いを寄せている人がいる。
そのある人物が誰なのか僕は知らないが、これまでの一途っぷりをみるに、今の推測はおおむね的を射ていないだろう。
「え、楽君じゃん」
そう大筆先輩は呟き、大きい瞳をさらに大きくする。
……なんだろう。このお邪魔虫感は。
電車内でまさか付き合っているとは知らず、同級生カップルに声をかけてしまったかのようなこの気持ちは。そんな経験ないが。
「みさ──」
「なるほど、これは縁があるね」
優しく微笑む大筆先輩。
……今、楽が言うことを遮って、笑顔で圧力をかけた?
気のせいかそんな風に見えた。
まあいいか。
そんなことより、
「二人は知り合いということで?」
気まずさをどうにか振り払うために、頑張って話題を投げる。
「そうだよ。ちょうど一年前ぐらいから知り合いかな」
つまり顔見知りと言うことだろうか。
僕の既視感の正体は、楽と一緒に居る時のどこかで大筆先輩を見たことがあったからなのかもしれない。
二人が知り合いなのなら話は早い。事を進めよう。
「今日は体験入部──」
「入る」
「おいちょっと待て」
楽が僕の言葉を遮断するように言う。
間髪入れずに僕のツッコミが入る。
というか、大筆先輩の影響か、僕、最近ツッコミ役になってないか?
「え、ほんと!?」
「もちろん」
こうしてオカルト研にまた一人部員が増えたのだった。
…………。
いや待て待て。流石に展開が早い。
まさか楽が興味を持っていた部活とはオカルト研だったのか?
でも、長年一緒に居たが、一度もそんな趣味があるとは聞いたことがなかった。
いや、むしろ頑なに話したくなかったから、一度も話題に出なかった、という説もあるな。
だが、一番の直感。
幼馴染として長年一緒にいた僕の勘では──楽は大筆先輩のことが好きだから、この部活に入ったように見える。
僕の目が節穴ではなければ楽は大筆先輩に──恋心を抱いている。
…………。
……待ってくれ。頭の整理が追い付かない。追いつかな過ぎて首がもげるそうになるほどだ(?)……。
一旦落ち着いて整理してみよう。
まずは小学五年生の夏。
伊規須神社(各地にある神社の総本社)で行われた夏祭りでの出来事。
僕が熱を出していけなかったその日。
楽は一人で夏祭りに行き、そこで一人の少女と出会い、恋に落ちた(と聞いている)。
その日から今日まで楽は一途にその人のことを想い続けている。
そしてその四年後──中学三年の春に楽は再会し今でも交流があると言っていた。
一方で大筆先輩は楽に『縁があるね』と言い、かれこれ一年の付き合いだとも言った。
あまりにも辻褄が合いすぎないか……?
──既視感。
その正体を僕はたった今思い出した。
僕が年に伊規須神社に訪れる回数。夏祭りと初詣の時。楽が初恋の少女に再会するまで。
その度に楽は誰かを探していた。
あえて言及はしなかったが、おそらくそれが大筆先輩なのであろう。
ならば僕のこの既視感の正体は──。
「じゃあ入部届提出してくるから、場所教えて」
いつの間に書いたのやら楽の右手には入部届が。
「えっとね、職員室の隣に管理室ってところがあるんだけど分かる?」
「さっき行ってきたからわかるよ」
「そしたらそこの管理人さんに提出すれば晴れて楽君はオカルト研究会の一員です!」
「わかった。ありがと、美里さん」
楽はニッと笑ってから管理室へと向かっていた。
扉がガチャンと閉まり、数秒経つと楽に僕の声が届かない空間になった。
……さて、と。
「大筆先輩。その、もしかしたらの話をしましょう」
「もしかしたら?」
「ちょっとした、僕の創作物語です」
僕の中にある疑問を確信へと変えるために大筆先輩に問う。
「大筆先輩中学二年までコッソリ楽のことストー……見守ってましたよね。伊規須神社の夏祭りと初詣の時」
大筆先輩の微笑みが一瞬固まる。
──そう、これこそが既視感の正体。
話は僕らが小学五年生の時まで遡る。
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