カチコチドーナッツは直るの?
「いえいえ、お粗末さまです。お口に合ったようで嬉しいですよ」
プリンはにっこり笑って、笑顔の妖精さんたちを見る。
「あ、そういえば、ゼーリのカチコチドーナッツ、直してくれるところを願って、湖に飛び込んでここにきたけど、プリンが直せるの?」
うふが体をくにゃんと倒して訊ねる。おそらく首を傾げている。
「湖??」
話が見えないプリンに、えっぐがこれまでの経緯を説明してあげると、プリンは納得しつつも納得できない面がある。
「時空間移動装置でもない、ただの水に飛び込んだだけで、ここまで来れるのですか??」
「え、っと、ジクー??」
えっぐは言葉の意味がわからず、耳がぺたんと折れた。
「ワタシからモ、補足しますネ。えっぐさんとうふさんがいた場所の、大体の座表は『※@?**:$』辺りでス」
えっぐとうふには聞き取れない何かだったが、プリンには通じているので、うーんと眉間に皺が寄る。
「超時空転移プラズマが発生したわけでもなかったのデ、おそらく我々の認識とは違う何かガ、あるのかと思われまス」
「そうですね、宇宙空間を行き来している我々でも、未発見エリアは多くありますし、不可侵エリアもありますからね」
また、よくわからない難しいお話だ。
そう思いながら、どう頑張ってもその会話を理解できず、うふも耳が折れた。
「えーっと、えっぐさんの質問にお答えすると、今のあのカチコチドーナッツを直すことはできますが、直ったらゼーリさんはお家に帰れるようになります。そうすると、ゼーリさんの身が危険にさらされますね」
「えー、ゼーリが危ないの?!」
えっぐがポンっとクッションの上で跳ねた。おそらく驚きで体が震えた際に浮き上がった。
「えぇ。今ゼーリさんの故郷は、とっても危険な状態で、ゼーリさんのカチコチドーナッツが狙われているんですよ」
「どうすれば、ゼーリは安全安心になるのー?」
うふが訊ねると、自分の身を案じてくれる様に、ゼーリはホロリと涙が出る。
「えーとですね、ゼーリさんの故郷を危ない状態にした人たちに、お仕置きをする組織がありまして、その人たちがお説教の準備をしています」
プリンのわかりやすい説明に、えっぐとうふだけでなく、ゼーリも「おぉー」と納得してしまった。
自分だと、そういう風に伝えることができないので、プルプルのくせに頭が硬いなぁと反省するゼーリ。
「よかったね、ゼーリ!」
「もうちょっとで、ゼーリが安心安全になる!」
うふとえっぐは、にっこり笑って心から喜んでくれる。
「あ、でもそれなら、島で待ってたほうがよかったのかなぁ……。プリンのところに押しかけて、迷惑かけちゃった。ごめんね」
えっぐは耳が下がって、しょんぼり顔をしながら、プリンに謝罪するが、彼は首を横に振る。
「ここに来なきゃ、ゼーリさんが危ないことだってわからなかったでしょう。それに迷惑と思っていませんよ。新しいお友達ができて、私とても嬉しいです」
「お友達?」
うふが目をぱちぱちさせて訊ねると、プリンは大きく笑顔で頷いてくれた。
「わーい! お友達増えた!」
ぱあぁぁっと花開くように、うふの顔が明るくなり、両手をあげバンザイをする。
「だねーー!!」
えっぐもほっぺたを桜色に染めて、満面の笑みを出している。
「1日で、ふたりもお友達増えるなんて、素敵な日!」
「嬉しい日だね!!」
うふはヒョロンとした腕を、えっぐに向かって伸ばすと、えっぐはちまっとした手を目一杯伸ばして、その手に触れる。おそらくハイタッチだ。
ゼーリはポカンとして、その様子を見ている。
どうやら、うふとえっぐのお友達カウントに、自分が入っているようだ。
「わ、ワタシもお友達デ、よろしいのですカ?」
「ゼーリはえっぐのスープ食べたじゃん? えっぐのスープが食べられるのは、お友達だけだよー」
「えッ!! そうなのですカ!?」
うふがくすくす笑いながら言うと、えっぐもにっこり頷いた。
ゼーリはお友達特権を頂いてしまったと、内心大喜びしている。
「今度、プリンもえっぐのスープ食べてねー」
えっぐがニコニコしていうと、プリンも大きく頷いた。
「と、ところでプリンさんハ、ヨーゴク星の奴らニ、ワタシを匿っている事がバレたラ、危険になったりしませんカ?」
「なりませんよ。我が星はヨーゴク星の行動に反対ですし。おそらく誰かしら別の方も、エルタディア人を保護していると思います」
ゼーリは、友達に迷惑をかけてしまう行動はしたくないので、母星が侵略されたという自分の立ち位置を噛み締め、懸賞金などがついてしまっていた場合、プリンも狙われる被害に遭う可能性もあると、頭の中でぐるぐる考える。
「あ、そういえば! カチコチドーナッツ壊しちゃったよね?」
「問題ありませんよ」
えっぐは思い出したように訊ねると、プリンも頷く。そして彼の言葉に、うふとえっぐはハテナもりもりだ。
「えーとですね、わかりやすく言うと、ゼーリさんのカチコチドーナッツは、焦げつきが起きるフライパンみたいな物なのですが、フライパンの金属は、とても立派な物が使われているような感じです」
「「ほーほー」」
「そして、悪い奴らがその金属を狙っているので、今カチコチドーナッツを作り直して、ゼーリさんが故郷に帰るのは、とても危険な時期です」
「「ほーほー」」
宇宙の技術に関する専用単語で伝えても、理解できないだろうと思ったプリンは、別の言葉に置き換える。
「そして、そのフライパンを作り直すことができるのが、私ですよ」
「「「おおー!!」」」
エンジニアであるプリン。
ちょっとだけ自慢げなかおをしている。が、照れくさいのか唇がちょっと震えていた。
湖が導いてくれたのは、カチコチドーナッツ職人であるプリンのところだったんだな、心の中で納得するえっぐとうふ。
「おぉー、職人さんー!」
「カチコチドーナッツ職人!」
「造船師さんでしたカ!」
うふとえっぐはパチパチ拍手を送るし、ゼーリもなんて偶然なんだと驚いてしまった。




