銀色のぷりん。
「ゼーリのカチコチドーナッツが降ってきた」
先ほど見た物なので、驚くこともなく、うふとえっぐは宇宙船に近づいた。
そして、背の高いうふが、かまくら上部にハマっている宇宙船を持ち上げて、砂場に降ろした。
「ア、うふ……た、助かりましタ」
ゼーリが、宇宙船から目を回しながら出てきた。
えっぐが目の前に座って、どうしたのか訊ねると、ぷるぷるんと震えた。おそらく頭か顔を振る動作だ。
「宇宙船が制御不能になってしまっテ、大気圏を出る寸前デ、落ちてしまいましタ」
「ゼーリのカチコチドーナッツ、ポンコツってことかな?」
大気圏などの言葉がわからないので、うふはオブラートに包まない言葉を放つ。
「認めざるを得ませン……」
えっぐは耳をピンと立てて、何かを思いついた顔をする。
「カチコチドーナッツを直せるところに、湖から行けるかな?」
「あー、どうだろう。やってみる?」
えっぐとうふにしかわからないやりとりに、ゼーリの体が半分沈む。おそらく首を傾げている。
「な、直せるのですカ?」
「わかんない!」
「うん!」
うふが元気よく答えて、えっぐは同調する。
わからないのに、行動を始める妖精さんたちに困惑するゼーリ。
そして、宇宙船を持って島の真ん中に移動した。
「困っている人のお手伝いをするのが、えっぐたち妖精のお仕事なの!」
「妖精だったのですネ」
「うん、それで、この湖に飛び込むと、困り事を持った人のところに行けるんだよ!」
えっぐが説明してあげると、ゼーリはどういう理論でそうなるのかと、頭の中に疑問符がたくさん湧き出るものの、妖精さん自体が理論式には存在しないので、考えることを諦めた。
「だから、ゼーリが困ってて、それを助けたいから、カチコチドーナッツを直してくれるトコロに行きたい、って思えば行けるかもって思ったの!」
かも、でしかないにしろ、先ほど会ったばかりの、宇宙人である自分へ、親切にしてくれるえっぐとうふに、ゼーリは涙が出そうになる。
「直る『かも』だから、期待しないでねー」
うふは、直らなくてゼーリがしょんぼりしてしまうと悲しいので、あえて茶化すように言葉を送るも、気持ちがとても嬉しいゼーリはニコッと笑った。
まだ何もしてないのに、ありがとうの気持ちを体に受けたうふとえっぐは、その気持ちに応えたいと強く願い、湖のフチに立つ。
「あ、ゼーリはカチコチドーナッツに入っていてね」
「わかりましタ」
えっぐはゼーリが宇宙船に入ったのを確認すると、うふとえっぐは宇宙船についている帽子のツバのような部分を持って、湖に飛び込んだ。
桃色の湖を抜けると、よくわからない場所に出てきた。
「どこだろう」
「なんか床硬いねー」
無機質な四角い部屋に降り立った、えっぐとうふ。
壁面にはモニターがいっぱい浮いているが、何かわからないので、首を傾げるだけだ。
「ん?」
部屋の主が、えっぐとうふの声に気づいて振り向いた。
「「こんにちは〜!!」」
宇宙船をそっと下ろして、妖精さんたちは元気に挨拶をしてぺこりとお辞儀をする。
部屋の主は、全身銀色なベッタベタな宇宙人の見た目だが、えっぐとうふはそれらを知らないし、特に見た目がどうとかいう感性をさほどもっていない。
何ひとつ驚くこともない。
上半身は銀色の宇宙人ボディだが、下半身はえっぐとうふから見ると、ドングリに見えるボディである。
銀色の人は何やら片方の手で、ドングリを叩いて、コクコク頷いた後、うふとえっぐをしっかり見た。
「こんにちは。えーと、これで聞こえるかな?」
「聞こえるよー」
うふが答えると、銀色さんは目を細めて頷いてくれた。
「いきなりたずねてきて、ビックリさせちゃってごめんなさい」
「ごめんなさい」
えっぐが丁寧に謝り、うふもそれに続く。
「大丈夫だよ。どうしたんだい?」
銀色さんは優しい声色で訊ねる。
「えっぐです」
「うふです」
そして名を名乗り、ぺこりと頭を下げる。
「丁寧にありがとうね。私はプリンと申しますよ」
「「銀色のぷりん……」」
「よだれ出てますよ」
自分の名前は、デザートと一緒のものである。とそばに浮くモニターには書かれてあり、理解したプリンは、クスクス笑う。
「いま、うふたちね、ゼーリのカチコチドーナッツを、直してくれる人を探しているの」
「カチコチドーナッツ? そこの宇宙船かい?」
「うん、なんか、たい焼き券ってのが抜けられなかったって、ゼーリが言ってたの!」
うふが説明をしてみたものの、一部間違っていた。
しかし、プリンは理解してくれたようで頷いた。
一生懸命会話してる様子を、宇宙船から見ていたゼーリだが、自分が当事者だ。
きちんと説明をしないといけないと思い、慌てて宇宙船を出ようと、ハッチのボタンを押す。
「……エ?」
カチカチカチカチ
どれだけ押しても反応がない。
操作盤のところに行くと、電源も入らなかった。
ゼーリは慌てて窓をペチペチ叩く。うふとえっぐが気づいてくれたようで目が合った。
頑張って声を上げるものの、外に音声を流すスピーカーも通電していないようで、音声は届かない。
うふはしゃがんで窓を覗き込む。
声も届かなければ聞こえもしない。ゼーリは半べそをかきながら、必死にジェスチャーで訴える。
「たぶん、そのカチコチドーナッツ壊れちゃったね」
プリンが近づいてくる。
銀色ボディの下側のドングリは、宙に浮いている。音もなく、すいーっと飛んで動いていた。
そして、えっぐとうふに合わせた表現を使って、教えてくれる。
妖精さんが見えるだけあって、心の優しい親切な人である。