ゼーリと妖精さん。
「ゼーリのお船、カチコチドーナッツは、ポンコツなの?」
えっぐが疑問に思っていたことを、遠慮のない言葉で訊ねる。
大した力も要らない状態で、雲からスポッと取り出せたカチコチドーナッツ。
お空の上をたくさん飛ぶ船と言うのに、雲にハマって出られないので、変だと思ってしまったようだ。
「うッ……。重力下で操作がたまニ、不能になる時がありまス」
「え、じゃあ壊れているの?」
「壊れかケ……かもしれませン」
うふが質問をしながら、カチコチドーナッツへ近づいて、ドーナッツの中をのぞく。
「我が母星『エルダティア』ハ、隣星と比べテ、宇宙開発部門ガ、遅れているのでス」
えっぐとうふは、見あって体を倒す。おそらく首を大きく傾げている。
「周辺の惑星と違イ、空間移動装置が作れる金属を採れる星ではあるのですガ……。いかんせん技術力が乏しくテ、宇宙空間を移動する技術はあってモ、船の船たる機能がイマイチなのでス」
えっぐとうふは、まるで頭の中に入ってこれない言葉たちに、耳がどんどん力無くへにゃりと折れていく。
ゼーリはそれなりに優しい言葉で言ったつもりなのだが、宇宙などの技術とかまるでしらない妖精さんたちは、異国語を聞いている気分になり、何も理解できず。
「うん、ゼーリのお話難しすぎるから、わかんない!」
うふは素直に伝えることにした。
ゼーリも何となくそれは察していたので、きちんと説明できないことを謝った。
「雲からも助けてもらえたのデ、私はそろそろお仕事に戻りまス。ごはんもありがとうございましタ! とても美味しくて素晴らしい食事でしタ!」
「わかったー」
「じゃあねー」
ゼーリは本当に助かったようで、うふとえっぐに感謝をしている。
妖精さんは、ありがとうの気持ちを言葉だけではなく、体で感じて受け取れるので、お手伝い出来たことに嬉しくてニッコリと笑う。
ゼーリはカチコチドーナッツ……宇宙船に乗り込むと、うふとえっぐがお船を持って、家の外に出してあげる。
窓から中を覗いていると、ゼーリは発進のためコンピューターを起動して、準備しているが、うふとえっぐには、壁を叩いて踊っているように見える。
『船を動かすのデ、離れてくださイ』
カチコチドーナッツから、ゼーリっぽい声が聞こえてびっくりしつつも、言う通り離れた。
すると、カチコチドーナッツは地面から浮いて、えっぐより高く浮く。そして、えっぐより背が高いうふも追い越して浮き上がる。
「「おぉーーー」」
うふとえっぐが、空を見上げるような高さまで飛んだカチコチドーナッツ。
すごく上まで上がったのだが、再び降りてきた。
『うふ、えっぐ、本当にありがとうございまス。このお礼はいつか必ずしまス』
カチコチドーナッツにハマっている透明な窓から、ゼーリがにこやかに手を振ってくれたので、うふとえっぐも手を振りかえす。
そして、ドーナッツは空高く消えていった。
「ありがとうの気持ちで十分だよねー」
うふはそう言って、道端の花を摘んで食べる。
「うん。ゼーリがいっぱい喜んでくれたみたいだね」
えっぐも背の低い木になっている星形の実をとって、口に頬張る。
「「こんなにおいしくなってるもんね!!」」
妖精さんたちがもらうありがとうの気持ちは、この島にある花や木の実を美味しくさせるのだ。
ゼーリは本当に心から感謝してくれていて、そのお手伝いをできたことに、うふとえっぐは大満足であった。
「嬉しいね、ありがとうの気持ち」
えっぐはぷるぷる揺れてニッコニコの笑顔だ。
うふも同じ気持ち。
「公園で遊ぼうか!」
楽しい気分で、楽しく遊ぼうと、うふが提案すると、えっぐも頷いた。
えっぐの家から少し歩くと、公園がある。
ブランコやシーソー、花壇や砂場もある。
えっぐは花壇のお花を撫でて、うふは砂場のそばにある、共用のバケツや小さなスコップを取り出して、砂でお城を作り出す。
「えっぐのお城つくったー!」
うふが、ぱぁぁっと明るい笑顔を出して飛び上がる。
砂場の砂は、砂というよりは土のような、形を作りやすいものなので、ペタペタ叩くと整形できる。
えっぐはその声に振り返り見てみると、お城の形はカチコチドーナッツみたいだ。
「ゼーリのドーナッツみたい!」
えっぐが入って遊べる大きさなので、カチコチドーナッツと呼んだ宇宙船より大きいもの。
宇宙船のように下は丸くはない、かまくら型ドームに輪っかのドーナッツをつけたような形であるが、輪っかがついていれば、ゼーリの船みたいな気分になる。
えっぐは早速中に入り、かまくらの出入り口から見える位置に座る。
「ゼーリノ友達ノえっぐデス」
宇宙船にあったスピーカーから聞こえた、ちょっとかすれたような音を真似して、えっぐは声を発すると、うふは手を叩いて喜んだ。
ひとしきり公園で遊ぶと、空がオレンジ色だ。
お空にぷかぷか浮かぶ雲が、オレンジソースのようだ。そんな色になる頃というのは、おうちに帰る時間の色だとわかる。
うふとえっぐは砂場の道具を片付けて、花壇のお花に挨拶をして公園から去ろうとする。
どふんっ!
何かの尻もちみたいな音が、うふとえっぐの後ろから聞こえて、ビックリして振り返ると、昼間見たカチコチドーナッツが、土で作ったかまくらの上に落ちて来て、かまくらの上半分が崩れていた。