またね!
「エルダティアは、後3日ほどで到着だよ」
そして、プラネットニュース速報では、エルダティアを侵略したヨーゴク星人たちが制圧されたと出ていたので、ゼーリは安心して帰れるのが分かった。
「じゃあ、この星空の旅も終わりだね」
えっぐは窓の外のキラキラを眺めて言うと、プリンは少しだけ悲しい顔をする。
「うん、ゼーリを無事送り届けたら、次はえっぐとうふを送るよ」
「「帰れるから大丈夫だよー」」
「じゃあ、エルダティアについたらお別れかぁ、寂しいなぁ。せっかく友達になったのに」
ゼーリも宇宙船から出てきて、しょんぼりした顔を出すけれども、仕方のないことだ。
「「離れていても、友達」」
えっぐとうふはにっこり笑う。
ゼーリとプリンも頷いてにっこり笑った。
そして、3日後エルダティアは目と鼻の先。
「わー! まんまる抹茶ようかんみたーい!!」
「エルダティア星ハ、緑色の空と海を持つ星ですからネ!」
妖精さんは、いろんなものを食べ物に例えるようだ。
岩石惑星を見たときは、岩塩みたいな星といったり、縞模様が綺麗なガス惑星のそばを通った時は、マーブルキャンディーと言ったり。
可愛らしい例えに、くすくす笑うプリン。
「さ、大気圏に突入するので」
「「シートベルト!」」
えっぐとうふは、椅子に座ってシートベルトを締めた。
また強い重力を感じながら、惑星の大気圏に突入する。
ふっとそれがなくなると、船は飛行機のように空を飛んでいる。
「えーと、まずどうしようか?」
「そうですネ……まだ混乱してそうではありますガ、宇宙巡視局に行きましょうカ。ワタシの職場でス。この母船も止められる広い場所なのデ、色々説明するのニ、ついてきてもらっていいですカ?」
「もちろん」
プリンは船を操舵し、ゼーリのナビに従い、飛空する。
「わー! メロンソーダの海ー!」
「抹茶の空も美味しそー」
窓から外の景色を見るも、やはり食べ物に例えるえっぐとうふ。
そして、ゼーリは職場である宇宙巡視局へ到着前に、通信を入れて自分の帰還を告げると、入局許可が出たので、敷地に駐船し建物に入る。
みんなでとことこ歩いていると、ゼーリのようなゼリー状の人たちが忙しなく歩いている。
時折見慣れない姿のプリンとえっぐ・うふへ視線は向けられるものの、プリンは慣れているのか気にしていない。
えっぐとうふは目が合うと手を振ってみる。大抵はそそくさと逃げてしまうものの、手を振り返してくれる人もいる。
「というわけデ、この方々に助けていただき無事帰還できましタ」
ゼーリはことのあらましを上官へ報告。上官もゼーリと同じゼリー状の人だ。立派なおひげが生えている。
「そうカ、ありがとウ。プリン氏、えっぐ氏、うふ氏」
「いえいえ、偶然といえども出会い、協力できて嬉しいです。エルダティアの人々も無事のようでよかった」
ちなみに上官も、えっぐとうふに言葉が通じるように、翻訳用のアンテナをつけている。
プリンが代表してお礼を受け取り言葉を返している。
上官への報告が終わって、プリンの船の前まで戻ってくる。
「よかったね、ゼーリ!」
「おうちに帰れたんだねー!」
「はイ、おふたりの優しさから始まリ、ここまで戻れましタ。この出会いは一生の宝でス」
宇宙船は壊れるし、故郷の星は侵略されるしと、心が休まることもない衝撃にばかりあったものの、優しい友のおかげで、無事帰って来れたゼーリはポロポロと涙を流す。
「ゼーリ、鼻水いっぱい出てるー」
うふがハンカチで鼻水を拭いてあげる。
「いやいやいやいヤ!! 涙の方が多く出てますヨ!?」
どこに鼻があるのかわからないながらも、目じゃないところから出てくる液体の方が気になったようだ。
うふは立ち上がると、ゼーリとプリンに体を向けて口を開く。
「それじゃ、ゼーリとプリン、元気でね!」
「体に気をつけてね!」
えっぐも小さな手をぶんぶん振って言葉を渡す。
「あ、待って!!」
プリンはふたりを引き留めた。
そして、うふに銀色と緑色の箱を、えっぐには便箋と封筒の束を渡した。
受け取ったうふが箱を開けるも、中身はない。
「「???」」
「銀色の箱は、私にお手紙が届く箱。緑色はゼーリに。もちろん、お手紙をこちらから送ることもできます」
「うふもえっぐも、字が読めないよ」
「そして、書けないよ」
妖精さんは文字を持たない。なので、お手紙をもらっても読めないのだし、お返事もできない。
「お手紙読み上げ機能がついている紙で送るよ」
「お花とか送れる?」
「枯れちゃうけど、届くよ」
「じゃあ押し花で送る!」
えっぐが疑問を訊ね、うふが押し花を送ることを伝えると、ゼーリとプリンは笑顔で頷いた。
そして、不思議な色の紙の束についても説明してくれる。
紙に向かって話しかけると、文字が書かれる不思議な紙だ。
お手紙を交換できる箱をプレゼントされた。
頬を赤く染め、ニッコニコのえっぐとうふ。
「えへへ、お友達からプレゼントもらったねぇ」
「うん、うれしー!」
「「ありがとー!!」」
プリンはにっこり笑って、どういたしましてと言葉を返した。
「ただ、私とゼーリ、えっぐとうふの住んでいる場所は、とーっても離れているので、お手紙は届くのに1ヶ月くらいかかってしまうんだ」
「わかったー!」
たまに、季節の挨拶として、手紙や押し花を送り合おうと約束して、プリンは自分の星へ帰っていく。
そして、えっぐとうふも手を繋いで、頷いた。
ゼーリは寂しいながらも、永遠の別れじゃないので、涙を飲み込んでいっときの別れの挨拶をする。
「「うん、またねー!!」」
最初から最後まで明るい妖精さんたちは、光に包まれてスッと消えていった。
「まタ、会いましょうネ! 落ち着いたラ、プリンさんと一緒ニ、遊びに行きますからネ!」
誰もいない虚空へ、ゼーリは力一杯叫んだ。
ここは、妖精さんが住む島。
お空にぷかぷか浮いていて、島にはお星様の形をしたお花がゆらゆら揺れて、ハートの形をした木の実がなっていたり、綿菓子のような雲が浮いていたり。
そんな島に帰ってきた、えっぐとうふはありがとうの気持ちを、たくさんたくさんもらって大満足だ。
そして、友達もできて、プレゼントまでもらってしまった。
「宇宙とかすごい体験しちゃった!」
「夜のキラキラってあんな風になってたんだねー」
「水色のソーダ飴みたいな星とか――」
楽しい思い出ができて興奮しながら、振り返っていたが、眠くなってきた。
えっぐの家に行き、お手紙箱を棚の上に置く。そして、紙を2枚手に取る。
「お昼寝します、おやすみー!」
「あ、えっとね、えっぐとうふは、少しの間眠るので、お返事なくても心配しないでね」
うふは簡潔に、紙に言葉をかけた。えっぐは慌ててその紙に言葉を続ける。
そして、ゼーリに届く箱と、プリンに届く箱へ入れた。
「「ふあぁ……」」
眠気が限界だ。大きなあくびが止まらない。
えっぐの周りには、硬い殻が出てきて、すっぽりと包んでしまう。
うふも同じように、硬い殻に包まれてしまった。
妖精さんたちはお手伝いを終えて、島に帰ってくると、卵に入って眠る。
たまごからは、すやすやと穏やかな寝息が聞こえてきて、時折、ゆらっと揺れる。
お手伝いができた妖精さんたちは、笑顔で眠りにつきました。