カチコチドーナッツと妖精さん。
ここは、妖精さんが住む島。
お空にぷかぷか浮いていて、島にはお星様の形をしたお花がゆらゆら揺れて、ハートの形をした木の実がなっていたり、綿菓子のような雲が浮いていたり。
そんな島に住む妖精さんたちは、色や形が違っていても、みんなウサギのように長いお耳が生えている。
島を散歩していた、ひょろんとした形のうさぎの妖精さん。
道ばたにあるお花を摘んで、パクッと食べてホワホワの笑顔を浮かべる。
「おいし〜」
へにゃりと顔をゆるませて、上を見てしあわせの笑顔を浮かべたが、その視線の先には、いつもと違う何かを見つけてしまった。
食べかけのお花を、あわてて口に詰め込んで、とたとたと走り出す。
向かう先は、キノコの形をしたお家。
「たいへん、たいへーーん!!」
お家のドアをノックなどせず、バーンと勢いよく開けた。
中では、ウサギのお耳が生えた、たまご型ボディの妖精さんが、かまどでスープを作っていた。
「こんにちはー、うふ。どうしたのー?」
あわてて入ってきた、うふと呼ばれた妖精さんとは対象的に、おっとり・のんびりと言葉を返した、たまご型ボディの妖精さん。
「えっぐ、たいへーーん! お空の雲にヘンなのささってる!」
「?」
ちょっとだけ、たまご型ボディが傾いた。おそらく、首をかしげている。
「おそと、見て!」
ひょろんとした腕を、パタパタ振って、うふが訴える。
かまどの火を消して、おなべにふたを乗せたえっぐは、うふがいるドアの方までとことこ歩いて、うふが示している方向を見上げる。
「………………」
じーーっと、もこもこの雲を見上げても、何かわからない物が刺さっている事だけしか、理解できない。そう、刺さっている。あんな物は見たことがない。
「な、なんだ、あれーーー!!」
ようやくビックリしたえっぐは、その場でぴょんっと飛び上がった。
「まんまるドーナッツに、輪っかのドーナッツがくっついてるみたいだよね」
「そうだね、でも、あれ……ドーナッツみたく、ふわふわっぽく見えないよ……」
知らない形のものは、知っている形の物で例えてしまううふ。
えっぐも同じものを想像したのか、こくりとうなずくけれど、ドーナッツのような、フワフワっぽいものではなく、お日様の光を浴びて、ツヤツヤしている。
なぞのダブルドーナッツを、ふたりは少しの間、口を開けてながめていた。
「なんだべか? あのカチコチドーナッツ」
うふやえっぐとはちがう形をした、うさぎ耳の妖精さんが、ぽよんぽよん跳ねてやってきた。
「あ、ヤヤこんちにはー!」
「おげんきー?」
えっぐがちっちゃい手をあげて、挨拶をする。
うふも手を振って挨拶して、話しかけてきた妖精さんのひょうたん型ボディをぽよぽよ揺らす。
「なまら元気さー! 見よ、このぽよぽよ具合!」
ヤヤの元気の度合いは、ぽよぽよらしいが、いまいちわかりづらい。
「あのドーナッツどうするべ?」
もこもこの雲に、半分くらいめり込んでいる。
「食べられるのかな?」
えっぐがよだれをたらす。
ご飯を食べようと作っていたところ、お外に出てきたのだ。
とうぜんお腹が空いているし、ドーナッツとみんなで呼ぶのもあって、ぐんぐんお腹は空いていく。
「食べに行っちゃう?」
えっぐのお家で、美味しそうなスープの匂いを嗅いだうふも、お腹が空いてきてしまったのだ。
じゅるんとよだれをすすって、うふは雲につきささっているカチコチドーナッツを見る。
「ヤヤはいらなーい! お出かけしてくるー!」
「はーい、気をつけてねー」
「したっけねー!」
またね、と言ったヤヤは、ぽよんぽよん跳ねて、お出かけに行ってしまった。
バウンド姿を見送った、うふとえっぐは、くいーっと再び上を見上げる。
――ぐううぅぅ……
ふたりのお腹がコーラスする。
「よーし、食べられるかわからないけど、行ってみよう!」
うふは背中からハート型の羽をぽぽんと出して、ひょろんと長い腕でえっぐを抱える。
しかし、えっぐのまんまるボディをくるりと包むにはちょっと腕の長さが足りない。えっぐはうふの腕にしっかりとつかまる。
「いっくよー!」
「おー!」
うふのハート羽から、何が噴射されて、ふたりは空へ上がっていく。
「「待ってろー、カチコチドーナッツ!」」
お空へ上がった、といっても、この島の雲ははるか上空にあるわけでは無いので、うふとえっぐは、カチコチドーナッツのところへすぐに行けた。
「……まど?」
「ドーナッツに窓があるね……」
まるいドーナッツ部分に、窓のような透明な飾りが見えるので、気になってしまう。
えっぐはうふから離れて、自分の羽をぽんっと出した。
うふのような、ジェット噴射が起こる物ではなく、鳥のようにパタパタ羽ばたく羽だ。
窓をのぞきこむと、中に小さい何かが見える。
「ゼリーがいる」
えっぐがつぶやく。
いよいよ、お腹がたくさん減ってきた。
「でも、ゼリー、泣いてる?」
ドーナッツの中にいるゼリーは、右往左往しながら涙を流している事にうふが気づいて、体をくにゃっと傾ける。
泣いているということは、困っている、ならば何かお手伝いが出来るかもしれない。
妖精さんは、お手伝いが大好きなのだ。
えっぐが窓をペチペチ叩く。
中にいるゼリーがえっぐに気付いたようで、顔を窓の方に向けたが、窓一面に見える顔におどろいて、泡を吹いて気絶してしまった。
コテンと倒れたゼリー。えっぐがあらら、という顔をする。
「ビックリ昇天しちゃった」
「ぎょうてん、だよ」
そして間違えた言葉を、うふがそっと訂正する。
うふとえっぐで、カチコチドーナッツを持ち上げてみると、簡単に持ち上がった。
中にいるゼリーは気絶しているので、カチコチドーナッツごと島に運んで戻ってきた。
「どうしよう、これ。食べられそうな感じしないね」
うふが、ドーナッツの感触を確かめて、残念そうな顔をする。
えっぐも、残念そうにうなずいた。
「ひとまず、えっぐのお家に入れよっか」
「わかった〜。うふのお家には入らないもんね、これ」
えっぐの家がすぐそばなので、うんしょ、うんしょと運びお家のすみに転がしておく。
「うふ、スープたべよう。お腹すいちゃった」
「わーい、ごちそうになるねー! あ、それなら、うふパン焼いたから、持って来るー!」
「おぉー! うふのパン好き! やったぁ!」
スープを温めなおす間に、うふはパンを取りに帰る。
そして、うふはバゲットのようなパンを抱えて戻ってきた。
そしてパンを抱えている腕には、大きめのバスケットがぶら下がっている。
「昨日の残りだけど、ハート木の実のステーキも持ってきたー! かまど借りるねー」
「わーい!」
そして、ふたりは、とろけるような笑顔で、美味しいごはんを食べた。