思い出す
〈ボク、今朝サイオンジと話したんだ。
ちゃんと起きたけど成仏したくない、探偵団して霊助けしたいってサイオンジに言ったら、『本物の探偵団する気なら、ちゃ~んと修行するだぁよ』って笑って残してくれたんだ♪〉
〈本物の探偵団……そうか……〉
〈だから、お兄も修行しようねっ♪
ショウも助けてくれるよねっ♪〉
ワォン♪
〈お兄も早くヒビキお姉ちゃんの助手になりたいんでしょ?〉
〈そうだな……思えばアイツ、ずっと俺を助けて、護ってくれてたんだな……〉
〈ん? 何か思い出したの?〉
〈少しだけ、な〉
〈思い出すのも、人らしいユーレイとして とっても大事なんだって。
話してみてよ〉
〈俺……死神に会ったんだよ〉〈ええっ!?〉
〈死ぬ前って、会うモンなんだろ?〉
〈気づかないヒトも多いらしいよ。
ボクも会った覚えないもん〉
〈中2と高2の夏に、もうすぐ死ぬって言われたんだ。
で、高2の時には奏と付き合ってて……〉
〈悲しくなっちゃダメ!〉
〈あ……そうだったな。怨霊化するんだな?〉
〈感情は抑えて、思い出したコト、とにかく言葉にするだけだよ。いい?〉
〈解った。
奏に……死神から、もうすぐ死ぬって言われたんだって話したんだ。
そしたら……いや待てよ?
話したのとは関係なく、か?
奏に話す前に、響は知ってたみたいだったよな?
とにかく響が現れて、お守りだとか御札だとか押し付けてきたんだよ。
そのおかげでだか、何でだかは知らんが俺は無事に生き延びて、奏と同じ大学に行けて、卒業して、結婚もうすぐって時に あの交差点で……そういう事だ〉
〈ヒビキお姉ちゃんってスゴいね。
死神、最初のはケイコクだからいいとして2回目は残り1週間とか、1ヶ月まででしょ?
なのに6年半? そんなにも死神をよせないなんてフツーの祓い屋なんかじゃできないんだよ?
それに、交差点でボ~ッとしてたユーレイお兄を護るのも大変だったと思うよ?
だってソコに死神の力が及んだから お兄は死んじゃったんだからね〉
〈そうか……響はずっと……よし!!
響にも恩返ししないとなっ!〉
〈そうこなくっちゃ♪〉ワンワン♪
〈で、修行って――〉
〈なんか楽しそうね♪〉ワンッ♪
〈ヒビキお姉ちゃん♪〉ワンワゥ~♪
〈どうしたんだ?〉夜中だぞ?
〈ライブハウスからの帰りよ。
ソラ♪ 明日、手伝ってくれない?〉
〈いいよ~♪〉〈俺は?〉
〈お兄は真剣に修行してね♪〉
〈足手纏いかぁ……〉
〈解ってるならヨシ♪ 頑張ってね~♪
で、サイオンジは?〉
〈向こう。ナンジョウさんが来てるんだ。
たぶんトウゴウジさんとホウジョウさんも〉
〈そう……そっちも備えないといけないわね〉
〈やっぱり、そうなるよね〉頷き合う。
〈二人だけで納得するなっ!〉
〈お兄にも、、ん~、そのうち分かるわ♪
それじゃ帰るねっ♪ おやすみ~♪〉
手を振って駆けて行った。
〈誰も見てないからって、ユーレイに手を振るなよなぁ〉
〈ホントに誰も見てないからだよ。
今夜は勉強じゃなくて、お兄の修行 見ててあげるからガンバってね♪〉
―・―*―・―
翌朝、響はソラだけを連れて行った。
サイオンジも戻らないまま、夕刻――
〈それじゃ、また明日ねっ♪〉〈うんっ♪〉
響はライブハウスへと駆けて行った。
〈なぁソラ。響と何してるんだ?〉
〈探偵団♪〉
〈そうじゃなくてっ!〉
〈お兄がヒビキお姉ちゃんに声かけたせいで引き受けちゃったのを解決してるんだよ。
今日は一緒に事故死したハズのコドモ捜し。
オジサンが泣いてたから、お兄を待ってられなかったんだ〉
〈怨霊化する前に解決、か?〉
〈そ。コドモ捜しだからボクの出番♪
でね、オジサンとユータくん、手つないで街の結界から出たら死神が連れてったよ〉
〈死神って……大丈夫なのか?〉
〈死神ってね、死者の魂をちゃんと導いて成仏させるのが仕事なんだって。
ホントは悪くも怖くもないってサイオンジが言ってた。
ただ、ボクたちみたく成仏キョヒなユーレイにとっては捕まったらサイゴになっちゃうから、死神が入れない結界してるんだって〉
〈結界……ね……〉眩しい青空しか見えん。
〈修行したら見えるようになるよ。
ショウ、今日の成果は?〉
ワン、ワォォワワンッ♪
〈お兄、マジメにやってたんだね♪〉
〈ナンで俺に聞かずにショウなんだよ?〉
〈ユーレイとして上だから〉真顔。
〈先ずはショウを追い越せってか?
あ……なんか歪んだ……〉
〈ん?〉目を閉じた。〈ナンジョウさん♪〉
〈よく分かったな、ボウズ〉
〈ボウズじゃないよ。ボクはソラ〉
〈ソラ、お師匠様が呼んでるんだ。
ついて来てくれ〉
〈はい♪
お兄、続きガンバッてね♪
ショウ、お願いねっ♪〉 ワンッ♪
〈ちょっ、ソラ! 消えた……か……〉
―・―*―・―
それからのソラは、公園に戻ったかと思えば響かサイオンジの弟子達に連れて行かれるようになった。
そして、サイオンジの姿を全く見なかった日の夕刻、ほぼ宵闇に変わった頃――
『怨霊だーっ!! 怨霊が出たぞーっ!!』
『避難場所に急げ!』『とにかく逃げろ!』
遠くからユーレイ達の叫び声が聞こえた。
〈アンタも早く――いや待てよ。
ショウ、ついて来い!〉
ワンッ!
ショウはナンジョウとナンジョウに似た男ユーレイに従って駆け始めた。
その途中、霊道の分岐でナンジョウは他の道へと入って行った。
ナンジョウを厳つくしたような目付きの鋭い男は、立ち止まっては何かを確かめ、また飛んで進むというのを繰り返していた。
〈何してるんだ?〉
〈この為に仕掛けていた結界を確かめているだけだ。
今回の怨霊は獣憑きだ。
ショウならば導ける筈。
カケルはショウの邪魔をせぬよう頼む〉
〈ショウに任せておけばいいんだな?〉
〈そうだ〉〈ショウ♪〉ぴょん。
〈あ、ソラ……〉ワン♪
〈ホウジョウさん、避難誘導完了しました!〉
〈では、共に〉〈はい!〉
ホウジョウとソラは物凄い速さで飛び、止まっては結界を確かめた。
姿は半分犬なカケルを動かしているショウは二人が止まるから追いつけるが、飛ぶのには慣れていないのか遅れ遅れに駆け続けていた。
数ヶ所そうして――
〈ショウ、オモテになっていいんだよ?
お兄をウラにしないと一緒に飛べないよね?
それに お兄にも聞こえるように話せた方がいいし〉
ワンッ♪ 〈うわっ!?〉
え……?
〈うん♪ 話せたよ♪ 飛べたよ♪〉
ショウがオモテになったので、すっかり犬になって一緒に物凄い速さで飛び始めた。
ショウは耳が立っているので顔は別の犬種に見えるが、ほぼバーニーズマウンテンドッグな雑種らしい。
大型犬なので全力で走る姿は狼を思わせる精悍さだ。
まさか……俺の声でショウが……?
〈ショウ、お兄の声まんまなんだね♪
おもしろいね♪〉
〈楽しいよ♪〉おいっ!
〈お兄はムシしていいからね♪〉
〈うんっ♪〉おーいっ!
〈警戒を最大に。近いぞ〉〈〈はい!〉〉
〈ん……?
追い込み結界内に生き人の気配か?〉
ホウジョウが一点を睨む。
ソラとショウも探りを伸ばす。
〈ヒビキお姉ちゃん!!〉
〈走ってく向こう! もうひとり!〉
〈カナデお姉ちゃん!?〉 えっ!?
見えないが、この向こうは墓地か?
まさか俺の墓!?
〈僕達の月命日だから!〉〈助けなきゃ!〉
〈待て。響に任せるべきだ〉
いや! 行かせてくれっ!!
〈……そうだね。ショウ、お兄を眠らせて〉
〈……それしか、、ないよね〉
ソラ!? ショウ!? 何を――……
〈先を急ぐぞ〉〈〈はい!〉〉
―・―*―・―
「お姉ちゃん、帰ろ」
「あ……響……」
「仕事帰りだから仕方ないけど、逢魔時に お墓参りなんてヤメてよね。
真っ暗にならないうちに帰ろ」
「そうね……翔、また来月ね」
「こっち近道なんだ♪ 行こっ♪」
響は奏と手を繋ぎ、もう一方の手に御札を握りしめて、怨霊の出現で活性化している霊道・魔道を的確に避けて家路を急いだ。
〈ソラ、聞こえてるよね?
こっちは大丈夫。
すぐそっちに戻るからね〉
〈聞こえてるよ。
お兄は眠らせてるから気にしないで。
こっちも大丈夫だよ〉
ショウがオモテになると完全に犬になるようです。
カケルがオモテだと、いくらショウの力が強くても犬8割が限界みたいです。
ですので最初、駆け出した時は人ベースな犬姿で、入れ替わってから犬に。
見ていると面白い状態です。
カケルだけはウラ状態のショウの心話の言葉はまだ断片的にしか聞こえていなくて、ほぼ鳴き声です。
ソラにはショウの心話が聞こえています。
この時の声はカケルとは違うようです。
オモテになると話し声を持たない犬のショウにとっては、主なカケルの声しか出せないようです。