修行
〈サイオンジ~、お兄つれて来たよ~!〉
〈どっこいせっとなぁよっ〉
〈サイオンジ、疲れてる?〉
〈いいや。大丈夫だぁよ。
ソラは優しいなぁよ〉にっこにこ。
〈でぇ、だ。カケル。
お前さんには、まぁだ早い話なんだが、このソラや響チャンと行動するからにゃあ知っておくべき事ってぇのが有るんだ。
でぇ、最初に、ひとつ確認しておく。
お前さん、本当に困ってる霊を助けたいんだなぁ?〉
〈はい!〉
〈そうかぁ。なら進めようなぁ。
霊助けは有り難い。
成仏したいのに困ってる幽霊は多い。
下手をすりゃあ、ソイツらが怨霊にもなっちまうんだなぁ。
怨霊のモトを減してくれるんだから、すこぶる有り難いんだ。
ただ、幽霊 皆が皆、生きてたまんまに考えたり、感情を理性で抑えられるなんてぇ思い込んでたら、痛い目ぇ見るぞ。
幽霊ってぇのは『人で無し』なんだぁよ。
お前さんは、すこぶる運良く、人らしいユーレイだ。ソラもなぁ。
この公園に居るユーレイは、そういう奴らだ。
あと、お前さんに近付くのをオイラ達が黙認してる奴らもなぁ、まんず人だぁよ。
皆、ユーレイだぁ。
つまり、これから接する幽霊は、そうでないのも混ざる。
『人で無し』は普通の幽霊だからなぁ。
これを常識として、頭に叩き込むんだぁよ〉
〈ユーレイと幽霊って?〉
〈ユーレイは話した通り、生きてたまんまの奴らだぁよ。
幽霊は、ぜ~んぶ ひっくるめてだぁよ。
怨霊も獣霊も普通の霊も、ナンもかもなぁ。
分かったかぁ?〉
〈はい!
でもどうして、そんな差が生じるんです?〉
〈死んだ状況、ソイツの受け止め方が十人十色だからだぁよ。
ゆっくり死に向かい、受け入れた奴は落ち着いて人らしく死ぬ。
大概すんなり成仏するよ。
だがな、気がついたら死んでたって奴ぁ、人らしさすらも持って出る余裕なんざぁ無ぇよ。そういう差だぁ〉
〈だから俺は運がいいと……そういう事か……〉
(話したのにね)(ぼんやり続いてたから~)
(そっか)(うんうん♪)コソコソ。
〈そうだぁよ。
お前さんも事故で突然ユーレイだ。
何も持ち出してない可能性だって半端無ぇ。
意識すらも無ぇのかぁと、諦めてたんだぁ。
仮に目覚めたとして、だぁ。
空っぽの腑抜けな可能性と、感情が暴走しちまって怨霊化する可能性とが五分と五分だ。
だからなぁ、自然と消えてくれよ、ってなもんだ。
時に任せて薄れていくのを待つより他に考えられなかったんだぁよ〉
〈それで放置……〉
〈そういうこった。
腑抜けなら、祓い屋が強制的に成仏させりゃあいい。
怨霊化しても祓い屋の出番だ。
響チャンはなぁ、どっちにしろ目覚めりゃ祓い屋に頼むより他には無ぇと、そう覚悟してたんだぁよ〉
〈それなら目覚める前にでも強制的に成仏させれば憂いなしなんじゃあ――〉
〈意識の無ぇ あの状態は、生きてもねぇし、死んでもねぇんだぁよ。
その間に居るんだ。
死にきってねぇからなぁ、成仏させるなんてぇのも無理な話なんだぁよ。
でなぁ、オイラが言いたいのは、そういう放置されてる奴にはチョッカイ出すなってぇこった。
それが最善だから、そうしてるんだからなぁ〉
〈はい!〉
〈で、ここからがユーレイとして生きてく上で最も重要な話だ。
怨霊が出たら、何をさておき逃げろ。
トーシローが戦える相手じゃあねぇんだ。
兎に角、逃げろ。いいな?〉
〈……はい〉
〈お前さん、自分がソラと響チャンの足手纏いだってぇ自覚が足りなさ過ぎてるようだなぁよ。
よ~し決めた!
明日からビシバシ叩っ込んでやらぁな。
ソラとの差を思い知りやがれってんだ〉
〈え……?〉
〈サイオンジ、さっきからヒトが待ってる〉
〈あ? お前、直々に来るなんざぁ只事じゃあ無さそうだなぁよ。
ソラ、兄チャンの相手してやれ。
話でも何でも、ソラの判断で好きにすりゃあええ〉
〈はい♪〉
サイオンジは、静かに待っていた男と共にどこかに消えてしまった。
〈さっきのは?〉
〈サイオンジが生きてた時のお弟子さんだよ。
サイオンジの名前に『サイ』が入ってるって言って、力を思い出させたヒトなんだって〉
〈サイオンジって何してたんだ?〉
〈祓い屋さん。だから戦えるんだ。
だからね、お兄も戦おうなんてしちゃダメなんだよ?〉
〈俺は祓い屋には、なれないのか?〉
〈たぶんムリ。力はイデンが ほとんどで、トッパツは めったにないんだって。
お兄がトッパツじゃないなんてボクには言いきれないけど、今のトコは力が見えないから、とにかく逃げてね。
それ、約束してくれなきゃ一緒に探偵団しないよ?〉
〈解った。ソラって、最初に会った時と随分違うよな? 急成長してる、つーか〉
〈そうかも。内側から何かが出てきてるんだ。
ぷくぷくバチバチずっとなってるんだよ。
ぜんぶ思い出してからずっと。
それでヒビキお姉ちゃんと図書館行って勉強習ってるんだ♪〉
〈夜中に?〉
〈うん♪ お姉ちゃんに本を指示してもらって外で勉強したよ♪
ちゃんと視点合わせもできたんだ♪〉
〈何だそれ?〉
〈ボクが見てるのをお姉ちゃんも見るの♪
逆もできるよ♪〉
〈俺とは?〉
〈シュギョーしてねっ♪〉
〈全ては修行かぁ〉
〈そうだよ。ボクもしてるんだよ♪
まだまだなんだ〉
〈それは頑張るとしてだ、怨霊が縁者に会ったら、どうなるんだ?〉
〈話、ブッ飛んだね~〉
〈あの避難してた部屋で、そう聞いて、俺の放置にも繋がるって言ってたから ずっと気になってたんだ〉
〈お兄、目覚めたら怨霊になるかもだからってサイオンジが言ったの覚えてる?〉
〈さっき聞いたばっかの話、忘れるかよ〉
(けっこう忘れてるよね)(うんうん♪)
〈怨霊だってモトモトはヒトなんだから、知ってるヒト見つけたら反応しちゃうんだ。
でも、ヒトとしての感情コントロールはできないし、良くないコトばっかりしちゃうんだよね。
だから、たとえば……んと、怨霊な お兄がカナデお姉ちゃんを見つけて、
『いた! うれしい!』って思ってもハグじゃなくてガブッてしちゃうんだ〉
〈え……?〉
〈そんだけムチャクチャなのが怨霊なんだよ。
タマシイ食べちゃうから、お兄はもうカナデお姉ちゃんには会えないよね?
今度は、それ悲しくて、もっと強い怨霊になっちゃうんだ。ふくらんじゃう。
自分でしたコトなのに、他のヒトにメチャクチャに当たりちらすんだよ。
今日のも、そんな怨霊だったって〉
〈俺が……奏を……〉
〈ホント、ならなくて良かったね♪
最初に会った時だって危なかったんだよ?
感情がブワッってなって怨霊なるってゆーのもあるんだからね〉
〈ひとつひとつ意味と理由があって、皆は動いているんだな……〉
〈うん。でもね、お兄みたく理解できる幽霊って少ないんだ。
だから少しずつしか教えないのかフツーなんだよ。
ユーレイなのかフツーレイなのか様子見ながら少しずつなんだ。
ユーレイだとしてもケイケンつんで、もうわかるよねって認めてもらえないと教えてもらえないんだ。
怒らせても、悲しませてもダメだから〉
〈そっか……だから『翔サン』なんだな〉
〈ん? お兄、どうしたの?
どうしてソコ?〉
〈ユーレイとして大人だな、と思ったんだ。
見た目なんか関係ないって痛感したよ〉
〈ボクはコドモだよ。
だからこそできるコトがあるって知ったから、いろいろ教えてもらえるようになったばっかりなんだよ?
ボクも、いっぱい寝てたんだ。
お兄みたく完全ぼんやりじゃなくて半分ぼんやりだったんだって〉
〈いつ起きたんだ?〉
〈少しずつ。1年くらいは、あんまり覚えてないんだ。それから少しずつ。
でね、見る練習とか始まって、ぼんやりじゃない時に勉強とかもしてたんだ。
ちゃんと考えたりできるようになったの冬と春の間くらいかな?
お兄が死んだ後だよ〉
〈たった半年で、それだけ成長したのか?〉
〈ううん。
記憶もどるまではホントにコドモ。
それからだよ〉
〈この数日で!?
そんなに急成長して大丈夫なのか?〉
〈わかんない〉
〈え? マジで大丈夫か?〉
〈サイオンジでも初めてなんだって。
フツーじゃないコドモって〉
〈普通の子供って?〉
〈さみしくて、悲しくて、泣いてるだけ。
お母さんどこ? だれか助けて、って。
ちょっとポジティブでも だれか遊ぼ~だよ〉
〈座敷わらしか?〉
〈そのと~り♪〉
〈ソラは?〉
〈最初にサイオンジから聞いたのが『ボウズの母は成仏したよぉ』だったんだ。
『ボウズも死んだからよぉ。
目覚めたら成仏させてやっからよぉ』
よくわかんなかったけど、寝て起きたら お母さんトコ行けるんだ、って思ったんだ。
だから安心して寝てた♪
起きてからもサイオンジがいてくれたし、お話ししてくれたから、さみしくなくて♪
お話、とっても楽しくて♪
だから泣かなくてすんだんだ〉
〈そうか。そういう助け方もあるんだな〉
〈そっち目線なんだ~♪
うん。だから、ちゃんと習ってね♪〉
〈そうだ! ソラにしか出来ない事って?〉
〈コドモのユーレイを逃がすコト♪
オトナのユーレイが『逃げろ!』って言っても逃げないんだ。
こわくて石みたくなって泣くばっかりになっちゃう。
でも、さみしがりだから、ボクが『遊ぼ~♪』って行ったら、うれしそうに笑って、ついて来てくれるんだ♪
で、怨霊退治が終わってから、ボクと公園で遊んでる間に会いたいヒトとか行きたいトコとか探してもらって、成仏させるの♪〉
〈ユーレイ探偵団?〉
〈そ♪ だからボクは成仏しなくてセイカイだったんだ♪〉
絶賛急成長中のソラ。
中身はオトナな探偵さんになっているような……?
ショウの方も静かにシッカリ聞いているようで……どうやら精神的に一番幼いのはカケルらしいです。
そう言えば……ソラとショウは、もうすっかり仲良くお喋りできるようですね。
ガンガンレベルアップ中です♪