ショウ
〈お兄♪ サイオンジがキタえてくれるって♪〉
開店前のバンド練習中、カケルが奏の歌声を背中で聞いていると、目の前にソラが現れた。
〈ソラ……そんな事が出来るのか?〉
〈ユーレイって、フツーそうでしょ?
出たり消えたりなんて すぐできるようになるんだよ?
でも大きく移動するのはキタえなきゃムリ。
探偵団するんだからシュギョーしようね♪〉
ワン♪
〈あ♪ 聞こえたっ♪
ボクもレベルアップだ!♪〉
ワンワワゥ♪
〈翔……って言った……か?〉
〈うん♪『ボクはショウ』って言ったねっ♪〉
〈やっぱ、この字は呪われてるのか?〉
〈ただ呼びあっちゃっただけだよぉ。
それよか行かない?〉
〈あ、そうだったな〉
〈ショウ、お兄をつれて来てね♪〉
ソラが笑って消え――カケルはショウに引っ張られた。
―◦―
〈犬の方が上手とは……〉
明るい場所に出たとたんサイオンジの呆れ声が聞こえた。
〈ま、兎にも角にも、初っ端からシッカリ覚えていくべきだぁな。
でなきゃソラが大変だからよぉ。
早速だが基本中の基本、視点をズラして視界を確保する練習だぁ。
何をしてても、それが自然に出来なきゃあ真っ当なユーレイとしちゃあ生きてけねぇんだなぁよ〉
そう説明してサイオンジは右手を伸ばし、人差し指を立てた。
〈この指先を見て、指向こうの景色を覚えろよぉ。
いいかぁ? で、だ〉
今度は左手の人差し指を右手首辺りに立てる。
〈今度は、こっちに焦点を動かしてだなぁ、さっきの景色を見るんだぁよ〉
〈そんな事……って、出来るのか?〉
〈皆、自然にやってる事だぁ。
目は、もう無ぇんだからな〉
〈目は無い……だよな……〉
〈出来ると信じりゃ出来るんだよぉ。
四の五の言わず、やってみろってんだ〉
―・―*―・―
そんなこんなで夜になってしまった。
そこそこスパルタ。でも、的確な指導のお陰で、少し意識するだけで焦点をズラしてシッカリ見る事が出来るようになった。
〈今日の所は、こんなもんかなぁ。
兄チャン、常に、自然に、を心掛けるだぁよ〉
〈ありがとうございました!〉
〈そんじゃあ、まぁ、それが普通になったら次だからなぁ。
ソラ、休ませた後の続きは頼むなぁよ〉
〈はい! シショー♪〉
〈こっ恥ずかしぃからよぉ、普通に呼びやがれってんだぁよ〉
〈サイオンジ♪ 次、ボクねっ♪〉
〈よぉし、兄チャンは気をつけて帰れよぉ〉
〈はい!〉ワン!〈ん? あれ……何だ?〉
〈どうしたの?〉〈何だぁ?〉
〈ほら、あれだよ〉ワンワンワンワン!
〈ショウ、静かにしてくれ〉グヴヴヴ――
〈マズいなぁよ。
ソラ、皆に知らせて、いつも通りだ。
ソラは今日から、ちょいと違うが突っ込むなぁよぉ〉
ソラは真剣な顔で頷いて消えた。
〈ショウ、兄チャンを避難させろぃ!〉
〈ちょっ、ちょい! 説明ナシかよっ!?〉
〈後でタンマリしてやっから、行け!〉
ショウに引っ張られた。
ライブハウスに出ると――
ライブ真っ最中だった。
生きてる人達が犇めき合い、興奮して叫んでいる。
〈兄サン、こっちだ〉
男の手に引っ張られ、控え室らしい所に出た。
そこではユーレイ達が犇めき合っていた。
〈兄サンも無事だ〉〈そうか〉
引っ張ったのは、やはり顔見知りだった。
ソイツの声で、酒盛り仲間達が集まる。
〈これは……?〉
〈避難してるんだよ。怨霊が出たからな〉
〈かなり凶悪らしい〉
〈ソラは? 来てないのか?〉
〈まさか避難誘導リーダーだったなんてホント知らなかったよ〉
〈まだ周辺のユーレイ達を避難場所に誘導してるんだろうよ〉
〈ソラが? 子供なのに?〉
〈ユーレイには生きてた頃の年齢なんて関係ないからな〉
〈翔サンは強いユーレイなんだよ〉
〈サイオンジ様が弟子を持つなんて聞いた事が無かったからな〉
〈門前払いはイヤと言うほど聞いてるんだがな〉
〈この辺で怨霊と戦えるのはサイオンジ様だけなんだよ〉
〈あの公園に住める奴らは精鋭ユーレイだ。
それでも弟子なんざ、翔サンだけだろうよ〉
〈で、翔サンが指示して、他の公園連中が動いてるのを見たんだよ〉
〈公園の奴らから指示されたら怨霊の餌にならないように、何をしていようがソッコー結界の中に逃げるってのが、ここらに住んでるユーレイの唯一の決まり事なんだよ〉
〈だから、出ていいと言われるまでは おとなしくしてろよ〉
〈あ、ああ〉
―◦―
おとなしく待っていると、控え室近くの廊下から潜めた話し声が聞こえてきた。
おや? 響の声だ。
内容までは聞き取れないけど……
廊下で誰かと話してるのか?
部屋から出ようとしたら、腕を掴まれた。
〈今日は|生き人〈いきびと〉だらけなんだから じっとしとけって〉
〈響の声が聞こえたんだ〉
〈響チャンも、こういう時は忙しいんだ。
邪魔になるだけだから行くなよ〉
ステージに居た者達が入って来た。
ユーレイ達が一斉に動いて場所を空け、生き人に背を向ける。壁に入る者まで居た。
「着替えたら即アンコールだ。急げ!」
「でも、アンコール何度でもって珍しいよな」
「店長が言うんだから喜ばしいこった♪」
「気兼ね無くガンガンいこうぜっ!」
「よーし! 気合い入れて行くぜっ!」
「「「ぅおっしゃーっ!!」」」
バンドメンバーは気合い十分で弾むように出て行った。
ユーレイ達が元の位置に戻る。
〈こりゃあ、
ここに怨霊の縁者が来てるんだな。
さっきの響チャンの声とやらは店長にソレを伝えてたんだろうよ〉
〈どういう事だ?〉
〈その縁者を外に出さないようにアンコールで引っ張ってくれと頼んだんだろうよ〉
〈生きてる人も喰われるのか?〉
〈普通に襲われるよ。
だが、縁者は更に厄介なんだよ。
いろいろとな〉
〈いろいろ?〉
〈俺達じゃあ、うまく説明できない〉
〈サイオンジ様か翔サンに聞いてくれ〉
〈とにかく、怨霊退治の邪魔にしかならないんだよ〉
〈兄サンも、だから放置されてたんだ〉
〈そこに繋がるのか……〉
―◦―
思う存分アンコールしまくってヘロヘロなバンドメンバーが控室に戻って来たのは、1時間をたっぷり越えた後だった。
〈けっこう時間かかるんだな〉
〈早い方だよ。
サイオンジ様だから、これだけで済んでるんだ〉
〈他所から来た奴が驚いてたくらいなんだぞ〉
〈何年も、どうしようもなくて逃げて来て。
で、サイオンジ様が行って退治したんだ。
そん時は往復込みで2日だったかな?〉
〈そうそう。で、逃げて来てた奴らがなかなか信じなくて、なぁ?〉
〈ああ。仕方なしに、公園の連中が連れて行ったんだよ。帰らないから〉
〈そういや、あれから来ないよな?
無事なのかなぁ?〉
〈安心させる為に祓い屋を派遣したとか噂に聞いたぞ。
そのまま護ってるんじゃないか?〉
〈誰が?〉
〈サイオンジ様に決まってるだろ〉
〈お兄♪ おとなしくしてた?〉
〈〈〈〈〈〈〈翔サン♪〉〉〉〉〉〉〉
〈ずっと気になってたけど、どうしてボク、『サン』ついてるの?〉
〈サイオンジ様のお弟子様だし〉
〈避難誘導リーダーでしょう?〉
〈ボク、リーダーじゃないよ?〉
〈でも、指示してましたよね?〉
〈うん。
今日からサブリーダーなったんだ♪〉
〈サブ?〉
〈うん。誘導班のリーダーは他のヒト。
サブリーダーはボクで4人目なんだよ。
誘導班は広~く動かないといけないから そうなってるんだ。
他の班はリーダーひとりだけでサブなしだよ〉
〈他にも班があるのか?〉
〈連絡班は生きてるヒトに伝えるの。
祓い屋さんとか、そのお弟子さんとかにね。
ヒビキお姉ちゃんにも連絡いくよ♪
あとは、サイオンジの指示で結界をしかけたりする捕獲班。
あ、ボク、仕事しなきゃ。
みなさ~ん♪ もう安全で~す♪
帰っていいですよ~♪〉
ソラは、ホログラムのように模様が浮いている透明な球体が付いた棒を振り回した。
その模様を確かめたユーレイ達はホッとして微笑み、消えていった。
〈それは?〉
〈公園印♪ サイオンジの念珠だよ♪〉
〈公園連中が持ってるんだ。
だから安心して指示に従えるんだよ〉
〈これが目印か……〉
〈しっかり覚えとけよ〉
〈翔サンが付いてるから大丈夫だがなっ〉
〈そりゃそうだっ〉
〈お兄♪ サイオンジのトコ行く?〉
〈行っていいのか?〉
〈『タンマリ説明してやっからよぉ』って言ってたよ♪〉
〈行く!〉
ゆっくり成長しているカケルに比べると飛躍的に成長しているソラ。
サイオンジの弟子としてシッカリ活躍しています。
そしてカケルと魂が重なっている犬がショウ。
これでやっと翔³(ショウソラカケル)が揃いました。