ライブハウスのユーレイ達
結局、響は奏が帰るまでライブハウスに居た。
しかし翔達を残して姉妹二人だけで帰ってしまった。
閉店後、つまり深夜も深夜。
非常灯だけが点っている店内では、ユーレイ達が酒盛りをしていた。
皆、棚から好きな酒を好きなだけ取って来て、ポテチやナッツをツマミに飲みまくっている。
「ソラ、何飲んでるんだ?」
「ジュースまぜまぜ♪」
「木に帰らなくていいのか?」
「今日はトクベツだよ。
お兄、シンパイだもん」
「すまん。でも寝なくていいのか?」
「お兄、眠いの?」
「全然」
「だよね。それがフツーなんだ」
「兄サン、奏サンと付き合ってたんだろ?」
「え? あ、まぁ……」
「生きてたら3ヶ月前に結婚してたんだって」
「そうか。
あの交差点に立ってたけど、奏サンが通ってたのは知ってるのか?」
「えっ? 交差点に?」
「やっぱりな。
梅雨近くまで寝込んでたんだと。
で、起きられるようになってからは、毎日、兄サンの足元で手を合わせてたんだよ」
「見て……いたんですか?」
「俺は、近くの街路樹に住んでるからな。
どっちも憐れだと、見てるのも辛かったよ」
「それを言うならアパートも、だよ。
目の前に三角地のブランコだけの小さな公園があるだろ?
其処の木が俺の住み処なんだがな。
そのブランコから、アンタが住んでた部屋をじっと見つめて泣いてたよ。
コッチも毎日毎日なぁ。
で、いつも響チャンが迎えに来てたんだ。
奏サン、幽霊でもいいから会いたいって、よく泣きながら帰ってったよ」
あ、だから住んでる奴を見たのか。
「その様子が、あんまりでなぁ。
部屋を借りて、アンタが住んでたままにしてる奴らも、それ言い出せないくらいに可哀想でなぁ」
「俺の部屋……誰も住んでないのか?」
「時々、交替で掃除してるだけだよ。
自分達が声かけるだけで思い出して泣き崩れそうだからって、声かけられないままなんだよ。
せっかく保ってるのになぁ」
「響チャンが、ここに奏サンを連れて来たのは、先月の終わり。
まだ1ヶ月経っちゃいない」
「歌うようになったのは先週だ。
やっと、ほんの少しだけ笑顔が戻ったんだ。
このライブハウスの関係者は皆、同じ高校の軽音部の卒業生だ。
あのバンドもな。
だから営業時間外は自由に練習させてもらえてるんだ」
「ここは奏サンにとって優しい場所なんだよ。
だから少しずつ立ち直れてるんだ」
「ここに住むんなら、そこんとこ よ~く考えて、気をつけろよな」
「いずれ、奏サンも響チャンも誰かの嫁になる。
その邪魔は出来ないんだからな。
もう何も口出しできないんだぞ」
「『未練』を作るなよ。
もう奏サンとは終わったんだからな」
「ネガティブ全般、持ったらヤバい感情だ。
幽霊は不安定な存在だ。
ちょっとしたキッカケで怨霊になっちまう。
ネガティブに囚われて何も考えられない、誰に害を及ぼすか分からん厄介者になっちまうんだ」
「そうなると、サイオンジ様や響チャンの師匠みたいな『祓い屋』に消されるだけ。
もう成仏も何も未来は無いんだよ」
「響の、師匠? 祓い屋?」
「居て当然だろ?
ユーレイは生きてる奴らと大差ないが、怨霊は とんでもない化け物だ。
その怨霊もワンサカ存在してるんだからな」
「祓い屋は、そういう能力を隠して、普通を装って暮らしてるけどな。
で、見える、聞こえるとか、一般的に『霊感が強い』なんて言われる奴らはトーゼン怨霊も見えたり感じたりできる。
だから怨霊から身を護るために、祓い屋を師と仰ぐんだ」
「怨霊は生きてる奴を襲うだけでなく、幽霊をも餌にしちまう。
喰われないように気をつけろよ」
「だから翔サンが心配して付き添ってるんだよ。
フラフラ出てったらソッコー餌食だからな」
「お気楽にユーレイするのを選んだんなら、それは間違いだぞ。
お盆な今なら先祖に連れてってもらえる。
サッサと成仏するんだな」
「お兄は、ボクとヒビキお姉ちゃんと一緒に霊助けするんだよ♪
ちゃんとボクが教えるから、なかよくしてあげてね♪」
「翔サンが、そう仰るなら……なぁ?」
「だな。仲間に入れてやるか」
「ここに住まわせるのか?」
「アパートの方が良くないか?」
「あ! それよか、今日はライブなかったから、姉サン達に会えてない!」
「ああそうか……決めるのは姉サン達だな」
「ここ、女性も来るのか?」
「ライブの時だけな」「でもヌシだ」
「女王様かもな」「または姐御だよ」
「ライブだけだったら、住むのいいよね?」
「それでも気に入られないとダメなんスよ」
「ライブって、音楽でしょ?
だったら~」手で犬耳する。
「「「「「「「あああ~」」」」」」」
「納得するなっ!」
「お兄、きっとウケいいよ♪」
「笑ってないで何とかしてくれ!」
「だって、そのコ悪くないもん。
それに賢いよ♪
お兄を助けてくれるよ♪」
ワン♪
「え? 今……」
「お兄?」
「犬が……鳴いた……」
「音楽、好き?」
ワンワン♪
「ほら!」
「ここ住みたい?」
ワワゥンワン♪
「なっ?」
「ボクには聞こえないけど良かったねっ♪」
「何がだよっ!」
「犬として反応したから♪」
「それが……どうしたんだ?」
「乗っ取る気なら、静かにチャンスをうかがうんだよ。
でも、お兄を新たな飼い主って認めたんだ。
うんうん♪
わかったからね~♪」よしよし♪
「おいっ、撫でるなっ」
「だって耳ピーンで、しっぽブンブンだよ♪」
「うわっ!?」頭と尻を押さえ「ヤメッ!」
「お兄より強いのに従おうとしてるんだ。
お兄も、なかよくしてあげてねっ♪」
―・―*―・―
翌日の夕方。
女王様で姐御な女性霊達に囲まれたカケルは――
「犬? 犬よねっ!♪」
「か~わ~い~い~♪」
「しっぽ振ってる~♪」
「耳も立ってるわよ♪」
「ここに住みなさいね」
――絶句しているうちに大いに弄ばれてしまった。
「このコが飼い主ね?」
「ボク、お名前は?♪」
「ボク、ソラ♪」
「このワンコのお名前は?♪」
「カケル♪
でもボクより年上だから『お兄』なんだ♪
『お兄』って呼んであげてねっ♪」
「OK~♪ お兄、お手♪」
ぱふっ。
――反応してしまう。犬が。
「お兄、まだ『家』が決まってないんだ」
「だから、ここに住みなさい」
これぞ女王様なユーレイが、ずいっと出た。
「いいのっ!?♪」
「犬小屋とドッグフードは必要かしら?」
「すみっこでジューブン♪
人と同じもの食べるよ♪」
「そう。
だったら好きな場所に陣取りなさい。
あら、人としても、けっこうイイ男なのね♡」
悪戦苦闘し、どうにか犬を引っ込めたカケルは、イキナリの上からな流し目にゾッとした。
―・―*―・―
ライブが終わり、静まり返った店内では、またユーレイ達が酒盛りを始めた。
「ソラ……帰ったのか……」
「翔サンなら、響チャンと行ったよ。
ユーレイからの依頼を解決しようとしてるんだろうな」
「俺は除け者か?」
「まだ目を見て話すからな。
その習慣が無くなるまでは、ここから出してもらえないだろうな」
「生きてる奴を死なせちまったら怨霊になるかも、なんだ」
「それに、怨霊と目が合ったら喰われる」
「ここなら響チャンの御札で怨霊は入れない。
兄サンは、響チャンに護られてるんだよ」
「御札って?」キョロキョロ。
「見える所なんかに貼ってあるかよ。
客商売なんだぞ?
壁紙の向こう側とかだよ」
「まだアンタには見えないだろうけどね」
「俺……まだまだなんだな……」
「少しずつ覚えて、レベルアップだよ」
「だから俺達も帰らずに話してやってるんだ」
「そうだったのか……」
「タダ酒飲みに来てると思ってたろ?」
「ああ」
「ちったぁ否定しろっ♪」あっはっは♪
「で、そろそろ着替えないか?」
「え? 着替えるって? 身体ないのに?」
「見てるだけで暑苦しい。
いい加減にしろよな」
「って言われても……暑いのか?」
「音が聞こえないだけじゃなくて温度感覚もダメなのかぁ?」
「お~い、犬。頼む」
ワン♪
「って……ええっ!? 蒸し暑っ!!」
「熱帯夜だし、閉めきってるし、クーラーも止まってるからな」
「ただし本物の身体は無いからオフにも出来る。犬、オフだ」
ワン♪
「あ……ウソみたくヒンヤリ快適だ……」
「着替えは、食べ物を得るのと似てる。
慣れれば想像だけでイケるが、最初は実物を見て、これを着る! と念じるんだ」
「これなんかどうだ?
奏サンのバンドのグッズだ」
カーキ色のバックプリントTシャツと、バンドのロゴが右腿に斜めに白抜きされた淡い青灰色のデニムを持っている。
「いいんじゃないか?
兄サン、これをよーく見て、着てみろよ」
「やってみる」
よーく見て……これを着る!
「おおっ!♪」
「一発だったなっ♪」
「犬、手伝ったろ♪」
ワォ~ン♪
「いい相棒を持ったな♪ 兄サン♪」
親切な先輩ユーレイ達から教わって少しずつ成長しているカケルなのでした。
良き相棒の犬はカケルよりも優れていて、どうやら手助けを楽しんでいるようです。
ライブハウスのスタッフとバンドメンバーは、奏と響を除き、同じ高校を卒業しています。
響はタクヤと中学が同じで、大学で再会してライブハウスのアルバイトに誘われたんです。
三界奇譚のように登場人物と話す後書きは?
どうしましょうね~。
アレけっこう大変なんですよ。(苦笑)
それに展開を早くしていて思いっきり説明不足ですので、後書きは補足の場とさせていただきます。
m(_ _)m