ユーレイ探偵団結成
翌日、眩しい夏の日射しを浴びて、赤い軽自動車は海沿いの道を西に向かって軽快に走っていた。
〈今、お盆なんだろ?〉
お兄は後部座席から身(は無いが)を乗り出した。
必然的に助手席の背凭れを突き抜ける。
〈そうだけど何?〉
〈海水浴、平気でするんだな。
お盆だけは行くなって言われたのにな……〉
〈そうね。
ま、休みが そこしか無かったら行くんじゃない?
それに見えてる半分くらいは霊だし♪〉
〈幽霊が半分!?〉
〈区別つかないの?〉
〈うっ……ん……〉
男の子が お兄の背中を撫でて慰めている。
〈ありがとな〉〈ん♪〉
〈あ、そーだ。
響って外国語ダメなのか?
ほら、昨日 断ってたろ?〉
〈外国語が、ってより、外国の誰かに会いたいとか言われて行けると思う?〉
〈あ……そっか。だからか〉
〈それよりキャンプ場、あれよね?〉
〈ん? だな。
子供の頃から親父に連れられて来てたんだ。
で、免許取ってからは大学の友達と来てて。
去年は奏を紹介ついでに、響も連れて来たんだよな〉
〈ついで、って……〉じと~。
〈ちゃんと前! よそ見すんなっ!
昨日は目を合わせちゃダメとか言ってなかったか?〉
〈これは、ただのサングラスじゃないのよ♪
あの頭巾と同じなの♪
ちょっと効果が弱いし、横からのは防げない。
だから、見ず知らずの霊には使わないの〉
〈ボク……〉
〈もう顔見知りよ♪〉
〈うん♪〉〈漁港は左だ〉
〈ありがと♪〉
〈知ってる……ここ、知ってる!♪〉
〈お家、歩いて行ける?〉
〈行けるよ♪〉
〈じゃあ、そこの駐車場に♪〉
柔らかそうな髪を弾ませて飛ぶように駆けて行く男の子を追って行き、男の子が前で嬉しそうに飛び跳ねている青い屋根の家の呼び鈴を押した。
『はい』
〈おばあちゃんだ♪〉
〈退院してたのね♪〉
〈よかった~♪〉
「あの、私、以前、こちらの男の子に道案内とか お世話になって……あの、お仏壇に――」
『あらまぁ……お待ちくださいねぇ』
〈名前、思い出した?〉
〈うん♪ ボク、ソラ♪〉
〈おばあちゃんには見えないからね?〉
〈そうだよね……でも、会えるからいい♪〉
恐る恐るといった感じで玄関扉が開いた。
「突然、すみません」
「いえいえ、おひとり?」
「はい。友達はキャンプ場に」
「どうぞ。こちらに」
「はい。お邪魔します」
案内された響が お盆の飾りに囲まれた仏壇に掌を合わせると、先祖達の感謝の念に囲まれた。
〈お父さん♪ お母さん♪〉
〈翔、お帰り〉
母の胸に飛び込んだ翔の頭を父が撫でた。
〈良かったなソラ〉
離れて座った お兄が翔に笑顔を向けた。
〈お兄ちゃん ありがと♪〉
響は背後から親子の嬉しさを感じて微笑んだ。
「麦茶しかありませんが、どうぞ」
「あ、すみません。
ありがとうございます」
ご先祖様達、
部屋の両側に並んだ?
あ、響の後ろにも。
目を合わせない為か?
「ソラ君は……いつ……?」
「3年前……私が入院していた街の病院に来る途中、バスが事故で……」
「あ……あの大きな事故……」
「私だけが、こうして生きているなんて……早く誰か迎えに来てくれないかしらねぇ」
「あの……そんな事を仰ると、皆様、悲しそうになってしまいますので……あ、えっと~」
「ああ、お盆ですからねぇ。
来ているのかしら?
翔も来てるかしらねぇ」
「あの……霊とかって、信じます?」
「家族なら居るといいわねぇ」
「あの……実は私、
ソラ君を連れて来たんです。
バス事故があった近くの公園で会って。
ソラ君、何も覚えてなくて。
でも、漁港とかバスに乗った事とか覚えてたから。
漁港からはソラ君に案内してもらって、こちらに。
今、私の後ろで、お父さんお母さんと一緒に、嬉しそうにしているんです。
お盆、送るまでは、この お家に居ると思います。
これから毎年こちらに来ると思います。
どうか、そう接してあげてください」
「おばあちゃん……ボク……」
「あ……翔の声……聞こえたわよねぇ?」
「聞こえるのでしたら……失礼します」
サッと立ち、翔の祖母に頭巾を被せた。
「私専用なので、ちゃんと見えないかもですが、無いよりはマシですよね?
ソラ君、おいで♪」
「うん♪
おばあちゃん、ただいま♪」
「翔、お帰り。よう来たねぇ。
あらあら、こんなに大勢……まぁまぁ」
「この お姉ちゃんと お兄ちゃんがボクつれてきてくれたんだ♪」
「お兄ちゃん? あら♪ でも……」
「ああ、お兄は姉の彼氏だったんです。
新米ユーレイなんですよ。
成仏の仕方が分からないって。
どなたか、お願い出来ませんか?」
「ちょい待ってくれっ!
もう少し、えっと、、来年お願いします!
また、こういう協力したくなったんだ。
昨日、随分と頼まれてただろ?
俺のせいだし、その分だけでも! 頼む!」
「私に協力してたら、お姉ちゃんに会えると思っているんなら お断りよ」
「そ、それは……会えたらいいけど……それはそれ!
奏には新たな幸せを見つけてもらわないと困るし……。
そうじゃなくて、死んで、それで終わりになんかしたくないんだ。
成仏できてないヤツが大勢いるのも見たし、そういう意味で生きてたいんだよ」
「困ったユーレイね」
「でも私も翔も、確かに幸せを頂いたわ。
大変でしょうけど、幸せを運ぶお仕事、頑張ってくださいねぇ」
「仕事……って……はぁ」
ご先祖様達、笑ってるよな。
いいんだよな♪
「よし! 次だ、次♪
行くぞ、響♪」
「勝手に決めるなっ!」
「お兄ちゃん♪ お姉ちゃん♪
がんばっ♪」
「おう♪ ソラも元気でなっ♪」
「うん♪ お兄ちゃんもねっ♪
消えないように気をつけてねっ♪」
「え???」
「ユーレイは気をぬくとショウメツするんだよ?
知らないの?」
「ええっ!?」
「お父さん、お母さん、おばあちゃん。
ボク、このシンマイお兄ちゃんと一緒に、お姉ちゃんのジョシュしたい!♪」
「ええっ!?」「お♪」「あらあらまぁ」
「ユーレイ探偵団♪」
部屋中が笑い声で満たされた。
〈もう断れないだろ♪〉
〈お兄、覚えてろよ!〉
〈いや~、死人だからな~♪〉
〈どうカンケーするっ!?
まだロクに存在の仕方も知らないクセにっ!〉
〈ソラ♪ 教えてくれるよなっ♪〉
〈うん♪ シンマイお兄ちゃん、いっしょにジョシュねっ♪〉
〈おう♪〉
〈勝手にしろっ!〉
「ケッセ~イ♪」
「すみませんねぇ、お願いしますねぇ」
「ソラ君は、ちゃんと存在できていますので大丈夫ですよ。
では、こちらこそ お世話になります」礼。
「お父さん、お母さん、また来年ねっ♪
ご先祖さまも、おじいちゃんも、また来年ねっ♪
おばあちゃん、ときどき帰ってくるからね♪
いってきま~す♪」
「えっ? もう?
お盆終わったら迎えに来るわよ?」
「こまってるヒトいっぱいだから♪」
「なっ♪
行くぜ、ユーレイ探偵団♪」
「おー♪」
意気揚々とユーレイ達がスキップして行く。
翔の先祖達が微笑んで頷き、両親が礼をし、祖母が頭巾を差し出した。
「ありがとうございました。
とても良いお盆になりましたよ」
「また、お邪魔させてくださいね」
「もちろんですとも。いつでもよ」
「では、ソラ君をお預かりします」
翔の親族達に深く礼をして、響も車に向かった。
響達が暮らしている街は、北の山際の町と南の港町を併合して広くなった市の中心地です。
その広い市の西端から50km程西に在る小さな漁村に翔が生まれ育った家が在りました。
お盆の海で海水浴を楽しんでいるのは生き人と幽霊が半々……まぁ、街を歩いている人々の割合も同様ですので驚く程の事ではなかったりします。
翔の読み仮名が平仮名だったり片仮名だったりしているのは呼ぶニュアンスを表している為です。
話し言葉は固さを漢字の多さで示しています。
難読漢字も使ってしまいますが、どうか御容赦ください。
m(_ _)m