目覚めと出会い
え? ……俺……何してるんだ?
ここは?
……ああ、近所の交差点だな。
うん。
車通りも多いし、確かに近所だ。
ん? 動けない!?
靴が地面から離れない!?
何か塗ってたのか?
ガムかっ!? くっそ!
誰だよぉ、
こんな所に捨て――え?
俺の足……
地面が透けて見える……?
手は!?
こっちも透けて……
何がどうなってるんだ……?
あ! 向こうに知ってる顔!
青なったな。こっち来る♪
「お~い、響」
――と、声を掛けたつもりだったが、自分の声が聞こえなかった。
慌てて手を振ろうとしたが、それも上手く出来なかった。
俺の彼女、奏そっくりな妹の響は、視界に入っている筈の俺を完全無視して通り過ぎようとしていた。
「待てよ、響!」
なんとか腕を掴もうとしたが、空振りで――というか、俺の透けている手は掴めずに、響の腕をすり抜けた。
え? 掴んだ位置だったよな?
響は何事も無かったように遠ざかって行く。
「待ってくれって!! 響!!」
伸ばしていた自分の手が虚しく下りた。
あれ? 俺、ダウジャケ着てるよな。
周りは夏な服だよな……。
でも、暑くないぞ?
セミも鳴いてないよな?
ってか、こんな車走ってるのに
音が無い?
どうなってるんだ!?
あ……少し思い出した。
確か俺、
奏と待ち合わせてたんだよな。
だったら待ってたら来るよな。
響も家の方から来たんだし、
そのうち戻ってくるよな。
―◦―
深夜、繁華街には少し遠い この交差点は、人も車も すっかり途絶えてしまった。
眠くもならないし、
どうなってるんだか……
奏も響も来ないし……
どうすりゃいいんだ?
あ♪ 響だ。
やっと帰って来た♪
「響」
またもや響は完全無視で通り過ぎようとした。
「待ってくれよ! 響!」
「さっさと成仏してよね」
足を止めた響は、背を向けたまま低く言った。
奏と同じように少しクセのあるボブの髪が夜風に揺れている。
「成仏? って言ったのか?」
「死を受け入れたら、そこから動けるんじゃない?
ちょうどお盆だし、家に来てる ご先祖様に連れてってもらいなさいよ」
「俺……が、死んでる?」
「お姉ちゃんを護ってくれたのは感謝してる。
でも、もう何も出来ないんだから、おとなしくサッサと成仏してよね」
「待てって!
俺、考えてるし、見えてるし、何も変わってないぞ?
死んだって……ワケ分からん事――それより、こっち向いてくれよ」
「死人と目を合わせちゃダメなのよ。
おとなしく認めて、あの世に旅立ってよね」
「あの世って……どうやって行くんだ?」
「知らないわよ。
私は死んだ事なんて無いんだから」
「……確かにな。
行って、戻ったヤツとか見た事あるのか?」
「説明は難しいんだけど……本人は戻っていないと思う。
思念みたいなのは現れるよ。
お盆は、そういうのだらけになるわね。
門が開く、とでも言うのかな……」
「だったら奏に会わせてくれ!
そしたら行くからっ!」
「今さら会って、どうしたいの?
何も出来ないのよ?」
「何も、って……?」
「話しすらもね。
お姉ちゃんには見えも聞こえもしないんだから。
やっと……立ち直ろうって気になったんだから……お願いだから そっとしといてよ……」
「本当に……俺、死んだんだな……」
「やっと受け入れた?
だったら動けるでしょ?
半年も、そこでボーっと つっ立ってるの、見てるのもツラかったんだからね。
サッサと帰って、ご先祖様の思念に道案内してもらいなさいね。
じゃあね。さようなら」
響は、何事も無かったかのように歩き始めた。
少し進んだ時、横合いから現れた者が響の後ろをふわふわと歩き始めた。
「響! 危ない!!」
〈知ってる。いつもの事よ。
この霊は、私が霊と話せるって知って、何かを訴えようとしてるだけ。
この霊と話せば、他の霊も寄って来るの。
よくある事なのよ。
だから話したくなかったの〉
「悪かった!
だから待って! 響!」
〈イチイチ声にしないでよ。
どんどん集まるじゃないの。
それに私を呼ばないでよね。
霊達が私を名指しで来るじゃないのよ〉
確かに……集まってる……。
全部 幽霊か?
あ……動けた。うん。動ける。
響、待って!
霊達を連れて帰るなんて有り得ないと、早く帰りたい気持ちを押し込めた響は少し引き返して交差点が見える公園に入った。
人気の無い公園で、響は立ち止まり、袋のような物を被って振り返った。
〈私は、見えて話せるだけなの。
何も対処なんて出来ないわ!
救いを求めてもムダよ!
話して満足。私が見つけられる範囲の人への伝言。それくらいしか出来ないの!
外国語もムリだからねっ!
邦和語のみ!
それでいいヒトだけ残りなさい!〉
慣れてるってのも本当なんだな。
奏と付き合って6年くらいか?
響とも何度も会ってたのに
全く知らなかったな。
あ……けっこう素直に
去って行くんだな……。
外国語ムリって?
響は賢かった筈だよな?
半減したな。
けど、まだ20人くらい残ってるか?
あ、並んだ。
ホント、普通の人みたいだよな。
あ、俺も普通にしてるよな?
幽霊って、人なんだな。
どうして怖がってたんだろな?
物が持てないから、凶器を使う
なんてのも出来ないし、
生きてる人よりよっぽど
安全なのかもしれないよな。
取り憑くって……?
出来そうにもないな。
俺だけなのかな?
響はベンチに座り、霊達から話を聞いて、せっせとスマホに書いている。
時折、画面を霊に見せたり、けっこう親切に対応しているようだ。
並んでいた霊達が去り、スマホを仕舞った響は、背後の木に向かって、
〈迷子かな?〉
優しく話し掛けた。
小学校低学年くらいの男の子の霊が、幹の向こうから、おずおずと顔を出した。
辺りを窺うようにクリクリした可愛い瞳を巡らせている。
〈いいの?〉
〈対処できる、なんて言いきれないけど、話してみてね〉
〈うん〉もじっ。
〈ここ座って、ね?〉とんとん。
〈うん〉とことことこちょこん。
〈この頭巾は気にしないでね。
よく聞こえるように被ってるだけだからね〉
〈うん。あのね、ボク、家がわからないんだ〉
〈どの辺り、とかは?〉
〈海……市場から、いつも魚の臭いがしてた。
お母さんとバスで来て……あと……覚えてない〉
〈海かぁ。
バスで来たのは、買い物とか?〉
〈んとね……病院。おばあちゃんの〉
〈おばあちゃんの名前は?〉
〈……わかんない〉
〈お兄、そこに居るんでしょ?
せっかくだから手伝ってよ〉
「え?」
〈まだ話し方が分からないの?
ユーレイなら当たり前の話し方なんだけど?
心に言葉を乗せるのよ〉
〈こ、こうか?〉
〈で、この子と手を繋ぐ。そう。
ボク、家の周りの事、思い浮かべてみて〉
〈うん〉
〈お兄、何が見える?〉
〈市場、漁師、漁船……けっこう田舎だ。
海沿いの道をバスに乗って……ん?
この景色、知ってるぞ。
去年、響も一緒にバーベキューしに行ったキャンプ場の近くだ!〉
響がスマホに地図を出す。
〈漁港……あった!
映像……どう?〉
〈〈そこ!〉〉
〈よし♪
明日、行ってみようねっ〉
〈うん♪〉〈俺は?〉
〈どっちでもいいけど。
でも、来る?〉
〈行く! って、バスか?〉
〈私も免許あるのよ♪〉ヒラヒラ♪
〈おもっきし初心者じゃないか!?〉
〈車も買ったの♪
だからバイト頑張ってるのよ♪
でも、明日なら休みだからね♪
二人は これ以上死なないんだから安心して乗ってってね♪〉
〈うんっ♪〉〈おい……〉
――と、『お兄』目線で始まりましたが~、主人公3ユーレイと1人の内の1霊ですので お兄目線もアリなんですけど、この先は彼目線では進みません。
タイトルの3ユーレイと響が主人公ですので、時には誰かの目線で描く場面もあるかとは思いますが、複数主人公で ややこしくなりますので、基本、俯瞰です。
舞台は、とある街。北に山地、南に海が在る地方都市です。
その街で生まれ育った大学4年生の響。
響と、その姉の婚約者だった『お兄』は男の子ユーレイの家を探しに行く事になりました。
お兄が
目覚めた場所 駅
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響のバイト先 ┃ ┆ ┃ │
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公園 │ ┃ ┆ ┃ │
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港 ↓