迷える羊を追跡せよ【連体形/体言】
古びた壁に見慣れない文字が並んでいた。
―古典文法捜査班第三連隊
「なんだ、この部署は」
警察官になりたてのナリは、正直がっかりしていた。どうせならもっと華々しい部署が良かったのだ。ずっと捜査一課の刑事が活躍するドラマに憧れていたのに、なんだか当てが外れたような気がした。
失望が顔に出てしまっていたのだろう。突然、年配の警察官が話しかけてきた。
「そうがっかりしなさんな」
「失礼しました」
あわててナリは、姿勢を正して、断定するように力強く言った。
「本日付けで配属になりましたナリ巡査です」
年配の警察官は、穏やかに言った。
「タリです。定年にはあと1年足りないけどね」
そこに突然、背後から、大きな声が響き渡った。
「朝早くからご苦労様」
声も大きいが身体も大きい。まさに山のごとし。
「ゴトシ警部、お疲れ様です」
「さあ、今日も仕事、仕事。ここはね、古典文法に絡んだ事件が持ち込まれる特別チームだ。大事だという点では捜査一課と変わらないよ」
ナリが思っていたことを、ズバリと言い当てられてしまって、気恥ずかしい。
「ナリ、タリ、ゴトシ。3人そろって古典文法捜査班第三連隊の結成だ」
すると、そこに突然、巨大な白い羊が駆け込んできた。デスクの隙間を猛烈な勢いで駆け抜ける。その後を追うようにして、鮮やかなピンク色の布で全身を覆っているスーパーヒーローが飛び込んできた。
みんなで羊を部屋の隅まで追い詰めると、スーパーヒーローは歌ったり踊ったりし始めた。どうやら、これが武器らしい。そのうち、羊はおとなしくなり、スーパーヒーローの腕に納まった。
「失礼しました。終止形接続のナリが紛れ込んでしまったので、追跡していたのです。あくまで伝聞推定の域を出ないのですが、どうやら同じナリという名前なのでここが居場所だと勘違いしたようです。申し遅れましたが、私は連用戦隊レンヨージャーのタリです」
連用戦隊レンヨージャーのタリは、そう言い残すとその場を立ち去った。
新米警察官のナリは、同じ名前だからといって簡単に断定してはいけないことに気付かされた。
「早く仕事を覚えて、古典文法界に混乱がおきないようにしよう」
断定の助動詞「なり」「たり」「ごとし」は、連体形接続なのだけれど、伝聞推定の「なり」と完了の「たり」は接続が異なるというお話でした。
連用形接続のタリと終止形接続のナリについては『連用戦隊レンヨージャー』と『メリーさんの羊のラムはすごいらしいという話』をお読みください。
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