登校前夜
「よし、これで基本的な修行は終わりじゃ」
修行を初めてから1ヶ月が経った、つまりこの場所に来て1ヶ月経ったということだ。
妖子さんとの仲は相変わらず、あまり良くない。
こちらから話しかけることは多いのだが反応が全く帰ってこないのだ。
「二人とも、明日から学校じゃ!それぞれの準備はできたのか?」
「準備って言っても、制服と筆記用具くらいだから、心配ないよ。ん?2人ということは洋子さんも学校に行くの…」
「当たり前じゃろ、お前さんとは同い年何じゃから」
妖子さんは実際もっと俺よりも年上かと思ってた。
決して妖子さんが老け顔に見えると言う分けではない、ただ、その場にいる立ち振る舞いとかで勝手に年上のような感覚になっていたのだ。
「それじゃあ、二人とも明日に備えて今日は休みなさい」
「分かりました」」
2人はそれぞれの部屋に戻る。
「それじゃあ、妖子さん明日から学校頑張ろうね」
俺は修行終わり必ず最後に、この場所で話しかける。
階段を上がったちょうど、部屋の分かれている場所で。
特に理由はないが、最後に話しかけたほうが印象に残るのではないかと勝手に思っている。
だが決まって、妖子さんは俺を無視する。
相槌を返してくれたのは初めて会った日だけである。
「まさかここまで嫌われているなんて…やっぱり最初の印象が悪かったのかな。人は第1印象でだいたい決まってしまうというし。ここから印象を変えるのも難しいだろうな。何かきっかけでもあればもう少し仲良くなれそうなんだけど」
そんなことを考えながら、俺は自分のベッドにもぐりこむ。
スマホの画面を見ながら、中学の友達を思い出していた。
「皆元気にしてるかな…それにしても、LINEくらい送ってくれてもいいじゃないか。もしかして俺嫌われてた…」
日々の修行で疲れ切っていた俺はそのまま、ベッドに吸い込まれるように眠った。
「は~…今日もまた無視しちゃった…せっかく話しかけてくれてるのに、なぜか喋れなくなっちゃうんだよね。どうしてなんだろ」
私はベッドに座り、自分のしっぽを膝の上に載せ、自前のブラシで丁寧にブラッシングを始めた。
「本当はもうちょっとお話とかしたいんだけどな…」
こうやって尻尾をブラッシングしていると思いだすことがある。
それは、私がまだ小さいころ…
「お祖母ちゃん!お祖母ちゃん!何してるの?」
私のお祖母ちゃん陰の世界で名の知れた狐の九尾、大きな尻尾が9本、ゆらゆらと動きながら、何かを惑わせてしまうほどの美しさ。
私はお祖母ちゃんが大好き、今でもそう、お祖母ちゃんほど綺麗な人は陰の世界にはいないと思う。
私は何回もお祖母ちゃんに尻尾をブラッシングしてもらった。
「ねえ、お祖母ちゃんの尻尾はどうしてそんなに奇麗なの…」
「ん?それはね、毎日丁寧にブラッシングしているからだよ」
「え~、私だって毎日ちゃんとしてるよ」
「ブラッシングにはコツがいるんだよ、ただ、ブラッシングしているだけじゃ効果はないんだ」
「どうしたらいいの?」
「好きな相手のことを考えてブラッシングするんだよ…相手のことを考え、いつかこの尻尾で包んであげるんだという気持ちでやると、どんどん綺麗な尻尾になっていくよ」
「どうしよう、私、好きな相手いないよ…」
「焦らんでもいい、じっくり待っていれば次第に見るかる」
「そうなの?」
「ああ、そうじゃ、でもまだ妖子には早いかもしれんな」
そう言って私がやった時とは比べ物にならないくらい綺麗になっている尻尾を手で優しくなでてくれた。
今でも、私はまだあれだけ綺麗にブラッシングすることはできない。
「は~、好きな相手か…」