夫婦
「何だ、お前たち、もう知り合いになったのか」
俺たちが言い合いをしていたところにお爺ちゃんが入ってきた。
「お爺ちゃん、どういうこと?この人は誰なの?」
彼女がお爺ちゃんに問いかける。
俺も同じ気持ちだったから、そのまま話に耳を傾ける。
「今日から二人はここで毎日一緒にご飯を食べてもらう」
「二人でご飯を食べる?」
「そう、夫婦になるのだから少しでも仲良くなっていった方が良いだろ。仲良くなる方法で一番なのは一緒に釜の飯を食べること。これはいつの時代でも鉄則じゃな」
「どうして!私は社会見学だってお祖母ちゃんに言われたからこんなところまで来たのに、何でいきなり、こんな変態さんと夫婦にならなきゃいけないの!」
「まあ、落ち着きなさい。おぬしもいずれはそうなる運命なんじゃ」
「そ、そんな…」
可哀そうに、何も聞かされずこんなところに連れてこられ挙句の果てには見ず知らずの男と結婚させられるなんて、それを言ったら俺も同じか。でも、あからさまに嫌そうな顔をされるとこっちまで傷つくんですけど。
「ヨウコさん!殿方の前ですよ」
そこへ、リンさんが入ってきた。
「でも、お祖母ちゃん!」
「ヨウコさん、貴方が我が一族で今勇逸、陽の世界の方と子をつくることが出来るのです。それは昔から教えていましたよね」
「そうだけど、いきなりこの人と夫婦になれって言われても…」
彼女がこちらを向く。
「やっぱり無理です、この人、全然私のタイプじゃありません!」
その言葉を聞き少し悲しい気持ちになったがあっちが願い下げてくれるなら、俺もこんな面倒なことやらなくて済むかもしれない。
「まあ、まあ第一印象はそれでいい。これから時間をかけてお互いを知っていけばいいんだ。わしとリンが出会った時だって、リンはわしを見た時ドロップキックを食らわせてきよったからな」
「懐かしいですね。あの頃はまだ、世が安定していなかったものですからよくひどい目に合っていたので、挨拶してくれた夫に思わず食らわせてしまったんですよね」
「はは…×2」
「そういう事じゃ、これから毎日、一緒にここでご飯を食べること」
「はい…」
彼女は勘弁したようで僕の反対側に座る。
しかし、彼女の眼はまだ死んでいないところを見るとまだあきらめていないように思う。
一度部屋から出ていったリンさんが夕食を持ってきてくれた。
「今日の夕食は祐介さんが持ってきてくださった稲荷ずしです」
そういえば、お祖母ちゃんからもらった稲荷ずし、正確に言えば、お祖母ちゃんに変身していたリンさんがくれた稲荷ずし、ずっとリンさんに預けっぱなしだったことを今思い出した。
「稲荷ずし!」
彼女はその言葉を聞くと、さっきまで俯いていた顔が嘘かのように顔が明るく晴れる。
その顔を見られ恥ずかしかったのか目をそらす。
「ヨウコさん稲荷ずし好きだものね」
「好きなんてものじゃないです、稲荷ずしに埋もれて死にたいくらい大好きです!」
そこまで好きなのかよ。
「あなたが、稲荷ずしを持ってきてくれたの?」
「あ、ああ喜んでくれるかと思って」
彼女は机の上から近づいてきて俺の手を握る。
「ありがとう、稲荷ずしのことだけは忘れないから」
俺のことは覚えてくれないのかよと思ったが、見かけによらず小さな手で少しドキッとした。
稲荷ずしを持たせてくれたのは彼女を喜ばせるついでに俺の評価を上げるため、リンさんはここまで見越して、俺に稲荷を持たせたのか。