本家
お爺さんについていくと。
「ここは?」
「陰の世界と陽の世界の中心じゃ」
「中心?」
「そう、ここに来ることが出来る存在は陰と陽の2つの魂を持つ者だけじゃ」
「え、でも、リンさんがここに…」
後ろを振り返ったが、リンさんはそこにはいなかった。
「え、リンさんはどこに!」
周りを見渡すがその姿が見えない。
「リンは陰の世界の住人だ、陽の世界に存在しているというよりかは陽の世界に乗っかっている状態に近いこの場所は、陰の世界とも用の世界とも違う空間じゃ。ここに入るためには陰と陽の魂を持っていなければならない」
「ちょっと待ってよ、じゃあ、お爺ちゃんは陰と陽の魂を持っているっていう事」
「そういう事じゃ」
「じゃあ、爺ちゃんと一緒にここに居る俺って」
「そうじゃ、お前さんも陰と陽の魂を持っていることになる」
「陰と陽の魂を持っているってどういうことなの?」
「簡単に言えば、お前さんは人と妖魔の息子ということになる」
聞き間違いじゃないかと耳を疑った。
「人と、妖魔の息子…ってどういうこと」
「そのまんまの意味じゃよ」
「昔、親父に母さんのことを聞いたことがあったけどその時は『お前を産んでから死んだ』と。写真もないのかって聞いたら、『写真が嫌いなやつだったんだ』とそれ以外何も教えてくれなかった」
「半分正解で半分は嘘じゃな。確かに、お前の母さんマイはお前さんを産んでから死んだ、というよりも陰の世界から消滅した、写真が嫌いだったのは本当じゃがな」
「消滅…」
「そう、あ奴は大罪を犯した」
「いったい何をしたの…」
「心を閉ざしたのじゃ」
「心を閉ざした…」
「我が息子、神陽一郎は、我々の責務を放棄し、心を閉ざしたお前さんを連れてな」
「どうして」
「理由はわからん。だが、わしの憶測として、奴は人になりたかったのであろう」
どういうことか分からなかった。
どうして親父は母さんを置いてここから出ていったんだろう。
「その時は、問題なかったしかし、問題が起こった」
「問題?」
「わしが老い始めたのじゃ。わしは陰と陽の魂を持ってはいるが、陽の力が強かった。その為、わしには寿命がある。つまりは、人族に近いということだ。わが一族、神家は陽の世界で勇逸、陰の世界のものと子をつくることが出来る一族じゃ。そして、リンの一族、狐の妖魔一族は陰の世界で勇逸、陽の世界の者の子を身ごもることが出来る一族なのじゃ。我々にはこの陰と陽の狭間を管理する役目がある。次期頭首として陽一郎は、この場所にいなければならなかった。しかし、奴の代わりにお前さんがここに来たという事じゃ」
「じゃあつまり、親父は親父の任務を俺に擦り付けたってことか」
「そういう事になるな。だが、お前さんもいずれはここの頭首にならなければならない存在なのだ」
「そんなこといきなり言われても、お爺ちゃんには寿命があるって言ったけど、その言い方だとその前の頭首さんたちには寿命がなかったんじゃないの?」
「確かに、前頭首のわが父には寿命がなかった。しかし、どの頭首にも偏りがあったのじゃ」
「偏り?」
「そう、わしのように、陽の魂が強かったり、前頭首のように陰の魂が強かったりする。そうなると、いずれ、どちらかに偏りが生じ、この場に入ることが出来なくなる」
「そうだったんだ」
「それにもかかわらず、バカ息子は!」
「親父が逃げた」
「そう、さらに奴は陰の魂を拒絶した。つまり奴にはもう、陰の魂を持っておらんのじゃろ。だから、奴はおぬしをここによこしたのじゃ」
「で、でも、俺じゃなくていいんじゃないの…」
「そういうわけにもいかん、分家と本家では魂の質が全く違うのじゃ」
「本家って言っても、他に誰かいるでしょ」
「わしには兄弟がおらん、姉と妹はおるがな。わしの息子も、陽一郎しかおらん洋一郎の妹はわしの娘はとっくにほかの神社に嫁に行っとる」
「神家の男と、妖魔の娘しか子は生まれん」
「じゃ、じゃあ、ほんとに俺しかいないってこと…」
「そういう事じゃ。」
「そ、そんな…俺の自由な人生設計が…」
「これから、お前さんには教えなければならないことが山ほどある。神家の頭首としてこの世界を回す責務を全うしなければならないのじゃ」
「勘弁してくれよー!」