仕事
「ヨウコ!藤の間にお通し持って行って!」
「は、はい!」
「陽介君は団体様の配膳準備!」
「は、はい!!」
――何でこうなった…
「え…爺ちゃん、働くってどういう事?」
「何を言っとるか、ここは由緒正しき旅館じゃぞ。陽の世界から見ればここは神社、陰の世界から見ればここは旅館なんじゃ」
「つまり…旅館の仕事をしろと…そういう事ですか」
「その通り、しっかりと働けば給料も出る。仕事をしながら、日々の勉強、鍛錬が出来るなんてありがたいと思わんかね」
「え…そう言われても、俺…旅館で働いたことないし」
「初めから難しい事なんかさせんよ、時機に慣れて行けばいい」
「そうは行っても!この量は素人にやらせるものじゃないだろ!!」
――ここってこんなに広かったけ。いったい何畳あるんだよ、ここを掃除して台を置いて…いったい何個あるんだ、この台。
「陽介君準備できた?そろそろ配膳しないと間に合わないんだけど」
「は、はい!も、も少しで出来ます」
「分かったわ、なら持ってくるわね」
――ひゃ~、早い、早い…目まぐるしく仕事が回ってくる。えっと、これが終わったら、次は団体の布団を敷きに行かなければ。
「個数良し、位置良し、…大丈夫だな」
「ヨウコさん、次団体の布団を敷きに行ってきます、この後よろしくお願いします」
「了解、こっちもあと少しで配膳終わるから、団体さん呼んできて」
「了解です」
「えっと…確か…ここか」
襖に手を添え、静かに開ける。
「す…すみません…お食事の準備ができました…」
部屋の中は人以外でごっちゃがえしている…
「お、食事だってよ皆!確か藤の間だったよな」
「はい、そうです」
人外なるものが大勢部屋から出ていき、広い部屋がガランと一気に静かになる。
「あ~、早く布団を敷かないと」
「あの…」
あわただしく旅館の仕事をしていると…いったい何族だろうか…猫耳に尻尾が二つ。。ももさんと同じ猫又族だと思うが一人の少女が困った顔で話しかけてくる。
「どうしましたか…」
「みんなどこに行ったか分からないの…トイレ行ってたら皆どっか行っちゃってて…」
泣きそうになっているのを何とかなだめる。
「えっと、ここの部屋に皆いたの?」
「うん…」
「ならみんな藤の間にいるよ」
「何処か分かんない…」
――そりゃそうか…
「分かった、一緒に行こう」
少女の手を取り、藤の間に案内する。
藤の間に連れて行くと、お母さんらしき女性が駆け寄ってきた。
「お母さん!」
「ああ、良かった。もうどこに行ってたのよ。心配したじゃない」
どうやら一人いないことに気づきパニックになっていたらしい。
「すみませんでした、子供たちと遊んでいたものですからてっきり先に来ている者かと…」
「いえいえ…無事でよかったですよ」
「本当にありがとうございます」
何度もお礼されたが別に俺は何もしていない、ただ聞かれただけのことをしたまで。
「さっさと、布団敷きに行かないと…間に合わないぞ」




