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第15章「嘆きと大地の歌」 2-22 意識を合わせる

 「なにがなんだか、わからねえでやんす」

 これは、プランタンタンの素直な感想だった。速すぎるのだ。

 「おまえ、エルフのくせに眼がわりぃのかよ?」


 小鼻で笑うフューヴァに云われ、プランタンタン、鼻息も荒く、

 「そういう問題じゃねえでやんす!」

 その時、またギャラリーからドッと声が上がった。

 第2ラウンドだ。


 読者諸氏は、第11章においてピオラが一般勇者たちの挑戦を受けた時に、超高速化魔法で戦う勇者たちを通常の動きで難なく撃退したことを覚えておいでだろうか。


 それはもう、トライレン・トロールの戦闘本能というべきもので、超高速化に速度で対応したのでは無く、動きを本能的に予測し、超高速行動の軌道に拳や肘を「置く」だけで、敵のほうから超高速でぶつかってきていた。時速数百キロにも匹敵する速度で、鋼鉄にも匹敵する肘や拳にぶつかるのだから、生身がただ・・で済むわけがない。防御魔法も貫いて、勇者たちは即死した。


 それを看破したのはルートヴァンであったのだから、とうぜん、いま、ルートヴァンはそのことを理解している。


 その野獣めいた感覚・・に技術で対抗するのは、かなり厄介であることも。

 「ずぉおおりゃああ!!」

 こんどは、カルムシュから仕掛けた。

 ルートヴァンが高速化で対応しつつ、カルムシュの速度に意識を合わせる・・・・


 眼にもとまらぬ速さで攻撃するのが超高速化魔法の神髄だが、感覚や意識まで高速化しなくては、ただ猛スピードの自動車に乗っているだけだ。相手に衝突するなどの事故も起きる。相手がスローに見えて、自分がそれを認識し、それに対応して動くことまでやっている勇者は、そうとうな高レベル勇者であった。一般勇者レベルではそういう発想がまず無いし、高速化魔法を施すのは自分では戦わない魔術師であるからして、そういう魔術もまず無い。ルートヴァンクラスの魔術師でないと、そのレベルまで意識が無いのである。


 超高速化魔法中に相手に合わせて動けている時点で、その意識や感覚がある証拠だ。カルムシュの攻撃を避けつつ、間合いに入って杖で受けたのは武器ではなくカルムシュの腕だった。瞬間、カルムシュが間近のルートヴァンめがけて膝蹴りを放ったが、それは強力な魔法防御が防いだ。衝撃にルートヴァンが押されて下がり、間合いがひらいた。その姿勢のルートヴァンに、カルムシュが肩からタックルをかました。その速度にルートヴァンが反応し、さらに横に避けながらカルムシュの足につっかえ棒めいて杖を起き、カルムシュの足がそれに取られて、豪快に舞台に転がった。


 その勢いで転がりながら素早く起き上がり、片膝のままカルムシュがルートヴァンを睨みつける。その表情かおには、もう憤慨や油断、怒りは無く、純粋に強敵を認め、戦うことのできる喜びが浮かんでいた。


 「あんた、魔法使いのくせに、たいしたもんだあ!! すげえ!!」

 「そいつは、どうも」

 ルートヴァンがそう云って不敵に口元をゆがめるが、傲岸さや侮りは無い。


 「ダラダラやっていても、日が暮れるだけだ。次で決めようと思うが、勝負を受けるかね?」


 「応よおお!!!!」


 ルートヴァンが杖に恐るべき魔力を集中させた。マンガやアニメだったら、魔力が効果音付でとぐろ・・・を巻いているだろう。


 「……うおお……!!」


 それはトロールたちにも敏感に伝わり、ギャラリーも固唾をのんだ。カルムシュも、ワクワクすると同時に、戦慄に震えた。


 (さっすが、魔王の手下だあ! こ、こんなすげえやつと戦えるなんて……!)


 同時に、ピオラがその仲間になっているということにも、急に誇らしい気分になる。


 (ダジオンが、みんな魔王に従ったってえのも、分かる気がするう!)


 魔力の凝縮はすぐに収まり、ルートヴァンの杖が、まるで神話の英雄が持つような仰々しい魔槍に変化した。あるいは、巨大ロボットアニメの主人公機が最後の戦いで持つ、試作の決戦兵器のような。


 ルートヴァンがそれを下段に構え、吶喊の構えになる。


 とたん、まがまがしい巨大な魔力の穂先が、巨大肉食昆虫の顎が開くがごとく、ガッと開いて牙をむき出しにした。


 そこに、さらに魔力が集中する。

 まともにくらえば、カルムシュなどズダズダに引き裂かれて即死するだろう。

 が、そこはルートヴァンも分かっている。

 これは、演出だった。

 (来るぞお!)


 カルムシュが本能でそう感じた瞬間、魔力を後方に噴出し、ルートヴァンがジェットスタート! 数メートルなど瞬きする間もなく到達する。


 ルートヴァンの高速化対応した眼と意識がスローモーションでカルムシュに迫り、見かけは派手だが威力を弱めた魔力の塊をカルムシュの顔面めがけて突きつける。


 だが、カルムシュは予知能力めいた本能で、その軌道に斧剣を合わせて防御した。

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