第15章「嘆きと大地の歌」 2-21 格闘魔法のみ
「次い、あがれえ!」
ラディラが声を張り上げ、軽い浮遊魔法でルートヴァンがヒョイと飛び乗った。
相手は、カルムシュだった。
「おめえかあ。そう簡単に魔法はくらわねえ」
ギリシャ彫刻めいた端整な筋肉を躍動させ、巻き毛のカルムシュが云い放った。右手には、斧剣のような、独特の形の武器を持っている。強いて云えば、長さ1メートル半はあろうぶ厚い幅広剣の先端が開いて斧になっているような武器だった。
「では、僕も格闘魔法のみでやらせてもらおう」
「なんだってえ!?」
カルムシュとラディラも驚き、ルートヴァンを見やった。特にカルムシュはしめたとばかりに、
「本気か、おめえ! 素直に火やらカミナリやら使っとけえ! 強くなる魔法をいくら使ったって、人間なんかおれらにかなわねえ!」
「だから、面白いのだろう?」
ルートヴァンがラディラを見あげ、不敵にほくそ笑む。ラディラはそんなルートヴァンを真剣な眼差しで見下ろしていたが、
「おい、カルムシュ!」
「なんでえ、巫女様あ」
「舐めてると、痛え眼をみるぞお。ただの人間じゃねえのは明らかだあ」
「だけどよ……」
「魔王の手下だぞお!」
「へ! 舐めてるのはこっちだあ! 魔法使いが、実際に戦えるわけがねえ! そこまで云っておいてよお、不意打ちで火やらなんやら使ってみろお! 魔王の威厳も地に落ちるぞお!」
「フ……その通りだ。ま、試してみて御覧じろ」
「いい度胸だあ! 太鼓鳴らせえ!」
ラディラが下がり、
「始めだあ!」
太鼓が鳴ったとたん、魔法というより魔力の直接行使で白木の杖をカーボンファイバーにも匹敵する強度にしたルートヴァンが、超高速化魔法、打撃力・防御力強化魔法の9重掛けにも匹敵する威力を発揮!! 杖を槍構えにし、吶喊する。
「!?」
息を飲んだカルムシュが本能で斧剣を構えて楯がわりにしたが、ルートヴァンが杖術をもってその剣を巻き落としに弾いたものだから、剣がひとりでに動いたように凄い勢いで流れ、そのまま右腕も引っ張られたので、カルムシュの前ががら空きになった。
そこにルートヴァンがカルムシュのシックスパックに分かれた白い腹に杖を突き当て、魔力推進で強力に押した。
「……!!!!」
カルムシュが電車道で後ろに下がったが、なんとその突きを止めた。
「ほう」
ルートヴァンが愉し気にカルムシュを見あげたとき、カルムシュが斧剣をルートヴァンの脳天に叩きつける。
ルートヴァンが歩を変えながらかわし、一足でカルムシュの斜め横に移動するや、杖を振りかぶって、かわされたまま斧剣で石舞台を打って前かがみになっているカルムシュの首筋を打ち据えた。
ガクッ、とカルムシュが片膝をついたが、その姿勢から打った姿勢で硬直するルートヴァンめがけて横薙ぎに斧剣を叩きつけた。
ルートヴァンが一足跳びに下がって、横一線の斬撃を避ける。斬撃と云っても、100キロを超える大剣だ。まともにくらったら、胴体がひしゃげ千切れるだろう。
カラぶった位置でビタリとルートヴァンに剣先をつけたカルムシュに、ルートヴァンも避けてからの反撃ができずに、いったん仕切り直しとなった。
「うおぉ……!!」
その緊迫した攻防に、トロールのギャラリーたちも歓声を忘れて息を飲んだ。トライレン・トロールにしては軽量級の斧剣を持っているだけあり、カルムシュはスピード重視だ。そもそも、いかに魔法の手助けがあるとはいえ、人間やそこらがまともに戦っている時点で、純粋にすごい。
「やるじゃねえか、ルーテルさん!」
ガフ=シュ=インでルーテルが直に戦っているところは既に見ているフューヴァであったが、それでもやっぱりすげえもんだと感嘆した。
「で……殿下が、杖の戦闘術を修めているとは伺っておりましたが……これほどとは……!」
ホーランコルが驚愕して舞台を凝視した。
(お……おれなど、足元にも及ばん……!!)
戦士としてのプライドが、粉微塵になる。ルートヴァンは魔法使いなのだ。魔法で負けるならともかく、これでは魔法抜きでもかなうかどうか。
(まいったね、どうも……)
妙に気負っていたが、心の底からバカバカしくなった。苦笑しか出ぬ。




