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第15章「嘆きと大地の歌」 2-16 なかなかの好勝負

 流石のピオラもそれをまともに食い、ぶっ飛んだ。が、こちらも石舞台に転がった瞬間、すかさず襲いかかったフィランデめがけて、寝た姿勢からカポエイラかブレイキンめいて長い脚を振り回して回転蹴り。フィランデが咄嗟にそれを長柄で受け、飛びかかった姿勢のまま横倒しに床に転がる。


 そしてほぼ同時に、ピオラは起き上がりざま、フィランデも転がってから素早く起きて、互いに振りかぶった多刃戦斧とハルバードを打ち合った。


 鈍い金属音がし、火花と共に互いの武器が弾かれる。

 「うぅるああらあああ!!」

 「ぃいいえりゃあああ!!」


 そこから、ひたすら互いの武器を打ち合った。これは武器と武器と合わせて、まず相手の武器を弾き飛ばすか破壊する戦闘法だ。


 ピオラのパワーを、フィランデがスキルで受ける。だが、重さも強度も多刃戦斧のほうが上だ。華奢なハルバードで、いつまでまともに受けていられない。


 もっとも、華奢と云ってもハルバードの柄も太さが数センチはある鋼鉄の棒だ。トライレン・トロールの鍛冶職人は、人間よりも頑丈な鉄を精製し、そのパワーで打ちつけて強力な鋼にする。しかも、斧と槍先の部分はゲーデル山岳エルフの造り出したグレーン鋼である。全体がただの鋼鉄のピオラの斧より、強度も鋭さも段違いだ。


 「どうぅえりゃああああ!!」


 腹に力を入れ、両足を踏んばって、フィランデが振り下ろされるピオラの斧をすくいあげるようにしてその鉤斧を引っかけて受け、絶妙に操作してからめた。グレーン鋼の鉤先が多刃戦斧の突き出た刃の峰の部分に食いこみ、ガッチリと固定される。


 「ぬ、ぅうっ……!」

 ピオラが驚いて、ハルバードを奪い取ろうと踏んばった。

 それを、両手で柄を持ったフィランデが逆に戦斧を奪おうと力をこめる。


 こうなると、上手く使えば梃子の原理で長柄のほうが有利だ。また、ピオラは片手でフィランデは両手の違いもある。


 「なん……コノヤロ……!」

 ピオラが、歯を食いしばって力をいれる。

 「このくそ……!!」


 フィランデも牙をむき、ガッチリと柄を両手でつかんで引っ張りこんだ。鋼鉄の柄が、弓なりにしなる。柄が完全に折れ曲がるのが先か、組み合わせたグレーン鋼の斧部が壊れるのが先か、互いの武器のどちらかが奪われるのが先か。


 「ふんぬああああ!!」

 ピオラの筋肉が盛り上がり、額に血管が浮かんだ

 「こんのヤルぉおおおおお!!」


 それは、フィランデも同様だ。牙が折れんばかりにかみしめ、全身の力をこめて踏ん張った。


 ギャラリーのトロールたちが、大歓声をあげた。なかなかの好勝負だった。みな、フィランデを応援する。


 「気合い入れろお、ピオラあ! オラアッ!」

 「ピオラの旦那あ! 踏ん張りどころでやんすう!!」

 フューヴァとプランタンタンも、負けじと声を張り上げた。

 「膠着か?」

 ルートヴァンがつぶやいたが、


 「ピオラが有利じゃない?」

 ルートヴァンの顔の高さまで浮かんでいるオネランノタルが、そう答えた。

 「ほう……どうしてです?」


 「実戦数がさ」

 オネランノタルが、そう云って翠の眼と黒の眼の四ツ目を細める。

 「フ……たしかに」


 ルートヴァンが納得してほくそ笑んだそばから、ピオラがいきなり斧を離したものだから、フィランデがすっぽ抜けて真後ろにひっくり返った。


 同時に、勢いが余って多刃戦斧が後ろにぶっ飛び、それに引っ張られてハルバードも場外まで飛んで行ってしまう。


 「アッ…!!」


 と、フィランデが思ったときには、倒れているフィランデに獣めいてとびかかったピオラが馬乗りになって、ボゴボゴに殴りつけている。


 ドッ、と歓声がゲーデルの山間に響き渡った。

 「ヤレヤレ、やっちまえ、ピオラああ!!」

 「一気にきめちまうでやんすううううう!!!!」

 フューヴァとプランタンタンが、飛びあがって叫ぶ。

 「そこですうううううううう!! ピオラさあああああああんんん!!!!」


 少し離れたところでは興奮して立ち上がったペートリューも眼をむいて水筒を振り回し、叫びまくった。ふりまかれた酒がかかり、近くで座っていたキレットとネルベェーンが辟易して眉をひそめた。少し、離れる。


 これが帝都の辻闘フラウトであればピオラの勝ちは決定的だが、今は相手もトライレン・トロールだ。いくら殴られようとも、フィランデはビクともしない。それどころか、凄まじい重さと速度のピオラの両拳をフィランデがそれぞれ掴んで止めた。

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