第15章「嘆きと大地の歌」 2-13 単純な連中
「こんなもの、どうやって用意したのだ?」
「巫女サマの魔法じゃねえ?」
ピオラがそう云って、準備運動を始めた。
云われてみれば、昨日、巫女の家? の太い木々が勝手にひん曲がって玄関を作っていたのを思い出す。
「トライレン・トロールが魔法を使うなどと、まったく知らなかった。あとで、学院の教授陣に知らせてやるとしよう」
ルートヴァンが、低くてだだっ広い一枚岩を削りだしたような石舞台を触り、楽し気につぶやいた。
「おまえたち、こっちだあ」
エランサに呼ばれ、一行がぞろぞろと会場の隅に向かう。
「こっち側が魔王軍、あっちがおれたちだあ。臨時の祭りで、みんな喜んでるう」
確かに、既にギャラリーが集まってきている。みな、トロールだ。酒やら肉やらをもって、何かの興業のような雰囲気だった。
「ここに座りましょおお~~~~~~ここにい~~~~~キレットさんと、ネルベェーンさんも~~~~いっしょに座りましょおお~~~~~」
もうほろ酔い……を通り越して、朝からグデグデにいい気分のペートリューが、そう云って少し坂の上の見晴らしの良い場所を陣取った。
トロールたちの視線を浴びて緊張しているキレットとネルベェーン、相変わらずのクソ度胸というか、なんにも動じないペートリューに感心する。
「キレットさんも飲みますう~~~~~??? あったまりますよおお~~~~~」
帝都の蒸留酒であるリヤーノをストレートのまま水筒で勧められ、キレット、
「い、いや、けっこうです……」
「そうですかあ~~~~~」
ペートリューが、水を飲むようにリヤーノをストレートでがぶ飲みした。いつものことながら、間近で見やって、その迫力にキレットがドン引きする。
「決まりはかんたんだあ。目つぶしと咬みつきはだめだあ。武器はいいけど、殺すのもダメだあ。だけど間違って死んじまったら、運がねえ」
エランサがそう云ってニヤリとして一行を見下ろしたが、ルートヴァン、
「フ……心配するな、こちらも手加減する。死にはせんよ。おまえたちがな」
「なにおお!?」
一転してエランサの眼が一瞬、怒りで赤くなり、牙をむいた。
「エランサも出るのかあ?」
ピオラに云われ、その怒りの表情のまま、エランサが、
「あたりめえだあ! もし当たっても、容赦しねえからな、ピオラあ!」
「望むところだあ!」
気合を入れて、ピオラが両頬を叩いた。
「おおーい、はじめっぞおお!」
エランサが呼ばれ、行ってしまった。
石をくりぬいた胴に竜の皮を張った巨大な太鼓がドドーン、ドーンと雷鳴のごとく低く響いて打たれ、急いでギャラリーのトロールたちが集まってきた。中には子供もおり、なかなか愛くるしい。
石舞台の上に巫女のラディラが上がって、
「これより、臨時の5人勝負だあ! フィーデ山の火の魔王を倒したっちゅうイジゲン魔王とその仲間が俺たちの代表を5人抜きすればあ、話をきいてやるんだあ! みんな異存はねえなああああ!?」
ギャラリーがいっせいに歓声を上げ、巫女の意に従うことを示す。
「フ……単純な連中でよかったですな」
ルートヴァンがそんな光景を見渡し、ニヤニヤしながらオネランノタルにそう云った。オネランノタルも四ツ目を悪い笑みにゆがませて、
「まったくだ……しかも、初手はストラ氏だからね。第1戦で、後悔させてやるとしよう」
その会話を聴いていたホーランコル、どんどん顔が青くなる。
「1人目、上がれえ!」
「おおッッしゃああああ!!」
なんと、トロール陣は初手から族長のレラルヴォが上がった。
「さ……聖下、はなはだ下らぬ催しですが、ものすごく手加減していただき……ここは、最初から連中に一泡ふかせ……」
と、ルートヴァンがそう云って周囲を見渡したが、
「……聖下はどこだ?」
「え?」
ギョッとして、フューヴァとプランタンタンもあわてて周囲を見やる。
「おい、フューちゃん!」
「いっ、いやっ、さっきまでここにいたんだぜ! な、なあプランタンタン!」
「へ、へえッ、たしかにいやした!」
「いま、いないじゃあないか!」
「で、でもっ……」
プランタンタンもドッと汗をかいた。




