表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/1262

第3章「うらぎり」 2-4 喧々囂々


 その後は、三人して洞窟の中で喧々囂々けんけんがくがくである。

 「どうするんだよ、なんでもっとできねえって強く云わなかったんだよ!」


 「云ったでやんす、云ったでやんす! でも旦那がさっさと行っちめえやんしたの、見てたでしょうが!」


 「そら、見てたけどよ!」


 「フューヴァさんこそ、いっしょに旦那を止めてくれると思ったのに、なんにもしねえであっしに任せっきりだったでやんしょうが!」 


 「おんなじだよ、パッと行っちまったんだもの!」


 その横で、ペートリューがガバガバと小樽を開け、ついにはひと樽を飲み干してふた樽めに口をつけた。


 「てめえ、この、飲んでる場合かよ!!」


 さすがにカチンときて、フューヴァがその両手に抱える小樽を叩き落そうとしたが、こういう時だけペートリューはすごい反射速度でそれを避け、


 「喚いてたって、どうにもなりませんよ。動かないなら動かないで、黙ってジッとしていたほうがいいと思いますが……」


 「なんだと、てめえ!」


 「じゃあ、仲間の救出に出るんですか!? ストラさん、もう攻撃を始めると思いますよ!? 行くなら、速く出ないと!」


 「この女……!」

 掴みかかろうとするフューヴァをプランタンタンが止め、


 「ペートリューさんこそ、いまこそお得意の魔法を使ってくだせえよ。ここは、ペートリューさんがかしらになっていただかねえと……」


 「私の魔法なんか、何の役にも立ちませんよ」

 自嘲に顔をゆがめ、ペートリューのやけに早口でハッキリとした声が響いた。

 「こっちは、お前の役に立たねえ魔法より、もっと役に立たねえんだよ!」

 「威張って云うことじゃないでしょう!?」


 「おまえだって、たまには魔法を使えよ!! 魔法使いなんだから!!」

 「だから、魔法だからってなんでもできるわけじゃないんですよ!!」

 「ホントに魔法使いなのかよ、おまえ!?」

 「偽物だったら、どうするっていうんですか!?」

 「ま、まあまあ、二人とも……」

 プランタンタンが割って入り、二人が離れて荒い息をつく。


 「……逃げましょう、逃げましょうよ」

 「逃げるだと!?」

 フューヴァが思わず立ち上がった。

 「そうですよ、逃げるしかありませんよ!」

 「よくそんなことが云えるな、てめえ!!」


 「大丈夫ですよ、ストラさんだって許してくれますよ。それにストラさんは、たぶん私達が逃げたって、ぜんぜん平気ですよ」


 ペートリューが、岩壁の闇を見つめてそうつぶやいた。


 「旦那といっしょに逃げるのと、旦那から・・・・逃げる・・・のじゃあ、天と地の差でやんす!!」


 プランタンタンが叫び、

 「そうだよ、おまえ、こんなところで、逃げた後どうするんだよ!」

 「じゃあ、いま、どうするんですか!! いま!!」

 「分かんねえよ!」

 「逆ギレするな!」

 「なにを、この酔っ払い!!」

 「だれがおるんがあ!?」

 「!?」


 野太く、聞き取りづらい声がして、松明がかざされた。それが、マンシューアル訛りのフランベルツの言葉と分かるのに、時間は要しなかった。岩場の隙間に入ってきた男たちの服装が、暗がりにも見たことも無いものだったし、肌も浅黒く、明かりにも表情が分からなかった。


 「……放せ、コノヤロウ!!」


 真っ先に押さえつけられたフューヴァが叫んだが、たちまち岩場の外に引きずりだされて縄状のもので縛り上げられた。


 ペートリューは逃げるどころか必死になってワインの小樽を抱えて死守せんとしたが、二人に取り押さえられ、樽も没収された。


 唯一、プランタンタンだけが、獣じみた身のこなし・・・で兵士達の足元をすり抜け、森の闇に消えた。


 「おい、女だぜ! こんなところに女だ!」

 これはもう、マンシューアル語である。

 「連れてく前に楽しもうぜ!」

 一人がそう云って、もうペートリューを地面に押し倒した。

 「ペートリュー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ