第15章「嘆きと大地の歌」 2-12 5人勝負
「ふたっつめはあ、そこまで云うなら、おれたちも、ゲーデルの山エルフたちとの仲をとりもってくれえ!」
その言葉には、トロールたちも、あっとなって真面目な顔でみなうなずいた。
「ゲーデルの山エルフと云うと、山頂付近に住む、ゲーデル山岳エルフでしょうか? なにか、トライレン・トロールと問題が?」
「ちぃいっとばっかなあ。だから、おれたちもふたっつのエルフと揉めてる場合じゃねえんだあ。草原エルフなんかと話してる余裕は、ねえわけよ」
「どうします、ルーテルさん」
ストラがルートヴァンに振り向き、そう尋ねたが、
「まず、1つずつ片付けましょう。それで、草原エルフたちと棲み分けしてくれるのなら、よろしいのでは」
「いいでしょう。では、そういうことで」
ラディラがうなずき、
「決まったあ! 祭りの時期じゃねえが、5人勝負の準備だあ!」
トロールたちが歓声を上げ、にわかに集落が慌ただしくなった
「まず、5人勝負とやらか……なんだそれは、ピオラよ。模擬戦で勝てばよいのだろう?」
夜まで騒がしい集落の隅で、一行が野営をしている。
「しらねえ。ゲーデルの儀式だあ。でも、名前のとおりじゃねえのお?」
「ま、そうだろうが」
ルートヴァンも笑う。
ちなみに、オネランオタルの次元倉庫に蓄えているほかに、ピオラの分もふくめてたっぷりと干した竜肉を与えられ、みなでそれをひたすら焼いて食べている。
「5人抜きってことは、5人だろ? 魔法使いもいいのかい?」
オネランノタルも楽しそうだった。
「いいはずだあ。でも、みんな強えぞお。あたしより強え」
「えっ、ピオラの旦那よりですかい?」
プランタンタンが驚いた。ピオラ自体がとんでもない強さだが、トライレン・トロールの戦闘種としては、普通なのだ。
「なんだっていいさ。私だろ? ストラ氏だろ?」
「魔王が出るのかよ!」
フューヴァが眼を丸くし、
「ストラさんじゃ、勝負にならねえだろ」
そう云って、楽しそうに笑った。
「魔王の力を観たいとか云ってるんだから、たっぷりと観せてやればいいんだよ! ただし、手加減してね。……で、ピオラもこっち側かい?」
「じゃねえのお?」
バリバリと肉を食いちぎり、ピオラが、
「そしてタイコーだろお? あと1人は、どうするんだあ?」
云われてみれば……と、ルートヴァンが皆を見回した。
「フローゼがいれば、当然フローゼだが……あと1人か」
プランタンタン達3人は論外。キレットとネルベェーンも、直接戦闘は不利だ。しかも、相手は模擬戦とはいえトライレン・トロールだ。
必然、ホーランコルに視線が集まった。
「ま、そ……そうなるでしょう……な」
ホーランコル、嫌な予感が当たったとばかりに、肉を呑みこんでのどに詰まらせ、胸を叩く。
相手は冒険者や暗殺者、下っ端魔族どころではない。勇者級もひとひねりのトライレン・トロールだ。本気でやりあって、ピオラにすら勝てるイメージがつかないのに、それより強そうな戦士を相手にできるのだろうか。
「なに、我らもできるかぎりの魔法で補佐をする。どっちにしろ、おまえしかおらん。諦めろ」
あっさりとルートヴァンがそう云って、ホーランコル、
「ぎょ、御意……!」
と目を白黒させる。
「きまったら順番、順番だ! くじを引くよ、くじ引きだ!」
「くじ引き好きだなあ、おまえ」
フューヴァが笑っている前で、オネランオタルが魔力で白い棒を出す。それを適当にみなで引くと、棒の先端に数字が書いてあった。オネランノタルがそれぞれ確認した。
「1番はストラ氏 ! 2番がピオラ! 3番が私! 4番が大公! そして大将がホーランコルだ!」
ホーランコルが、ひきつったような音で息を飲んだ。
「1番から4番まで勝ったも同然。ホーランコル、おまえで全てが決まると心得よ!」
「あ……う……!」
ルートヴァンにそう云われ、ホーランコルが、胃をおさえた。
プランタンタンが、気の毒そうに見つめて目を細めた。
翌日、集落の谷間の中央広場に、一晩で大きな石舞台が出来上がっていたので、ルートヴァンらも驚いた。




