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第15章「嘆きと大地の歌」 2-11 条件

 「その通りだ。君らの獲物を追い散らかしたことは、エルンスト大公と異次元魔王の名において云って聞かせた。反省し、二度としないと魔王様の名にかけて誓った。ゲドルらと共存するし、なにより、フィーデ山の噴火で灰に埋まってしまったアデレの平原が元に戻るだけのあいだ、住まわせてほしいそうだ。なんとかならんかね」


 「夏の間にあのゲドルが増えねえと、おれらは飢え死にだあ!」


 ラディラが、大声を張り上げる。ほかのトロールたちもそうだ、そうだと声を発した。


 「それに、あいつら・・・・はえらい気まぐれで、追っ払ったりなんかしたら、しばれく出てこねえんだあ! いまはもっと西のほうにいるから、そこまで狩りに行ってるう。夏は狩らねえ。そっとしておくんだあ。じゃねえと、増えねえからなあ。そんで、来年の夏によお、あいつらが戻ってこなかったら、西にもいなくなっちまうぞお! じょおだんじゃねえんだあ! あの草原エルフがしでかしたことは、とてもとても許せるもんじゃねえ! なにが、しばらく住まわせてほしいだ! だいたい、フイーデ山が火を噴いたのは、火の魔王を倒したそのナントカ魔王のせいだろお!? じゃあ、ヴィヒヴァルンで面倒見てやるのが筋ってもんでねえのかあ!?」


 思ったより正論をまくしたてられ、ルートヴァンが苦笑した。

 「だから、そこを曲げて頼んでいるのだ」

 「おめえじゃ話になんねえ! 魔王を出せえ!」


 「たわけ! いかにこちらが頼みごとをしているとはいえ、魔王様が貴様らと直接話などせん。わかるだろう……」


 「私なら、かまいません」


 そう云ってストラが前に出た。今までとは打って変わった雰囲気に、レラルヴォやエランサらも、意表を突かれて声を失った。というより、あれ・・が魔王だったとは……!?


 「御意」

 即座にルートヴァンが胸に手を当て、礼をしながら後ろに下がる。

 「お、おめえが魔王だってえ!?」


 まったく気配がなく、魔力すら感じず、まるで置物が動いて・・・・・・いるような・・・・・感覚に、ラディラも戸惑う。魔族ですらない。まったく正体不明だった。


 「そうです」

 「……!」

 象嵌めいた異様な視線に、ラディラは怯んだ。


 「あ……新しい魔王は、どう思ってるんだ!? おめえが火の魔王を倒したせいで、山が噴火したんだぞお!」


 「私が前魔王を倒さなくとも、いずれ山は噴火していたでしょう。今回の噴火に際し、因果関係があることは認めます。そのため、調停の役を請け負いました」


 「竜が戻らなかったら、どうするつもりなんだあ!?」


 「あくまで推定ですが、アデラドマ草原エルフたちの行動を空間記憶により次元探査したところ、極狭量範囲においてのみ、1回だけ、それも竜が彼らの飼育する家畜である毛長牛カスタを脅かしたためにやむなく一時的に追い払った模様。したがって、継続的虐待的に脅かしていたわけではなく、また、追われた竜も離れた場所で無事に繁殖しています。したがって、次年は、草原エルフたちのいる周囲には戻ってこないでしょうが、比較的広範囲においては、影響は最小限と判断します」


 「……な、なんだってええ!?」

 トロールたちが狐につままれたような顔つきとなり、ストラを凝視した。


 「ゲヒッシィッシシ……! ストラの旦那の独り言を初めて聴いたもんは、みんなああなる・・・・でやんす」


 プランタンタンが、少しだけ不敵な笑みを浮かべてつぶやいた。


 「すなわち、アデラドマ草原エルフたちにも行動範囲を限定させ、それを遵守させることにより、最低限の影響で共存は可能と判断します。また、さきほど説明した通り、エルフたちは永年えいねんにわたって移住するのではなく、数十から数百年単位ではありますが、アデレ平原の環境が戻り次第、この地を去ると確約しています。それを考慮し、どうか、アデラドマ草原エルフ達の願いを聞いてやっていただきたいと思います。如何でしょう」


 「……いや……いかがでしょう、ったってよお……」

 ラディラが、顔をしかめた。

 「巫女様、どうすんだ?」

 「巫女様よお!」

 「云いなりかよ、巫女様あ!」

 「なんとか云えよおお!」

 他のトロールたちが男女ともヤイヤイと騒ぎだし、ラディラも決断を迫られる。

 「分かったあ! 条件がふたっつ、あるう!」

 「何でしょう」


 「ダジオンのみんなはあ、きっと魔王が強くて、次の大明神様になるっつうことで従ったんだろお? ピオラよお」


 「そおだあ! とんでもねえ強さだあ!」


 「じゃあ、それをおれらにも見してもらおうじゃねえかあ。だから、5人勝負で5人抜きして見せれえ! 魔王だけじゃねえ。仲間全員でだあ!」


 おおお……と、トロールたちが響鳴どよめく。

 「フ……造作もないことだ」

 ルートヴァンがほくそ笑んだ。

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