第15章「嘆きと大地の歌」 2-10 ラディラの巫女様
そのさらに4日後。
峻厳なゲーデル山脈の巨大な谷間に、ゲーデリ・トライレン・トロールたちの集落があり、昼前ほどに一行が到達した。
「ダジオンと似たような場所でやんす」
プランタンタンが、懐かしそうに眼を細めた。
「やっと着いたか。まずは、休みたいところだが……」
さすがのルートヴァンも息を切らし、さらに疲労困憊のフューヴァたちや、慣れない登山で足をさすり、また大きく肩を揺らしているホーランコルたちを見やった。
「こっちだああ!」
集まって珍しそうに一行を見やる野次馬をかき分けて、エランサや他のトロールが一行を案内した。
「休ませてもくれんか……」
ルートヴァンが苦笑し、なんとか一行を励ましつつ、後に続いた。
「エランサよお、だれだ、そいつらはあ」
集落の中央広場のようなところに控えていたさらに大柄で屈強なトロールの前に、まず一行は通された。
「ダジオンのピオラが来たんだあ。こっちは、火の魔王を倒した新しい魔王と、その御付のものだとよお」
「火の魔王を倒しただとお!?」
大柄なトロールも、眼を見開いて驚愕する。そこでルートヴァンが前に出て、
「僕はエルンスト大公ルートヴァン、異次元魔王様の第一の使途にして、総代理だ。君が、族長かね?」
「レラルヴォだあ。こっちがオレウガワとカルムシュ、そっちがエランサ。4人で、ゲーデルをまとめているう」
そこでレラルヴォがピオラを見やり、
「なんで、こんな連中を連れてきたんだあ!?」
「ウチの魔王サマがよお、新しい大明神サマになるんだとよお。ダジオンは、みんな新しい大明神サマにしたがうことにしたあ。ヴォィイの巫女サマがそうきめたあ」
「巫女様があ!?」
レラルヴォを含め、一様にトロールたちが息を飲んだ。
「だから、ゲーデルも巫女サマにはかってくれえ」
ゲーデリ・トロールたちが唸りつつ、
「わかったあ。こっちだ!」
レラルヴォが歩き出し、取り巻きも続いた。
ピオラがそれに続き、ルートヴァンたちも続く。
谷間を端まで歩き、木々や枝葉をそのままを組み合わせたような、小屋なのか巨大な生き物の巣なのか、よく分からない物体の前まで来た。
「ラディラの巫女様よお!」
レラルヴォの声に、
「おお、分かってるよお!」
比較的若い感じの女性の声がし、ダジオンと同じく、大きな骨組みの木々がひとりでにひん曲がって出口が出現。原始的な自然魔法の一種であり、ルートヴァンやキレット、ネルベェーンが珍しがって瞠目している中、中からゲーデリ・トライレン・トロールの巫女が出てきた。
ちなみにピオラ達はダジオラ・トライレン・トロール、北極圏に近いアウローラの一族はアウローラル・トライレン・トロールという。みな微妙に文化や習俗が違うが、同種である。ピオラやエランサのように、厳冬期を利用して互いにたまに行き来をし、血が濃くなりすぎるのを防いでいた。
巫女はピオラより少し背が低く、戦闘種ではないので華奢だが、むしろより豊満だった。プランタンタンは、ダジオンで出会った巫女よりずいぶん若いと感じた。じっさい、人間年齢で云うとダジオンの巫女ヴォィイは50歳前後だが、ラディラは30歳前後といったところだ。長い黒鉄色の髪をまとめ、動物の骨や金属、宝石で作った髪飾りをし、顔や体に様々な文様のペイントを施している。入れ墨ではないのは、トライレン・トロールの皮膚を貫く針が無いからだ。子が2人いる。しかも、当人たちは知らないが、ピオラの又従妹にあたった。
「巫女様あ、こちらの魔王が、話があるんだと!」
「分かってる。代表の方は、どちらだあ?」
ラディラ……本名は、rrラbnデrtッぺklパッカrrデlrィsaラというのだが、ピオラと同様に人間やエルフには発音不可能であり、また便宜上このように記しているだけで、本当は文字起こしもできない……が、張りのある肌を寒風に震わせてルートヴァンらを澄んでいるが鋭い瞳で見据える。
なお、族長のレラルヴォや副族長のエランサたちも、本名は同様だが記載は略する。
「代表は僕だ」
ルートヴァンが、トロールたちに紛れて前に出た。ルートヴァンも背の高いほうだが、トロールたちに囲まれると棒きれのようだった。
「話ってのは、ヴィヒヴァルンの草原から来たエルフたちのことだろお?」




