第15章「嘆きと大地の歌」 2-9 説明
「話が早いじゃないか」
オネランノタルもニヤッと口元をゆがめた。
「後ろの連中はなんなんだああ!?」
エランサが、少し語気を強めて叫んだ。
「だからああ、次の大明神サマとお! 彼方の閃光の番人だああ! あと、ヴィヒヴァルンのタイコーとお、他の仲間だあああ!!」
「彼方の閃光の番人だってえええ!?」
まず、そんな驚きの声がし、
「次の大明神様って、なんなんだよお、おめえ!!」
「いいからああ、とにかく話があるんだよおおお!!」
トロールたちが遠目ながら互いに見合い、少しずつ一行の前に集まった。
「おお! ピオラよおお、でっかくなったなああ」
みな、ピオラに負けず劣らず背が高い。いや、男3人はピオラより頭1つ大きい。3メートル近くある。女も、ピオラに負けないほどの背丈だ。そして男は筋骨隆々だが、ギリシャ彫刻のように均整がとれ、見せる筋肉のボディビルダーのようではない。女もピオラに負けず劣らずの筋肉と豊満さだ。みなこの寒さで竜革の最低限の下着のような姿で、ほとんど全裸に近い。
「久しぶりだね、エランサ」
オネランノタルが宙に浮かんでそう云った。
「おおお、ほんとに番人だあ! でも、少しちっちゃくなってねえかあ?」
「いろいろあってね! 再生中さ」
そしてオネランノタルが、皆を紹介した。ピオラが説明するより早いと思ったのだ。
「こちらが、タケミナカトル大明神に成り代わって世界を支えようとしている、ストラ氏さ! ストラ氏のおかげで、私も信じられないような経験を積んでいるんだよ!」
云われて、トロールたちが目を丸くする。ストラは半眼無表情でつっ立ったまま、小首をかしげて明後日の方角を凝視していた。
「気にしないで! こちらが、ヴィヒヴァルンの王子大公だよ!」
ルートヴァンが毛皮のフードを取り、不敵な笑みを見せた。
「こっちの3人は、ストラ氏の従者だよ!」
プランタンタンが珍しそうにトロールたちを見あげ、前歯を見せながらピスピスと鼻を鳴らした。フューヴァとペートリューは息も絶え絶えで、それどころではない。
「こっちの3人は、ストラ氏に従う戦士と魔法使いだ! あと、この2人は南方の出身で、魔法使いの中でも珍しい魔獣使いだ!」
「……そおかあ。ちょっと、まだ信じられねえけど……番人が云うならなあ」
エランサが、泉色の眼でストラを見つめながらそう云った。
「大明神サマは、つっええぞお。魔王だかんなあ」
ピオラが自慢げにそう云い、
「魔王おおだああ!?」
エランサを含め、トロールたちが眉をひそめた。
「火の魔王よりつええのかよお?」
「もちろんだよ!! そのフィーデ山の火の魔王レミンハウエルを倒して、魔王号を引き継いだんだからね!」
オネランノタルがそう云い、トロールたちが眼をむいた。
「たっ……倒しただってええ!?」
「だから、フィーデ山が噴火したんだ。……と云っても、ここからじゃよく見えないか……」
エランサが唸りながら何度もうなずき、
「で、ピオラはいいとしてよお……魔王とあんたたちは、何の話だあ?」
「それに関しては、僕から」
オネランノタルに代わり、ルートヴァンが前に出た。
「ヴィヒヴァルンのエルンスト大公ルートヴァンである。実は……この山脈の山麓に、エルフたちがやってきただろう」
言語調整魔術でルートヴァンがそう云ったとたん、トロールたちの目つきが変わった。
「あんたたちい、あのエルフに頼まれてきたんだなあ……!?」
「まあ、そういきり立つな……話をしたいんだ」
「話なんかねえ! ピオラよお、こいつらも里に入れてくれっつうんなら、おめえも入れるわけにはゆかねえぞお!」
「なんだよ、そりゃああ!!」
ピオラも鼻をしかめて牙をむく。
「巫女サマの決定なのかあ!? そりゃああ!!」
「いやっ……」
ピオラにそう云われ、エランサが言葉に詰まった。トライレン・トロールは、族長はいるが宰相のような役割であり、重大事項は全て巫女が専決決定する。
「まずは、巫女サマにとりはからってくれえ。それからだあ。ダジオンはそおだあ。ゲーデルはちがうのかよお?」
「ちがわねえ!」
エランサではなく、他の男のトロールが仏頂面でそう云い、
「こっちだあ!」
岩場を歩き始めた。




