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第15章「嘆きと大地の歌」 2-7 ルヴィラーホッス

 ルヴィラーホッスは、まだ583歳の若酋長だった。先代の死去により皆の推薦で酋長になってから8年目にフィーデ山の大噴火に見舞われ、なんとかかんとかアデラドマエルフたちをまとめ、率いてきた。


 集落の中心のひときわ大きな酋長の天幕テントは、集会所も兼ねていた。天井も高く、ピオラも余裕で入ることができた。ただし、乾かした牛のフンを燃やすストーブのせいで、たちまち真っ黒い魔力のローブマントをひっかぶり、逆に魔力冷房で身体を冷やす。


 いきなりピオラが真っ黒い塊になったのでエルフたちは驚いたが、

 「気にするな」

 とルートヴァンが云ったので、なんとか気にしないようにする。


 牛の乳を微発酵させた飲み物を出し、改まってルヴィラーホッス、ルイナステス、エルチャポンスが並んで毛長牛カスタの毛を編んだ絨毯に座り、ルートヴァンらと会談する。また、その他の有力部族の族長や一族らもその後ろに控えた。


 「改めまして、私はアデラドマを代表する、ルヴィラーホッスに御座ります。こちらは、副酋長の……」


 「ルイナステスで御座ります」

 「また、こちらは、既に御挨拶をすませたとは存じますが……」

 「改めて、エルチャポンスで御座ります」


 「エルンスト大公ルートヴァンだ。久しいな、ルヴィラーホッスよ。もっとも、エルフにとって5年やそこらは、数日にも等しいだろうが」


 「左様なことは……」


 「この度は、ヴィヒヴァルンの王子としての話でもあるが、それ以前に、僕をふくめ我らはみな異次元魔王ストラ聖下の配下として話をする。異次元魔王様は、このとおり人間もエルフもトロールも魔族すらも、等しく配下になさる偉大なる御方だ」


 アデラドマエルフたちが、ルートヴァンの後ろの面々を珍しそうに見やった。ちなみに、だれが魔王なのか未だによくわからず、緊張していた。ストラは半眼のまま胡坐でプランタンタンの隣に座り、微動だにせずまるで只管打坐の仏像だった。何の気配もない。むしろその気配の無さが異様で、ルヴィラーホッスは、まさかあの御方が……? と、うすうす分かりかけていた。


 「さて、ルヴィラーホッスよ」

 「ハハッ」


 「なにやら、ゲーデル山のトライレン・トロールと揉めているとのことだが……あらかじめ、このエルチャポンスより話は聴いている。そして、我らの仲間のトライレン・トロール、ピオラの提言により、その原因も推測できている」


 「なんですと……それは、いかような」


 「おまえたち、夏の間に、このあたりに住むゲドルを追い払ったというが、そうなのか?」


 「はい。なにせあの名も知らぬ大きなゲドルは大食らいで……ここらじゅうの草を貪り食うので御座ります。毛長牛カスタの干し草を用意するため、仕方なく……」


 「それが原因らしいぞ」

 「そうなのですか?」


 「だが、それがどうしてゲーデル山のトロールたちの怒りに触れたのかは、分からん。こればかりは、トロールたちに聴いてみないとな」


 「殿下、御願いできますでしょうか。我らがよそ者だとは分かっております。アデレの大平原が元に戻ったら、我らも平原に帰りますので、それまでのあいだ、なんとかここに住まわせてもらいたいのです。ここがトライレン・トロールたちの土地だとは、知らなかったのです」


 「土地っつうよりよお、縄張りなんだあ」


 いきなり真っ黒いカーテンゴーストみたいなピオラがそう云ったので、みな驚きつつ、


 「縄張り? なんのですか?」

 「狩りのだあ」

 「狩り……」

 アッ……という顔で、エルフたちが絶句した。


 「ゲーデルの仲間の獲物を、あんたたちは追い散らかしたんだあ。それに、ゲドルは夏に子を生むから、草を奪われたら子が育たねえ」


 「……!!」

 そういうことか、と、エルフたちが唸り声を発した。


 「そ……それでは、我らがここに住むのは、トロールたちにとってはとうてい承服しかねること……!」


 「まだわかんねえ。この広さだあ。見た感じ、あれっくらいの牛が食うくらいの草は、たっぷりあるとおもうんだけど、なんで怒ってあんたらを許さねえのか……聴いてみねえと」


 ピオラは、既にアデラドマエルフたちの飼っている毛長牛カスタの数を、ザッと確認していた。


 「そういうことだ。とにかく、まず我らが連中の話を聞いてみるので、おまえらも譲歩できることは譲歩するよう、努力するのだ」


 「殿下、よろしゅう御願い申し上げ奉ります」


 ルヴィラーホッスがそう云って絨毯に深々と礼をし、他のエルフもいっせいにそれに従った。

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