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第15章「嘆きと大地の歌」 2-6 臨時集落

 「な、なるほど! 確かに、我らとて毛長牛カスタを荒らされたら怒りもする……!」


 急にすべてがつながり、エルチャポンスがダラダラと額に汗をかき始めた。原因がアデラドマエルフ側にあったとすれば、調停は難航するだろう。


 (どうしたものか……!)

 エルチャポンスが急に黙り出し、その後はみなも押し黙ってひたすら歩いた。


 そうして3時間ほども歩き、午後も遅くなってきたころ、アデラドマ草原エルフの集落に到着した。


 もともとアデラドマ草原エルフは我々の世界のモンゴルのゲルのような、大きな移動式天幕テントで生活していたが、いまは慣れない土木作業で天幕テントごとに斜面を削って平らにし、山麓でなんとか集落を形成していた。荒野の低木を使った粗末な柵で囲って、かろうじて毛長牛カスタも維持している。人口は約3000人だった。


 「殿下、すみませんが、さきほどの魔力の紋章を、再び出してくださいませんか。ピオラ殿がおりますし、おそらくみな騒ぎだすかと……」


 「フ……なるほど、そうだな」


 しかし、集落から出迎えたエルフたちが、遠目にピオラを見やって、既に騒いでいる。


 が、状況が読めない。副酋長がピオラを捕虜にしたのか、冒険者を捕らえたのか、冒険者がピオラを捕らえているのか……それにしては、みな普通に歩いている。


 「御屋形様、ありゃあ、いったい……?」

 そう云われ、体格の良い初老の酋長ルヴィラーホッスが眼を細める。

 「分からんが……あの、先頭の魔術師はもしかして……?」


 ルヴィラーホッスは、シラールやヴァルベゲルと面識があり、むかし、ルートヴァンとも会ったことがある。


 そこでルートヴァンが再び、魔力で空中に紋章を掲げた。

 「あ、あれは……!」

 ルヴィラーホッスが息を飲んだ。


 「まちがいない! あれは、ヴィヒヴァルンのエルンスト大公ルートヴァン王子殿下だ!」


 「なんですって!?」

 他の者も、一様に驚愕。

 「おい、殿下を御迎えせよ! エルチャポンスらが、殿下と接触したのだ!」

 「で、でも、あのトロールは、なんなんです!?」

 「知るか!」

 臨時の集落が蜂の巣をつついたようになって、草原エルフたちが右往左往した。

 「ただいま警邏より戻りました!」


 みな集落に入り、エルチャポンスが前に出て、ルヴィラーホッスと、先輩の副酋長であるルイナステスに状況を報告する。


 「途中、このとおりヴィヒヴァルンの王子殿下と遭遇いたしまして……殿下は、フィーデ山の火の魔王を倒し、魔王号を引き継いだイジ……魔王と共に、世界中の魔王を倒す旅をなさっているとのこと」


 「なんと!?」

 ルヴィラーホッスらが、眼をひんむいてルートヴァンを凝視した。


 「ま、そういうことだ。こっちのトライレン・トロールは、我らの仲間だ。ゲーデルではなく、もっと北方のトロールだ。所用により、このたびゲーデルに立ち寄ったのだ」


 「は、はあ……」


 ルートヴァンと、腕を組んでふんぞり返るピオラを交互に見やって、みな眼を白黒させた。


 「御屋形様、それで、殿下とこちらのピオラ殿と、魔王様に、我らとゲーデルのトライレン・トロールらとの仲介を頼もうかと思い、来ていただいた次第です」


 「仲介……」

 そこでルヴィラーホッス、

 「ちょっとまて、いま、おまえ、魔王様と云ったか?」

 「云いました」

 「ま……魔王、魔王がここにい、いるのか!?」

 「ええ、まあ……」


 エルチャポンスが、バツが悪そうに一行を振り返った。実は、まだ誰が魔王だかよくわかっていない。


 そこでルートヴァンが前に出て、


 「待て待て、酋長よ。なんにせよ、異次元魔王聖下はおまえたちとは直接御話にはなられん。すべて僕を通してもらう」


 「え……あ、はい。畏まりまして御座ります」

 「とにかく、詳しい話を聞かせてもらおう」

 「分かりました。どうぞ、こちらに……」



 アデラドマ草原エルフたちは、いわゆるカウボーイ集団で、毛長牛カスタの他にも毛長馬リャドフも飼っている。毛長牛カスタはこの斜面でもたくましく歩いているが、毛長馬リャドフはうまく走れずに、なかなか放牧管理に苦労していた。馬上弓と投げナイフと投げ縄の名手であり、最も牛の管理と戦闘に長けている者が酋長を務める。ただし、リーダーシップがあることが最重要条件であるのは云うを待たない。

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