第15章「嘆きと大地の歌」 2-5 調停
「それは、あたしには関係ねえよお! あたしは、ずうーーーっと北の、ダジオンから来たんだあ!」
それには、草原エルフたちも少し意表をつかれたように、
「え、トライレン・トロールって、ゲーデル以外にもいるのか!?」
「いるよお。こうやって、ときどき冬に行き来してるんだあ」
そこで、草原エルフたちが互いに見やってガヤガヤと話しだし、エルチャポンスが手を上げてそれを静かにさせた。
「殿下、そこで、我らとトライレン・トロールの調停の仲介を御頼みしたい! そのトライレン・トロールにも頼みたい! 我らは、いずれ平原に帰るから、それまでのあいだでよいので、ここで暮らさせてほしいのだ!」
「ふうむ……」
ルートヴァンが口をへの字にして、うなった。
どちらにせよ、ピオラがそのゲーデル山のトライレン・トロールに合流するためにここに来たのだし、ゲーデル山の上で幻の封印魔術都市マーラルを探さなくてはならない。そのためにはトライレン・トロールの協力も必要だろう。
ルートヴァンがふり返って、
「みんなは、どう思う? 僕としては、ヴィヒヴァルンとアデラドマ草原エルフの長年の縁もあるし、引き受けてやりたい思うのだが……さすがに、僕の一存ではね」
「調停くらいは、やってみてもいいんじゃないか? 成功するかどうかは、別問題だけど」
真っ先にそう云ったのは、オネランノタルだった。
「ルーテルさんとオネランノタルがそう云うんなら、アタシらに異存はねえぜ。そうだろ? みんな!」
フューヴァの言葉に、みながうなずく。
「ストラさんは……」
「いいよ」
「いいってよ!」
さすがフューヴァの仕切りだとルートヴァンが満足げに微笑み、
「いいだろう」
「おおっ……!」
アデラドマ草原エルフたちが、響鳴いた。
「で、では、みんな、我らに続いて来てくれないか。酋長に引き合わせたい」
一行は、エルフたちに続いて山麓を移動した。
山麓を斜めに横断しながらゆるやかに斜面を登っている間も、ゲーデル山より吹き降ろす風が一行を襲った。
「ここは、いつもこんなに風が強いのか……!?」
ルートヴァンのつぶやきに、エルチャポンス、
「冬は、こうみたいです。春から秋にかけては、この風がピタリとやみ、一面に草が伸びますので、土地が斜めなのを考慮すれば、毛長牛の飼育にぴったりです。しかも、その時期はトロールたちもずっと山の上に行ってしまうので、問題は無いと思うのですが……」
「しかし、トライレン・トロールたちは、嫌がっているのだな?」
「ハイ……」
そこで、ルートヴァンが後方を歩いているピオラを呼んだ。ピオラが大股でルートヴァンに近づき、
「なんだあ、タイコー」
「ピオラよ、トライレン・トロールは、夏場はもっと山の上に行くというが……」
「夏はあっついからなあ」
「そのあいだ、エルフたちにここを使わせてやれば良いのに……と、我らは思うが、何を嫌がっているのだと思う?」
「知らねえよお。ゲーデルに来るのは、初めてだからなあ」
あっさりとピオラがそう云い、ルートヴァンがそれもそうだと口をへの字に曲げた。だが、
「でも、たぶん竜がらみじゃねえかあ?」
「竜だって?」
エルチャポンスがそう云ったので、ルートヴァン、
「なにか、心当たりでも?」
「確かに、ここいらには、草を食うでかい竜がたくさんいるんですよ。冬のあいだはもっと西のほうへ移動しているんですが、夏場はここいらにも。冬にそなえて干し草を作るのに邪魔なんで、追っ払ってましたが……」
「きっと、それだあ。ゲーデルの上から観ていたんだあ」
「なるほど……」
エルチャポンスが、やけに素直に得心した。
「し、しかし、あの竜と、トロールたちに何の関係が?」
「それこそ、知らんよ」
ルートヴァンがそう苦笑。だがまたもピオラ、
「あたしらの獲物は、竜ばっかりだからなあ。きっと、ゲーデルの仲間もそうなんだろお? それを、荒らされたと思ったんじゃねえのお?」




