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第15章「嘆きと大地の歌」 2-4 げっつ

 3人をよそに、じわじわと接近してくる40人ほどの草原エルフ達に向かって、ピオラが牙をむいた。


 「なんなんだよお、おめえらあ!! いきなり矢なんか打ってきやがってええ!!」

 「まあ待て、ピオラよ。そういきり立つな。ここは、僕が話をつける」

 そう云ってルートヴァンがピオラをなだめ、前に出た。

 「この紋章の意味が分かる者がいるはずだ。話を聴こう」

 3人ほどのエルフが、前に出てきた。


 「おれは、アデラドマ草原エルフ副酋長の1人、エルチャポンスだ。あんた、本当にヴィヒヴァルンの王子大公殿下なのか!?」


 それは、流暢なヴィヒヴァルン語だった。アデラドマエルフは、アデラドマエルフ語の他にヴィヒヴァルン語もペラペラだった。もっとも、言語調整魔法が効いているので、みな、云っていることが分かった。


 「本当も何も、この紋章は僕じゃないと出すことはできん。そんなことも知らんのか」


 「知ってるが……殿下が、どうしてこんなところで冒険者みたいことをしているのだ?」


 「異次元魔王聖下に着き従い、救世の旅の御供をしている!」

 「魔王!?」

 エルチャポンスが茶金の眼をひんむいた。

 「魔王って……どいつが!?」


 必然、一行がいっせいにストラを見やったが、ストラはプログラム修復モードだったので、両足を少しガニ股に開き、両手をだらしなく下げ、猫背気味に小首をかしげて半眼で虚空を見やっている。


 「……どいつだ!?」

 エルチャポンスがもういちど云い、ルートヴァン、


 「どいつでもいいだろう! 僕じゃあないし、あのトライレン・トロールでも、魔族でもないぞ。それに、それがどうかしたのか?」


 「レミンハウエルを倒し、フィーデ山を噴火せしめたやつがいるという。新しい魔王だと」


 「その通りだ。我がヴィヒヴァルンは、レミンハウエルより魔王号を引き継いだ異次元魔王様に帰依し、新たなる世界構築のため、各地の魔王を退治して回っているのだ!」


 「なんと……!!」

 エルチャポンスを筆頭に、草原エルフ達がザワザワと囁きあう。

 その中の1人が、

 「エルチャポンス様、あの3人組、私は会ったことが御座います!」

 そう云って前に出た。「3人組」とは、プランタンタンたちだ。

 そこでプランタンタンも、


 「あつ、おたくさんは、フィーデ山が火を噴いたときに、草原であっしたちを見つけた御仁の1人でやんすね!?」


 前に出たのは、次元窓でフィーデ山の地下洞窟より脱出した3人を発見した見回りの草原エルフの隊長だった。その様子は、第5章の最終盤で記してある。


 「よく覚えてるな、おまえ」

 フューヴァが感心してつぶやいた。


 「そうか、あの時の魔王を倒したというおまえたちの主人が、新たに魔王になったのだな!?」


 「その通りでやんす。イジゲン魔王のストラの旦那でやんす」


 プランタンタンがそう云ってストラを見やったが、ストラは半眼無表情のまま両手の人差し指をゆるく草原エルフたちに向け、片足を上げて、


 「げっつ」

 などと云ったが、誰も聴いていなかった。

 「……殿下、であれば、頼みがある」

 「なんだ?」


 「我らアデラドマ草原エルフ、盟約とはいえ、ヴィヒヴァルンのために長年、南部アデレ平原の国境を管理してきた。その功は、御認めいただけるな?」


 「功もなにも、そのために平原を自由に使っていいという対等の盟約のはずだったが? とはいえ、王国の役に立ってたことは認めよう」


 「では、御願いする。我らは、そのレミンハウエルを倒したという新たなる魔王のせいで、草原を奪われた。草原は一面にひざ下ほどまでも灰が積もり、草木は死に絶え、泉や川も全て埋まったため、とても毛長牛カスタを飼うような状況ではなくなった。アデレの大平原が元通りになるには、早くて数十年、遅ければ数百年はかかるだろう。そのため、我らはこの荒野に逃げた。しかし、この荒野はとてもではないが牧畜ができるような場所ではなく……なんとか、このゲーデル山麓一帯がアデレの草原に近い環境だった」


 「では、ここで平原が元通りになるまで過ごすしかあるまい。聖下が関与せずとも、いずれは噴火したのだ」


 「そのつもりなのだが……」

 エルチャポンスが、そこでピオラをチラチラと見た。

 「なんだあ、なにか文句があるのかあ!?」

 ピオラがカチンときて、目を吊り上げて声を荒げた。


 「ゲーデル山のトライレン・トロールが、我らを排除しようと、襲ってくるのだ!!」

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