第15章「嘆きと大地の歌」 2-3 アデラドマ草原エルフ
が、ルートヴァンはゲーデル山岳エルフを知らなかったので、
「はて……ここいらにいるとすれば、ヴィヒヴァルン南部にアデラドマ草原エルフというのがおりましたが、フィーデ山の噴火ののち、残らず消えてしまったということです。それが、ここまで逃げてきている……と?」
「分かりません」
「フ……監視しているということは、放っておけば向こうから接触してくるでしょう。その際は御任せを!」
「分かりました。では」
云うが、ストラはもう黙りこんで修復モードに戻った。おそらく、このゲーデル山登山の旅が終わるころには、プログラム自己復旧は完了するだろう。
翌日、一行が荒涼とした旅を再開し、少しずつゲーデル山の道なき道を踏破し、標高を上げていっていると、
「大公、なんか、包囲を狭めてきている集団があるよ」
流石にオネランノタルも気づき、浮遊したままルートヴァンの耳元でささやいた。
「フ……そのようですな」
とはいえ、周囲を見渡してもまったく見えない。一見、隠れるようなところも無いが、見事に姿を隠している。
「さすが、草原を出てもエルフだな」
ルートヴァンが感心した。
「どうするんだい?」
「用があるなら、向こうから、接触してくるでしょう」
「しかし、ピオラの機嫌が悪いんだよ」
「ピオラの?」
気づいていなかったルートヴァンが、先頭を行くピオラの真っ黒いマント姿を見やった。
「云われてみれば、周囲を睨めまわす表情が、硬いですな」
「だろ? なんか、敵意がピオラに集中し、それを敏感に感じているようだよ」
「ほう……敵意が。どうしてまた」
「知らないね。でも、仲間のトライレン・トロールたちが、何か揉めごとに巻きこまれているとかなんとかって、云っていただろう」
「確かに……すると、揉めごとというのは、エルフとトロールとのあいだに?」
ルートヴァンが、そう云った時であった。
緩やかな斜面を行く一行の周囲……まさに四方八方から、強力な長弓の矢がいっせいに飛んできた。
「敵だぞお!!」
真っ先にそう叫んだピオラが、魔力のマントで身を覆って楯とする。ホーランコルやキレット、ネルベェーンも身構えたが、プランタンタンたちはよく分からないのと、どうせルートヴァンやストラがなんとかするだろうと思って緊張感もなく雲が吹き流されている薄青い空を見あげた。
案の定、ルートヴァンの防御魔法が自動で発動。ドーム状に展開した上に、さらに個別に楯が発生して、数十もの射撃を全て防いだ。
無効化された大きな矢がボトボトと落ちてきて、それを見やったルートヴァン、
「……見たことがある。アデラドマエルフたちの使っているものだ」
「どうする?」
「ま、せっかくですから、話しくらい聴いてやりましょう」
云うが、ルートヴァンが白木の杖を掲げ、魔力で上空に何やら大きな紋章を掲げた。それも、複数だ。
「なんだい? これ」
オネランノタルも四ツ目で見あげる。
「ヴィヒヴァルンの国章と、王家の紋章、それに、一番下は僕の紋章です」
「草原エルフとやらが、それを知っていると?」
「連中、ずっと我が国と盟約を結んでおりましたので、上の者は知っているでしょうな」
その通りだった。
気がつけば、いままでどこにいたのかというほど、周囲にエルフがゾロゾロと現れた。
毛長牛の毛織物や革の頑丈な衣服を着て、日焼けをしたような薄褐色肌に茶金髪、同じく茶金や濃い茶色い眼をした、アデラドマ草原エルフたちだった。
「なんだなんだ? ルーテルさん、どうなってるんだよ、こりゃあ?」
フューヴァが、眼をむいて素っ頓狂な声を発した。
そんな中、プランタンタンが、
「こいつら、前に会ったことあるでやんす」
「はあ!? どこでだよ」
「ストラさんの術でフィーデ山から脱出した後に、ヴィヒヴァルンの草原で出会った、草原エルフですよ」
ペートリューが水筒を一気に傾けて、やけに冷静に云い放った。帝都のリヤーノ酒は、オネランノタルの次元倉庫に蒸留所や卸商も腰を抜かすほどの量を備蓄してある。
「そういや、そうだな。こんな連中だったぜ。すっかり忘れてたけどよ」




