第15章「嘆きと大地の歌」 1-29 名残の星
リースヴィルから同様の報告を受けたルートヴァン、
「城も城下も、きれいさっぱり無くなったようで」
「身の程をわきまえないとは、このことだ! くだらない個人的な復讐心で自身も領地も家臣も領民も滅ぼすとは、滑稽にもほどがあるよ!」
「巻きこまれたものは、バカに仕えた不運というやつですな。さて……」
遠眼鏡片手に、ルートヴァンが、眼をこすった。
「あとは、適当でいいでしょう」
「だめだめ! 田畑こそ特大のやつで燃やしつくさないと!」
「御任せします」
ルートヴァンが大あくびで天幕に戻ったので、フューヴァとプランタンタンも無言で自分たちの天幕に戻った。ピオラはとっくに飽きて爆睡している。
ホーランコルとキレット、ネルベェーンは興奮して眠れそうになかったので、オネランノタルに最後までつきあった。
「オネランノタル殿、あと、幾つ……その、星を落とすのですか?」
キレットがそう問い、オネランノタルはあっさりと、
「3つだよ」
「3つ……」
「もっと多いほうがいいかな?」
「い、いいえ……! 充分かと」
云うが、これまでで最大の光と音が周囲を揺るがし、バクス公の領地の半分を焼き尽くす隕石が北へ向かって落ちた。
正直、これだけの隕石が集中して落ちて、被害がバクス公領だけに収まるはずがなかった。
周辺緒州も少なからず火災や衝撃波の被害を受け、またバクス公領から巻き上げられた土砂や火事の煙が厚くホルストンを覆いつくした。逆に冬だったので、被害が最小限に食いとめられた。これが農作業の時期であれば、収穫に大打撃を与えていただろう。
国王ターヴ7世は、寝間着姿にコートを羽織ったまま、寝室で王妃と抱き合いながら一晩中恐怖に耐えた。あの隕石が、間違って王宮に落ちてこない保証はない。
(ま……魔王……これが……!!)
ホルストンは、春を待たずに、ヴィヒヴァルンと同盟を組むことになる。
朝になった。
「さあ、もう少し西へ向かって、南下しよう」
何事もなかったように、ルートヴァンが湯を沸かしながらそう云った。
「ピオラ、あとどれくらい歩くのだ?」
「そおだなあ」
ピオラが泉色の眼を細めて、南のほうを向いた。
その日は天気が良く、地平線の上に、微かにゲーデル山脈の山頂が連なって見えた。
「5日くらいじゃねえか?」
「ホントかよ……」
あくびをしながら、フューヴァがつぶやいた。
「南へは、どれくらい歩くんでやんす?」
乾パンをかじり、プランタンタンが聴いた。
「10日くらいかなあ」
「10日……」
プランタンタンも、薄緑の眼を細めて、南を見やった。自分が住んでいた場所の完全に裏側とはいえ、ゲーデル山だ。ゲーデルに帰ってきたのだ。
もっとも、グラルンシャーンの牧場を脱出してから、半年ほどしか経っていない。
ものすごく遠くには、いまだにうっすらとフィーデ山の噴煙が棚引いているのが見える。
大噴火を起こしたあの光景が、急に脳裏に浮かんだ。
(里は、どうなっちまってることやら……)
知りたいような、知りたくない(関わり合いになりたくない)ような……。
(ま、あっしは里を捨てたんでやんすから、どうでもいいでやんす。どこまでも……死ぬまで、ストラの旦那に着いていくだけでやんす。それだけ……それだけでやんす)
でも、もしかしたら、ゲーデル山岳エルフに会うかもしれない。かなり高いところまで、ゲーデル山を登るらしいから。
(会ったら、ちょっとだけ、聴いてみるでやんす……。でも、聴くだけでやんす。聴いたところで、どうしようもできないでやんすし……聴くだけでやんす)
それだけ。それだけだと、プランタンタンは何度も自分に云い聞かせた。
明るい空を、まだ、名残の流星がチラホラと現れては消えている。
2
「掃除」の終わった一行は、その後は特に問題なくほぼ獣道の街道を西進した。
その途中の夜、ルートヴァンの天幕で、オネランノタルとルートヴァンがバーレにいるらしい未知の魔王のことを談合した。
「バーレ王国の、未知の魔王のことですが……」
「私は帝国西方部に関してはまったく知らないんだけど……そもそも、バーレ王国ってのは、どういう国なんだい?」




