第15章「嘆きと大地の歌」 1-28 バクス公誅滅
そんな3人の心中を察したかのようにルートヴァンが云い、オネランノタルが甲高い声で笑った。
「殿下、いまの大きさと角度は、なかなか良かったと思います。目標のティトルは、完全に消滅しました。跡形もありません」
観測員のリースヴィルからさっそく報告があった。ティトル市は公爵領北部の主要都市で、人口約1万5000の交易都市だった。キノコ雲の下に直系10キロものクレーターが生じ、周辺の農村や森林も衝撃波でなぎ倒され、壊滅した。中心部は岩石が溶け、一部はマグマとなって真っ赤に焼けている。それが夜の闇に、不気味に浮かび上がっていた。
計画では、ティトルを皮きりに、同じく北部主要都市リーパー、バクス公のいるタンジェール城と城下町である領都ロスカサン、南部の穀倉地帯に2発、最後に、街道の玄関口、西部の主要都市レプフォーレに隕石を落とす。
「それも、今晩中にね」
オネランノタルが、含み笑いと共に云い放った。
「とっととやりましょう、徹夜は御免こうむりたい」
オネランノタルは寝なくてもいいのだろうが、ルートヴァンらはそうはゆかぬ。
「よし、次だ!」
云うが、また閃光が走り、天を裂いて火球が逆落としに北へ突き刺さった。
が、それは地平線すれすれで大爆発を起こし、遅れて、はるか南部のラネッツ荒野まで音が聞こえた。
「また失敗だ!」
オネランノタルがイラついて叫んだ。
「……いまのは、何がだめだったんだろう!? さっきと同じようにやったのに!」
「もしかすると、先ほど落としたやつより岩が脆かったのかもしれませんな」
遠眼鏡で空を見あげ、ルートヴァンが答える。
「そんなことにまで、気を使わないとだめなのかい!? 面倒くさいなあ!」
しかし、偶然にもこの爆発した隕石は、燃え盛る無数の破片を焼夷弾めいて公爵領にばらまき、領内の数十か所で野火や山火事を引き起こした。
「次だ、矢継ぎ早に行け!」
オネランノタルが興奮し、上空の幽鬼に命じた。幽鬼が魔力で宇宙空間に漂う岩石を引き寄せ、誘導しながらホルストンに落としてゆく。
また、雲の向こうで天が光った。
「今度も大きいぜ!」
フューヴァが目を細めて叫び、それが北に向かって隕ちる。
流星が闇に消え、そしてまた地平線が遠いオーロラめいた光を発した。
「……成功だ!」
バクス上空の幽鬼から報告を受けたオネランノタルが叫んだ。
「ちょっと、大きかったようですな」
「何だっていいだろ、どうせ討ち滅ぼすんだから!!」
「ま、そうですが……」
第2目標であるリーパーは、城下街ロスカサン、ティトルに次ぐバクス領第3の都市で、人口は約7000。手工業都市だった。そこに、長さ3メートルほどの細長い隕鉄が突き刺さり、大爆発した。この規模の街を破壊するには、確かに少し威力が過剰だったようだ。街ごと抉れて地下30メートルの岩盤層まで瞬時に融解、木端微塵となったうえに、近くを流れる大きな川とつながり、カルデラ湖のような丸い湖ができた。
その闇夜をつんざく遠い火柱をタンジェール城のテラスから凝視していたバクス公は、腰が抜けて座りこんだ。
「な……なんだ……これは……なん……なんだ……」
虚ろな目でそうつぶやき、
「御逃げください、閣下! 閣下!!」
と、家臣が揺さぶろうが起き上がらせようとしようが、虚脱して動けなかった。
逆に、長子バークス卿は、魔術師たちに緊急の非常照明魔法を煌々と焚かせ、急いで脱出の準備を進めていた。とにかく家族や家臣、それに街の人びとを城や城下より着の身着のままで脱出させる。幽閉部屋にいた二男のノルドーも、部屋から出し、避難させる。
「あ、兄上は如何なされるおつもりか!」
幽閉で憔悴したノルドーが叫んだが、
「父上を置いて逃げられん!」
バークスが毅然と云い放った。バクス領の名にちなんだ名を与えられただけある、傑物だった。しかし、
(このような恐ろしい相手に、父上は何をしていたのだ……!!)
さすがに父公爵が魔王に戦いを挑んでいたとは、想像もつかなかった。
「早く、父上を御連れし……!」
照明魔法の他、松明片手のバークスがそう叫んだとき、にわかに天空が明るくなるや、天を割るような轟音が鳴り渡り、真っ赤に焼けた岩が夜空を裂いて降ってきて……周囲が閃光に包まれた。
「またまた成功だ!!」
オネランノタルがそう云い、肩を揺らして笑う。




