第15章「嘆きと大地の歌」 1-27 メテオ
「だいたいは流れ星のまま燃えてしまうのですが、中には地上まで落ちるものも。しかし……」
「大きすぎたら、被害は公爵領だけじゃすまないよ。それに、どうやって狙って落とすつもりだい?」
「現地での観測員と、上空での誘導員が必要でしょうな」
「そうなるね」
というわけで、2日後……。
バクス公爵領上空に、リースヴィル少年(3号)と、オネランノタルの幽鬼めいた魔力分身が5体も待機していた。また、はるか上空にも、2体の幽鬼が漂っている。
「ルーテルさん、ナニやってんだよ、寒くねえの?」
夕食後、真っ暗な曇天をにらむルートヴァンとオネランノタル、ついでにストラに向かってフューヴァが不思議そうな声を発した。
その声に、プランタンタン、ホーランコル、キレットとネルベェーンも天幕から出てくる。ピオラは少し離れたところで寝そべっていたが、腕枕のまま空を見あげた。
ペートリューだけ、もう飲んだくれて寝ている。
「ああ、あいにく曇ってるけど……やっぱり、流れ星は夜のほうがきれいだろうと思ってさ」
「はあ? 流れ星?」
フューヴァがそう云うが、雲の上で閃光が走り、一帯が昼のように明るくなった。そして、その光が尾を引いて、はるか北へ落ちて行った。
その光景にフューヴァらがびっくりして、
「ルーテルさん、あれは……!!」
ルートヴァンとオネランノタルが、リースヴィルや幽鬼たちの報告を待った。
「……失敗だ、空中で爆発したようだ」
「ですな。意外に難しい」
「ルーテルさん!」
フューヴァの怒鳴り声に、ルートヴァンが笑いながら、
「ごめんごめん、ちょっと実験がてら、僕らを襲った畏れ知らずのマヌケに報復をしようと思ってさ」
「報復だあ!?」
フューヴァが叫んだとたん、2つめの光が雲の上で炸裂。そのまま北の方角へ突き刺さって消えた。
フューヴァと共に、プランタンタン、ホーランコルらも息を飲んだ。ガフ=シュ=インの惨状が、フラッシュバックする。
「いいのかよ……!」
ルートヴァンが魔力を観測する遠眼鏡を右目に当てて上空を見あげながら、
「……また失敗だ。なに、ガフ=シュ=インほどにはならないさ。試し試し、やってるからね。公爵領を壊滅せしめるだけだよ」
「だけって……!」
「しかし、腐っても魔王だったね、リノ=メリカ=ジントのやつは。こんな難しいこと、よくもまあ、うまく操作していたものだよ! しかも、あんな膨大な数をね!」
オネランノタルが意外にも大真面目にそう云って、四ツ目で天を見あげる。
その隣に立ってプランタンタン、両手を腰の後ろに組み、半開きの口に前歯を見せて曇り空を見あげ、
「……もう少し、真上から落ちてきていやあしたよ、あんな、横滑りみてえなやつじゃなく」
などと云うではないか。
オネランノタルがさも楽し気に、
「ちょっと、プランタンタン! 云うじゃあないか! あんな状況で、よくそこまで観察していたね!」
「たいていのエルフは、目がいいでやんす」
鼻息も荒く、プランタンタンが自慢した。
「だ、そうだよ、大公。上空のやつに、もう少し大きくて、急角度で落とせるものを誘導してもらうとしよう」
「ですな」
不敵な笑みのルートヴァンも、リースヴィルに何やら魔力通話。
それからしばらくして、3発めが光った。
大きい。
一帯が真っ白になり、そのまま、これまでとは違う角度で、ほぼ真上から真っ逆さまに北方へ落ちた。
それが地平線の向こうに消えたと思ったら、地表がうすぼんやりと明るくなった。
「……成功だ!」
オネランノタルが云い、ルートヴァンも満足げにうなずいた。ホーランコル、キレット、ネルベェーンが何とも云えぬ顔つきで、互いに見合った。いまごろ、ホルストン……いや、バクス公爵領は阿鼻叫喚だろう。
これが、魔王に逆らうということなのだ。
「ホルストンごと滅ぼさないだけ、慈悲深いと思ってもらいたいがな!」




